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ハックルベリイ・フィンの冒険

"諸君が『トムソーヤーの冒険』という本を読んだことがないなら、僕のことは知ってなさるまい。だが、そんなことはどうでもいい"前作から約10年、1885年発刊の本書は最初のグレートアメリカンノベル、また方言・口語体で書かれた一冊に留まらず、人種差別への真摯な批判的姿勢に驚かされる。

個人的には、前作の『トム・ソーヤーの冒険』は子供の頃の懐かしい記憶と共に思い出されるのに、その続編である本書は未読であった事。また続編にも関わらずヘミングウェイに『すべてのアメリカの作家が、この作品に由来する。』と絶賛され影響を与えた一方で、現在は含まれる人種差別に対するメッセージにより【閲覧制限、禁書指定されている】事を知り、興味を持って本書を手にとりました。

さて、本書は物語としてはシンプルで、前作でトムソーヤーの相方であったハックルベリイ・フィンを主人公に、今度は逃亡黒人奴隷のジムと偶然一緒になって筏で河を下っていくのですが。まあ最初に驚かされたのは"ハック"のどこでも生きていけそうなサバイバル能力の高さ。日々の糧は様々な手段で容易く得つつ、出会う相手には自然に嘘ばかりをすらすらと(詰めは甘いが)述べる姿に【現代人が失った自然児的自由さ】を痛快に感じ、頼もしさすら覚えました。

また一方で、そんな自由なハックですら、当時の法律的には正しい【逃亡奴隷は捕まえて所有者の元へ連れ戻すべき】という当時のアメリカ南部社会の【支配的な社会通念と個人の良心】に挟まれて葛藤し悩む姿からは、家畜同然の酷い扱いを受けても、常に一貫して成人君子的な立ち振る舞いを続ける心優しいジムの姿と【対照的かつ衝撃的】で、確かにこれは児童文学の枠には収まらず、また現在の感覚からすれば子供に読ませるに躊躇うのもわかる気がしました。(また、この物語はトムソーヤでは成り立たず、下層階級で白人社会に染まりきっていないハックでしか成立しない稀有な続編だとも、あらためて)

あと、本書からアメリカ文学のパターンの一つ【とりあえず逃げ続ける】ケルアックの『オン・ザ・ロード』やサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』がスタートしたのか。とこちらも類似点を随所に感じて感慨深かったり。

人種差別をテーマにした作品や、当時のアメリカ南部の様子に興味のある誰かに。またアメリカ文学史上重要な作品を探す誰かにもオススメ。

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