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『トイレと文化』考

"清潔・不潔は多くの場合その民族・国民の衛生観念によって決まるものであり、それに対して、もっと観念的で宗教的な信仰と深くかかわっているのが浄・不浄といえよう"1993年発刊の本書は、文化とは【物資と技術だけでないこと】前提を疑うべき事をトイレや排泄の歴史や事例で教えてくれる。


個人的には、帯に書かれた人類史の歴史を考えれば比較的新しい概念とも言える【排泄行為はなぜはずかしいのか】という問いに興味を、また冒頭で著者が疑問視している様に、確かに犬や猫といった動物に比べても排泄行為に対する文化人類学としての研究については目にする機会がなかった事から本書を手にとったのですが。

自分たちの民族と文化を中心に他の民族を下位に位置付ける考え方【エスノセントリズム】に対して、進んだ文化や遅れた文化があるのではなく、それぞれの民族が住んでいる『環境に適応した歴史観で形成された異なる文化が在るだけ』だとする【文化相対論】の視線で紹介される世界各地の排泄行為や羞恥心、清潔感やお尻の拭き方、トイレの変遷、糞尿の利用法は本当に様々で。多少怪しい部分や、そもそも話題として他者に共有するには誤解をまねきそうですが、それでも雑学的に単純に面白かった。

また、個人的にハッとさせられたのは、自然環境と共に生きていた衛生的な時代から【都市という非衛生的な環境】が中心になった事から、人工的なトイレや下着、トイレットペーパーが必要になり、また食べ物に関しても化学肥料により味が変わってしまった。などの私のガチガチな【固定観念とは真逆的な視点】や、あるいは茶道の茶室などに併設された、実用ではなく客人が造作や手入れなどの心入れを拝見する【鑑賞される為のトイレ】などの不思議な存在に関しても、文化に関わる立場として非常に興味深い話題でした。

文化人類学としての排泄やトイレの歴史について、雑学的に知りたい誰かへ。また極端な清浄化が進む都市生活に違和感を覚えている誰かにもオススメ。

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