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こんな時だからこそ、技術とアートから「今」を見る。 ーMedia Ambition Tokyo 2020 @SHIBUYA QWS、六本木ヒルズノースタワー

 テクノロジーアートの祭典「Media Ambition Tokyo2020」。昨年までのメイン会場 森タワー52F・東京シティビューから、今年は渋谷スクランブルスクエア15F・ SHIBUYA QWSにメイン会場を移して開催中です。

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 デジタル・アナログ、様々なメディアをまたいで、”今”の社会、生活の中にある様々な二面性を行き来するような展示でした。

※ 様々な美術館が休館していますが、本イベントは森タワー52Fの作品を除き、通常通り開催されています。

1) ”データ”と”質量”の世界を行き来する

 メイン会場の渋谷スクランブルスクエア15F・ SHIBUYA QWSに入ってまず目に入るのは、落合陽一さんの《質量に保存する,制約を与える,有限の存在にする.》

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《質量に保存する,制約を与える,有限の存在にする.》落合陽一

 シャボンの膜を超音波で振動させてスクリーンにする《Colloidal Display》や、切り取ったフレネルレンズが様々な方向を写すピクセルとなる《焦点の散らばった窓》などに加え、たわんだ磁気テープが不穏な音を奏でる再生装置や、それらの作品を移した写真作品などが、畳の間に設えられたインスタレーション作品です。

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 「物理的制約のないデータの世界と制約ある質量の世界の越境」と説明にあるように、光の波・音の波をベースに、デジタルとアナログの双方の情緒で切り取られた世界が、畳の上に箱庭のように展開されています。

 また、もうひとつの会場、六本木ヒルズノースタワーで、目を引いたのは坪倉輝明さんの《不可視彫像》。言葉で説明するよりも、見ていただくのが分かりやすいのでtwitterにupした映像を…


 そこに物体はないにも関わらず、確かにそこに”ある”という感覚を体験できます。

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《不可視彫像》坪倉輝明

 ”データ”で「そこにある感じ」があれば、ひょっとしたら”質量”のある物質はいらなくなるのかもしれない?という未来も感じつつ、一方で、質量の世界の中にあるからこその”関係”の面白さを感じます。

2) ”機械”と”生物”のイメージを行き来する

 メディアアートといえば、動きのある作品も楽しいですよね。

 暗い部屋の中でバチバチと音を立てながら光を放つのは、WOWの《Emerge》。2019年のReborn-Art Festivalでは、洞窟の奥で蠢いていたこの作品。今回の展示では間近でみることができます。

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《Emerge》WOW

 遠くから見ると、音も見た目も火花が散っているようにも見える作品。近くで見ると、この明かりをつけたケーブルが、バチバチと本体のケースを叩いて音を発しています。予期できない動きと音に、意思を持っている生き物のようにも見えてきます。

 また、小野澤 峻さんの《Movement act》は、中央で交差する4本のレーンを12個のボールが猛スピードで転がっていきますが、驚くべきことに、全くぶつからないのです。

《Movement act》小野澤 峻

 ご自身がジャグリングをなさることから発想したという作品。ただし、わざとその動きを乱すような要素を残し、5分に1回程度、勝手に失敗するようにつくってあるのだとか。ミスなく同じ動きをすることが求められる機械でありながら”失敗”してしまう、そんなところに逆に生物のような魅力も感じてしまいます。

3) デジタル社会の”欲望”と”モラル”を行き来する

 SNSや生活の中で感じるもやもやをアイロニカルに取り上げる作品も。

 例えば、今はPCや自動車にもいくつも設置されて、それは便利だし、犯罪防止や自分がトラブルに巻き込まれないためには使いたいけれど。でも、仕事中に監視されたり、タクシーの中で性別や年齢を勝手に分析されて、ターゲットと認定された広告を流されたりするのはあまり良い気分ではなかったりも。

 慶應義塾大学SFC 徳井研究室 × Dentsu Lab Tokyoの《UNLABELED — Camouflage against the machines》は、”人かどうか”を判別する画像認識がうまく機能しなくなる画像パターンをディープラーニングで導き出して洋服にしたもの。この服を着ると、途端に”人間”であるとは認識されなくなる、画像認識にとっての光学迷彩のような服。

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《UNLABELED — Camouflage against the machines》慶應義塾大学SFC 徳井研究室 × Dentsu Lab Tokyo

 また、トモトシさんの《photobomber_tomotosi (WIRED CREATIVE HACK AWARD 2019 –QUASI GRAND PRIX–)》は、インスタグラムに他人がアップした自分が写り込んでいる写真ばかりを集めて、自分のアカウントにアップする試み。

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《photobomber_tomotosi (WIRED CREATIVE HACK AWARD 2019 –QUASI GRAND PRIX–)》トモトシ

 他人の写真に映り込むために、ハチ公像の前をうろうろし続ける映像を見ると笑ってしまいますが、知らないうちに、カメラを意識していない自分の写真が”ただの背景の一部”として世界中に発信されていたりもするのかもしれないと思うとちょっと怖くなります。

 一方、写り込んだ人を気にすることなくアップした本人がもしこのアカウントで自分の写真が勝手にアップされていることに気づいたら、その時はどんな風に感じるんだろう?なんて想像してしまいます。

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(会場のSHIBUYA QWSから臨むスクランブル交差点)

 テーマもメディアも様々だけれども、”今”の感覚が反映されているMedia Ambition Tokyo。

 最後に、気になったのは、三木麻郁さんの《3月11日にしゃぼん玉を吹きながら、歩いて家に帰る》。タイトル通りの、とてもアナログなプロジェクトですが、”「不謹慎」や「自粛」という言葉が飛び交う日々”というのは、ちょうど今のタイミングにも重なる部分もあるように感じます。(今年は、参加者を募ってのこのイベントは中止となりました。)

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《3月11日にしゃぼん玉を吹きながら、歩いて家に帰る》 三木麻郁

 私用外出は控えろと言われるけれど会社には通常通り出勤しなければいけないとか、美術鑑賞は感染リスクの低いアクティビティと言われながらもその前に美術館が軒並み閉館させられていたりとか、様々な矛盾のなかで平常心を保つのが難しくなっている今、感じるものもあり、今行くことができて良かったと思う展示でした。

 2020年3月8日までです。

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【展示概要】 Media Ambition Tokyo 2020 @SHIBUYA QWS、六本木ヒルズノースタワー ほか

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会期:2020年2月28日(金)~3月8日(日)、3月14日(土)

2020年で8回目を迎える「メディア アンビション トウキョウ」通称「MAT」は、テクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市実装するリアルショーケース。会期中は、渋谷、六本木、上野を中心に都内各所で最先端のアートや映像を展示するほか、音楽、パフォーマンス、トークショーを実施する。


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