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#11 道端に落ちた檸檬堂の空き缶とマルボロとホワイトチョコレート


誰にもチョコを渡さないバレンタインなんて何年ぶりだろう。
そんなことを思いながら駅までの道を歩く日曜日の朝。

道端に落ちたホワイトチョコレートの空箱。

電車に揺られながら、
昔、渡さなかった愛を思い出していた。



数年前の話。
大学からの帰り道、携帯とにらめっこしながら歩いていた私の上から、
「かえで?」と呼ぶ声がした。

ちょうど今朝ホワイトチョコレートの空箱が落ちていたあたり。

それはとても懐かしい優しい声で私が好きだった人の声。

初めて彼と出会った頃、
高校生だった私には学校以外の世界がひとつだけあった。
そこにいた彼は、私よりももちろん大人で、
困っている人に手を差し伸べられる優しい人で、
それでいて少年のように無邪気な笑顔を見せるような人だった。

その世界から彼がいなくなるとき、
想いを伝えようか迷ったけど、困らせてしまうだろうな、きっと受け取ってもらえないだろうなと思って何も伝えなかったのに。
こんな形で再会するなんて。

その時は相手が急いでいたため、すぐにお別れしてしまったんだけど。


その後日、呼び出された飲み会に行ったら、
彼がいた。

お酒が飲めるような歳になったのかと驚きながらも
あの頃と全然変わんないなと私を見てくしゃっと笑う彼が好きだと思った。

「今度は2人で飲もうね」って言われて2人で飲んだこともあった。
ドキドキした。
届かないところにいたはずなのに少しだけ近づけたような気がした。
それだけでもう幸せだった。


結局、想いを伝えることはなかったし、
連絡を取ることももうないのだけど。

1つの甘くて苦い大切な思い出としてちゃんと心に残してある。


くしゃっと笑う彼が今日も笑顔だといいな。



今日はバレンタインデー。

たくさんの素敵な愛が溢れる日でありますように。


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