掌編小説「双曲のトワイライト」(260字)
宮廷音楽家である父の命令に従い、諸国を回り修行を積むこと早十年。
帰ってきた私のフルートの音色に、父も満足したようだ。
父が退出した後、姉が私の部屋を訪ねてきた。
杖をついている。
ああ、姉さん。生まれつき視力が弱かった姉さん。
ついに光を失ってしまったのかい。
言葉を失う私をよそに、最愛の貴女はピアノに座る。
彼女が奏で始めたのは、かつて私が貴女へ送った曲。
楽譜の読めぬ貴女のために、幼い私が作り、諳んじた曲。
私も吹こう。貴女に寄り添って。
「明るい…光が見える、ようやく夜が明けたのね」
窓の外から差し込む光が、やがて私にも届いた。
サポート頂けるととても嬉しいです