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『ウエスト・サイド・ストーリー』来日公演で高まるブロードウェイへの憧れ

去る8月6日、大阪のオリックス劇場で行われた『ウエスト・サイド・ストーリー』の来日公演を観劇しました。


『ウエスト・サイド・ストーリー』のミュージカルが観たい!

2023年夏、『ウエスト・サイド・ストーリー』のワールド・ツアー版が来日するうえに、なんと最後に大阪に巡回すると知ったわたし。
「こんな機会はまたとない…!」と、全編英語のミュージカルに対する不安も若干感じつつ、勢いで申し込みました。
(勢いが余り過ぎて、よもや1人観劇デビューをすることになろうとは…)

『ウエスト・サイド・ストーリー』といえば、数あるミュージカル作品の中でも、世界各地で繰り返し上演されている名作です。
また、1961年には『ウエスト・サイド物語』、そして2021年には『ウエスト・サイド・ストーリー』として2度映画化されています。

私自身は、新旧の映画版こそ見ていますが、ミュージカルとしての観劇経験はありませんでした。

物語の筋は同じだとしても、役者がどう演じるのか、どんな演出をするのか、映画とはきっと違うはず。
さらにブロードウェイの演出家によるニュー・バージョンとくれば、わくわくするっきゃない。

まるで遠足前日に寝付けなくなるこどものような気分で、劇場まで足を運びました。

『ウエスト・サイド・ストーリー』のここがよかったよ~音楽編

ここからは筆者の独断と偏見に基づく、音楽への感想を並べ立てていきます。
『ウエスト・サイド・ストーリー』を見ていない方には不親切な仕様となっていますこと、ご了承くださいませ…!

Something's coming

主人公のトニーが、「何か起こりそうな気がする」と高らかに歌い上げるソロ曲。

のっけから、トニー役・ジェイドン・ウェブスター氏の歌声にやられました。
(うっま!普通にうっま!)と語彙をすべて失ったような感想しか出てこず…。
個人的な感覚ですが、どの音程も安定していて、発生がすごくナチュラルというか、ブレないんですよね。
ミュージカル俳優なら当然、なんだとしても、感服いたしました…。

歌詞の節々から、トニーの中で、不思議な高揚感が育っていく様子がよくわかります。
いや、まさかトゥナイトにサムシングがカムするとは、当の本人も予想していなかったでしょうが。

ジェッツから脱けた彼にとって、未来は不透明ながらも期待できるものなんだよなあ…と思うと同時に、今後の展開を考えると切なくならざるをえません。

The dance at the gymでの邂逅シーン

ジェッツとシャークスによる派手なダンス対決のさなか、トニーとマリアがひと目で惹かれ合うシーン。

ここで流れる曲といい、ふたりが目をそらさずにゆっくり近づいていく姿といい、非常にロマンチック。それまでの「マンボ!」なノリとのギャップが、より一層出会いを劇的なものに演出しています。

少女漫画も真っ青の展開を堂々とやっちゃうからこそ、結末の悲劇性が増すのかもしれません。

MARIA

マリアと出会ったトニーは、もう「恋は盲目」を地で行くモードに。
街中で人の名前を連呼すな!と怒られかねない勢いで、マリアへの恋心を歌い上げます。
若いって、いいね…(遠い目)

とにかくマリア大好きソングなこちらですが、個人的に歌詞がいいなと。

「マリアと大きな声で呼べば音楽のよう、小さな声で唱えれば祈りのよう」といった意味の歌詞がありまして。
聖母マリアと同じ名前だから、こんなに美しく詩的な表現ができるんだなあと感動しました。
英語の歌詞だと"playing"と"praying"でかけてあるところにも、センスをひしひしと感じます…

Tonight

『ウエスト・サイド・ストーリー』を見ていなくても、この曲は聞いたことがあるんじゃないか?というほど、作品の代表曲ではないでしょうか。
ちなみに筆者が帰り道、脳内で最もリピートし、鼻歌まで歌っていたのは「Tonight」でした。

マリアの自宅のバルコニーで再会したふたりは、「今夜からこの恋が始まる!」と夜空の下でデュエットします。

新旧映画版では本当にロマンチックで盛り上がるシーンですが、ミュージカルでもやはり見応えがありました。

男声と女声が見事に重なり合い、絶妙なバランスで響く…なんて心地いいんだろう、とじっくり聴き入っておりました。
私なんぞが言うまでもないのですが、歌のうまさが半端ないです。常にクオリティの高い歌声を自然に出せるなんて…
これがブロードウェイのレベルなのかな、と終始感動しっぱなしでした。

それにしても、まだ出会って1日も経っていないのに、ふたりの燃え上がりっぷりといったら!
若いって…若いって…いいなあ(オーバー30の遠い目)

America

私が「tonight」と並んで大好きなのが、「America」。

シャークスの女性陣による躍動感あふれる歌とダンスで、彼女たちの強さが伝わってきます。

ちなみに映画版を見たときには、同じ曲でも演出の違いにはっとさせられました。
旧作では屋上が舞台なのですが、新作ではシャークスの面々が屋外へ飛び出し、ついには道路の真ん中で踊り出すという盛り上がりっぷり。
アメリカ社会において、移民の存在感がより増しているとともに、移民問題も大きくなっていることを示しているのかな?と感じました。
アニタ役のアリアナ・デボーズがこれまた最高に素敵なんだよなあ…。

