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広がるのは夢想の記録

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小さな世界たちが一つ、花開く。ショートストーリー集
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記事一覧

星合の宵

 七夕の空を見上げると、香奈子は無性に泣きたいような衝動に駆られる。  日本の七夕なんて…

どこまでも遠くへいく、風を見て

ふと空を見上げると、強く翼を広げる鳥がいた。 たった一羽。孤独な両翼。 しかし、その姿は…

始まりを告げる街

 迷いながら進んでいこう。  見慣れない路地をゆく。春の訪れを見るために。  ここはどこ…

私は「絶滅危惧種」なの

深く真っ黒な湖の上で、私は舞うの。 明るい真っ赤な着物を纏い、真っ赤な薔薇を纏ったような…

【短編小説】にじいろ影切絵

それぞれの役割が繋がって、はじめて私は受け入れた、彼を (よっしぃさん) ・ ・ ・ と…

人魚の娘

 川を見るのが嫌い。海を見るのが好き。そう気づいたのは、電車の中で通る大きな川を見ている…

夢の抜け殻 僕の泣き殻

 透明な壁の向こうに、君の暖かさを感じる。きっと君も、僕と同じように壁に手を添えているのが、壁からジワリと伝わる暖かさからわかる。  僕たちは言葉を交わす。こうやって手をかざし合った時だけ話すことのできる、不思議な対話方法。 【私達、結局会えないままだったね】 【うん、そうだね】 【私達、いつか会えるはずだったのかな】 【うん、どうだろうね】  僕らの世界は狭かった。君と僕は、世界でたった一人の住人。けれど、今日、君は消える。  それは大昔から決まっていたことで

名前の知らない君の背中を追いかけて

「待ってよ」  声を張り上げる。けど、お前は振り向いたことなんてない。  お前は、何時だ…

【#素敵な日本語で言葉遊び】神姫の微睡み

雪の縁取り 理の誓いの下に 萌黄の芽 薄桜に頬を染め 微睡む春の神姫 雪深い山で、新しい…

BELLA NOTTEの鐘 #Xmasアドカレnote2019 (21日目)

昔から、「ベラノッテ」が好きだった。 この時期になると、母がよくCDをかけて、気分よく歌っ…

夜見枯書店カイ想録

彼は私の前でよく笑う。 屈託のない、無邪気な子供のような笑顔だ。 けれど私は、その微笑み…

終わりのない夜の底で

深い夜の底で 夜明けが来ないなら 光を放て 絶壁を前に したのなら 誰かからの 風を待た…

本の檻と赤い常識

殺人鬼は部屋に押し入った。血に濡れた悪鬼たる男。部屋の主は動じない。人間生活を放棄した女…

境界線のオパリオス(3)

一話はこちらから 国立天文台は、異様な興奮とざわめきで、空気がびりびりと電気を帯びているかのようだった。 多くの研究員が慌てふためく中で、一人だけ様々なデータを映し出す端末に噛りついている。 黒縁眼鏡をかけた「the 理系」という風体をした優秀そうで神経質な青年だ。 彼の癖なのだろう。 ひっきりなしに分厚いレンズの眼鏡を、鼻の上で上げ下げして、その動作は周囲と同様に落ち着きがない。 「………なんなんだ、このデータは」 呻き声が、口の端から漏れ出す。 あらゆる事象を