洗濯物と窓の向こうがわに
いま、本当は別のことを書こうと思ってnoteをひらいたのだけれど、ふと窓の外に見えたどこかのだれかの洗濯物に心を全部持っていかれてしまったのでそのことを書こうと思う。
今日わたしは、夫に娘をあずけて母業にオフをもらい(thanks!)、いわゆるオフィス街的な場所にやってきた。
今はとあるコワーキングスペースに入ったのだが、窓際の席に座ってしまったばっかりに、こうして書くことが変わってしまった。やれやれ。
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心をつかまれたひとつは、意外性である。
オフィス街というだけあって、この辺り一帯はビルが所せましと立ち並んでいる。わたしがいるのもビルの9階。目の前ももちろん、オフィスらしき備品や家具が見えるビル群だ。
その中だからわたしの心は明らかに油断していたのだろう。目の前のビルとビルの間にはさまれた、細長いマンションに気づいていなかった。
そして、ふと目をあげた瞬間に飛び込んできたのが、自分と同じ目線の9階か10階かのベランダにぽつん、と干された洗濯物。
オフィス街という属性もあってか、他の階では洗濯物は干されていない。平日の日中だから、共働きや単身世帯が多ければそれもそうだろう。
だからこそまた、ぽつんと干された洗濯物がよけいに際立っている。
Tシャツにパーカーに……。じろじろ見るのは実にお行儀がよくない。よくないのだが、この席に座ってしまったばっかりに、ぼんやりと見てしまうことをどうかお許しください。
ふたり暮らしかなぁ。今日はどっちかがお休みなのかなぁ。自分がふだん家族の洗濯を担当しているからか、反射的に、そんな考えが頭にうかんでしまう。
ちょっと仕事モードになっていた脳みそに、ぴしゃっとさしこんでくる、リアルな生活感。
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聞くひとによっては「キモチワルイおばちゃん」になってしまうのだろうけれど、わたしは干された洗濯物たちを、というかマンションの窓たちを、眺めていると自然と想像してしまうのだ。
そのひとつひとつの箱の中で、窓の向こうに、繰り広げられている生活を。
それぞれの箱の中で、きょうも朝には「おはよう」や「いってきます」があり、昼も「いただきます」や「ごちそうさま」があったりして、夜には「おかえり」や「おやすみ」がある。
毎日毎日、気が遠くなるくらいたくさんの生活が、あの向こうでは繰り広げられている。
建物はしゃべらない。じっと、静かに佇んでいる。ハードとしては無機質な建物のなかで、ソフトである暮らしは極めて有機的だ。
昔はよく、電車にのりながら車窓を流れゆくマンション群を眺め、途方もない数の「生活」に思いを馳せてため息をついていたっけ。
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話は変わるが、実はこのコワーキングスペースに入る前、別の、ショッピングビルの中に入っているコワーキングスペースにも足を運んでみたのだ。
Web上の情報ではそちらのほうが雰囲気もカフェ風で、家具も好みにあっていると思っていて。しかし、いざ現地へいってみるとなぜか「ここで作業がしたい」という気分がまったくわかず、そのまま立ち去った(だいたい、直感は自分にとって正しいよね)。
そこまで悪いという感じでもなかったのに、なんでだったのかなぁと思っていたが、移動して、この席に座ってわかった。
どうやらわたしは、窓がない空間だとやる気がでないらしい。
別に閉所恐怖症というわけじゃない。でも、特に仕事をしたり、文章を書いたり、そういう作業をする環境としては、圧倒的に窓がある空間がいい。できれば、面している席だとなおいい。
窓の外にも空間が広がっていることで、考えにも余白が広がる。そんな気がするのだ。
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以前仕事メインの生活を送っていたときも、文章に詰まったときや、企画案につまったとき、よく窓の外を見ていた。
いくつかのカフェを回りながら作業していることが多かったけれど、そういえば気に入ってよく足が向くのは窓に面した席があるところばかりだったなぁ。
低い建物であれば通行人の往来が適度なノイズになって頭の中に刺激を与えてくれるし、高い建物も高い建物で、まったく気づきがないのかと思えば、今回みたいにそんなこともない。
これを書いているいまも、建設中のビルの工事現場で足場の上(推定10階部分)を躊躇なく歩き回る方々を見て、ほー、と感心しながら、彼らの日常に思いを馳せたりしている。
さっきは飛行機が上を飛んでいって、こんな話を書いている途中だからよけいに、機内のようすを座席レベルで想像してしまって、「あの中に座っているひとの日常は……」とか考えてしまった。
こんなんだから、ライターという職種は締切がないとやっていけない(わたしだけ?)。
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というわけで、思いつくままにまたとりとめのない文章になったけれど、それもまた窓のおかげというか、窓のせいというか(笑)。
仕事や育児や、「やらねばならないこと」から自分の脳を飛び立たせてワープさせるためにも、物質的な距離感、つまり空間の広がりはわたしにとってとても大事みたいです。
いままでもそうだったけれど、改めて認識できてよかった。ポジティブな窓際族でありたい。
自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。