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「プロ野球のGM」を描いた小説&ノンフィクション紹介

少し前から愛読しているnote内連載野球小説があります。
広義では「野球小説」ですが、メイン・キャラクターは選手ではなく、日本のプロ球団のGM、ゼネラルマネージャーです。舞台も球場よりオフィスの方が多いかもしれません。
作家は「Q四企画」さん小説のタイトルは「球影」(13回連載)とその続編「トミー・ジョン」(連載中)。

ネタバレになるといけないので、ストーリーは語りませんが、とても精巧に作られ、かつ、面白い作品です。
ストーリー以外で、個人的にこの作品を愛している点をふたつ、紹介させていただきます。


1.《GM》の仕事って、ホントに《マネジメント》なんだ!

米国で働いていたこともあり、日本の会社に戻った後、英語名刺に載せる《役職の英語版》について人事課から相談を受けることがありました。
例えば、
《Project Leader》なのか、
《Project Manager》とすべきか。

そこで、《リーダー》《マネジャー》の違いについて調べたことがあります。多様な意見を読みましたが、一番腑に落ちたのは、経営学部の学生卒論か、MBAの課題論文か、とにかく、両者の差異を考える論文です。

・《リーダー》の役割は《進むべき方向を示す》こと
・《マネジャー》の役割は《複雑さに対処する》こと

某論文中の「定義」

(うーむ……なるほど。確かに《Manage》という動詞は、《なんとかする》というような意味合いだ……)

「球影」「トミー・ジョン」の主人公、土尾GMの周りでは、頻繁に、かつ様々な種類の「コト」が起きます。それに対して常にタイムリーに、かつ冷静に的確な判断を下し、自分で出向く、部下に指示するなど、手を打たねばなりません

まさに日々起こる《複雑さに対処している》!
ここに描かれている《GM》の仕事って、本質的な意味での《マネジメント》なんだ!
── そう納得しました。


2.連載の次回に《期待》を抱かせる《粋》な1行

noteに連載小説を書き、読者に続けて読んでいただくのは、なかなか難しい
もちろん、何かのきっかけで読み始め、面白くて第1回から遡ったり、読み続けることはあるでしょう。ただ、「面白さ」が顕在化するまでに、何回分かが必要なこともあり、途中でギブアップすることも多いのではないでしょうか。

「Q四企画」さんの連載は1回分が2000-3000文字と「ほど良い~若干長め」です。そして、毎回最後に、

《単独パラグラフの形で、物語の次の展開を示唆するような短い1行》

があり、次回は同じその1行から始まります。

他の文章もそうですが、この「最後の1行」は装飾をそぎ落としたシンプルな文であり、おそらくはそれゆえに、

《次が読みたくなる》
のです。
しかも、
《期待を裏切らない》

この1行を楽しみにしています。



以前読んだ本(と書きましょう、こちらはペーパーバックを買ったので)も紹介します。

MLBに実在したGMゼネラルマネージャーを描いたノンフィクションを原著で読みました。
この小説をもとにしたブラッド・ピット主演の映画を観た人も多いかもしれません。
ジャーナリストのMichael Lewis著「Moneyball」です。

こちらもネタバレにならない範囲で、個人的な感想を:

主人公のオークランド・アスレチックスGM、Billy Beaneは、就任後、
選手の
「(球団首脳、スカウト陣、多くのファンなどが評価した結果である)市場における価値」

「(勝利のための貢献度を統計的に処理した結果である)実際の価値」に大きな隔離がある
という素人意見と、独自の《価値算出方法》をほぼ全面的に受け入れ、

➀ 実際価値に比べ市場価値がうんと低い選手を安いコストで採用し、その逆に、
➁ 実際価値に比べて市場価値が高くなってしまったベテランを高い値段で他球団に売りつける

その結果、アスレチックスは選手年棒がリーグ最低レベルながら毎年プレイオフに進出する強豪チームとなった。

つまり、この本で描かれるGMゼネラルマネージャーの仕事は、ビジネス視点から見た、
・業績評価 と
・人材獲得 です。
こちらの方が、例えば一般企業の管理職の仕事に近いかもしれません。

特に、私が勤務していたような企業研究所を野球チームに、研究職の社員を選手に置き換えて考えると、なかなか興味深いものがあります。

研究者という「つぶし」のききにくい人材を、しかも一般企業と異なり、職種が限られるため、実際に組織として「つぶし」のきかない研究所が採用するわけです。

おそらくは、「市場価値(例えば高偏差値大学卒、著名研究室を出た、学位を持っている、TOEICが高得点など)」と「実際の価値(技術貢献を冷徹に統計的に処理した結果)」との間には、かなりの隔離があることでしょう。



《Management》にはおそらく、
・日々起こる《複雑さに対処する》仕事と、
・人材を《評価》し、《最適化》する仕事、
その両方があるのでしょう。

#野球が好き


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