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ありがとうのつかいかた

2歳の娘の「お礼」が進化した。

ほんのひと月ほど前までは、そもそもどんなときに「お礼」を言うのか、その概念が彼女にはまだなかったように思う。

ひとに何かをもらったり、またはしてもらったりしたとき。親であるわたしから「ほら、『あーと』だよ?」とうながされ、ぽけっとした表情のまま、ようやく「あーと」と言う。一瞬だけぴょこっと、うなづくくらいのしぐさを添えてさ。

意味はよくわからないけれど親のまねをする、そのようすもまた微笑ましい。ただそのときはおそらくまだ、自分の気持ちと「あーと」ということばは、彼女のなかで結びついていなかった。

変化がおとずれたのは、つい2週間ほど前のこと。

娘がしばらく入院していた病院を、いよいよ退院する、その晴れやかな朝だった。

わたしは確か、いつものようにお茶かなにかをコップに注いで、ベッドにちょこんと座る彼女に手渡したのだ。

カップを受けとった彼女は、首をかしげてこちらを見上げる。

そうして言った。

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どうでもいいことをすごくしんけんに書いています。

<※2020年7月末で廃刊予定です。月末までは更新継続中!>熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを書いています。気持ちが疲れているときにも…

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