今回のミュージカルでは、旧作と同様に屋上で「America」が歌われます。
ただし、映画版ではシャークスの女性VS男性の構図だったところに、違いが。
故郷・プエルトリコを懐かしむ女の子に対し、アニタたちがアメリカで生きる道を突き付けます。

夢を抱きアメリカに渡ってきたものの、社会に受け入れられていない。
そんな不満を抱えるひとたちにアメリカの良さを主張する女性陣は、「ここで生きるしかない」という腹のくくり方をしているなあと。

「America」の軽快でいきいきとしたリズムの裏側に、しなやかに生きんとする人間の底力を見るような、そんな気がするのです。

One hand,One heart

これまた言葉の掛け合いがセンスありすぎでは?と震えた楽曲。

恋は盲目モードでひた走るトニーとマリアが、なんちゃって結婚式で歌い上げるデュエットです。

ラストを知ってるいるだけに、ほんっとうに2人の無邪気さ、ピュアさが胸に刺さって…
「こんなに惹かれ合っているんだから、もうグループ同士の対立とかどうだっていいじゃん!末永くお幸せに!」といえたらどんなにいいか。

ただ手を取り合い、心を重ねるだけのことが、なぜ自由に許されないのか?
結ばれる未来を信じている2人の姿に、思わず涙がこみ上げました。


I feel pretty

恋する女の子に歌ってほしい、マリアのソロ曲。

曲調から歌詞にいたるまで、はんぱなく可愛い。
文句なしにプリティーですとも。
トニーしか見えていないマリアが本当にきらきらしていて、
恋は人をこんなにも美しくするんだなあとしみじみ。

とはいえ、これが2幕で流れるもんだから、1幕ラストの悲劇はいっそなかったことにしてほしい心境でした。

私個人は、特に旧作映画の雰囲気が好きなので、リンク貼っちゃいます。

Somewhere

『ウエスト・サイド・ストーリー』では、人種や立場の違いが若い2人の壁となるわけですが…
「Somewhere」で歌われているのは、トニーとマリアだけでなく、世界中のひとびとにとっての夢でもあるのかな、と思います。

“なにものにも縛られず、当たり前のように一緒にいることが許される。
そんな自分たちのための場所が、「どこか」にあると信じたい”

字幕の歌詞を追いながら、切なさにぐっと胸を締め付けられました。

また、このシーンの演出が非常に印象的で。
トニーとマリア、そしてダンサー全員が白い衣装で登場し、まるで「Somewhere」という夢の場所を象徴しているようでした。

2人がどこかに行けたなら…
そんな風に願わずにいられないのに、叶わないとわかっているのが本当につらい展開です。

A Boy Like That / I Have a Love

最後に「A Boy Like That / I Have a Love」の感想をば。

トニーがシャークスのリーダー、ベルナルドを殺めてしまったことで、物語は一気に悲劇へと転がっていきます。

マリアにとってトニーは兄の仇でありながら、愛する人でもある。
しかし、ベルナルドの恋人だったアニタからすれば、トニーとマリアの関係を許せるはずもなく。
そりゃあ「A Boy Like That」で「あの男はだめ!」と言いたくなるのも当然です。むしろもっと怒り狂っていいレベル。

一方、マリアは兄の死を悲しんでいるけれど、トニーを憎み切ることもできない。
「I Have a Love」で、「私には愛がある」と歌い、「あなたもそうでしょう」とアニタに理解を求める気持ち、わからんでもないのですが…

マリアとアニタの掛け合いから、どちらの辛さもひしひしと伝わってきて、やりきれなくなります。

最終的にアニタがマリアを受け入れようとするのも、愛があるからなんでしょうなあ…。


『ウエスト・サイド・ストーリー』のここがよかったよ~演出編

ダンス

『ウエスト・サイド・ストーリー』の見どころは、ダンスにもあり。

キャスト陣によるダイナミックでしなやかな動きが、舞台上にまったく狭さを感じさせませんでした。
そのうえでぶつかりもせずに踊っているのだから、本当にすごい。

また、「どうしたらそんなに足があがるの?」と感嘆するほど、ひとりひとりの柔軟性が際立っていて。
ミュージカルと併せて、バレエのコンテンポラリーダンスを見ているかのようでした。
(バレエの知識がないので正しい表現ではないかも…)

衣装

ミュージカルや映画で、つい衣装が気になるタイプの私。
今回も例外ではなく、特に女性陣のドレスにきゃっきゃしておりました。

ダンス大会や「America」で、シャークスのガールズたちがドレスの裾を華やかに翻しながら踊る姿といったら!
シャークスの衣装が暖色系のイメージカラーで統一されているので、よけいに情熱的でテンションが上がりました。

また、ダンス大会でのマリアや、「somewhere」の登場キャストが身に付けていた白い衣装。
「まだなにものにも染まっていない」白は、人間を分断してしまう思想からの解放を暗示しているようでした。

ジェッツは寒色系、シャークスは暖色系、と視覚的にわかりやすく割り振りながら、込められた意図もあるのだなあと。
衣装による表現って、本当に奥深いと思います。

いつか本場のブロードウェイで

今回、日本で『ウエスト・サイド・ストーリー』の公演を観て、いろいろと感じることがたくさんありました。

こんなまとまりのない感想で4000字もいってしまったあたり、お察しいただければと思います。

映画もミュージカルの来日公演も観れたんだから、次は本場・ブロードウェイの公演を観てみたい!
そのときもきっと私は、鼻歌を歌いながら劇場をあとにするに違いありません。

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