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『服と人 −服飾偉人伝』 VOL.8

日本ファションブランドは、この人・このブランドを無くしては語れない。
そんな偉人の生き方を通じて、ファッションだけでなく生きるヒントを伝えたい! その想いで、YOUTUBE動画を制作しているのが「服飾偉人伝」です。動画を撮る上で制作した原稿をこちらに公開していきます。「読む服飾偉人伝」として楽しんでいただければ幸いです。
動画で見たい方は、こちらから再生できます。

さて、今回は8回目、UNDERCOVERデザイナーの高橋盾 編です。
激動の2020年、ファッション業界では変革を迫られました。今まで当たり前に行われていたコレクションを発表する場は当たり前ではなくなり、常に2シーズン先を計画して、生産管理をする体制にもメスが入れられた。また世界的な老舗ブランドからティーン向けの人気ブランドまで、閉店や倒産が相次ぎアパレルブランドは大きなダメージを受けた。

そんな最中にUNDERCOVERは2021SSのコレクションを発表し、「2020」というタイトルを掲げた。それはまるで2020年の変革をポジティブに捉え、新時代の幕開けを祝っているようなコレクションで、高橋盾氏をより深く知りたいと思いました。私たちが中学生の時から憧れていたブランドが、なぜ今もオーディエンスを魅了させるのか、私達なりに追いかけたUNDERCOVERのストーリーをぜひ最後までご覧ください。

ちなみに7回目の主役はこの方です、こちらからどうぞ。↓


01.言葉

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高橋盾は、まるでオッドアイのような目をもった人間である。常に2つの観点から物事を捉えクールに俯瞰しているのだ。そんな彼の言葉を紹介したい。

"見たことがあるようで、誰も見たことのない服を創りたい"
"自分の核になる要素はすべて歪んでいます"
"俺にとってアートとは、何も無いところから、何かを作り上げること。服だったり音楽だったり、自分にできる方法で表現するんだ。頭の中に浮かぶ抽象的なイメージを、自分の手で具体的な形にしていくっていうことかな。"
”かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう”

02.生い立ち

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高橋盾は1969年9月21日、松田優作の出身地と同じく群馬県桐生市に生まれる。幼い頃から近所の絵画教室で絵を習い、家でもずっと絵を描いているのが好きだったという。それと同時に洋服へと興味の幅は広がり、段ボールやタオルで服を作るのに夢中になっているような子で、次第にファッションデザイナーを志す。

小学生の頃から世の中を斜めから見ているような大人びた性格で、『世の中でかっこいいと言われているものに違和感を感じていた』と語っている。松田優作や内田裕也のような、メジャーだけど「歪み」があってどこか危険な香りがする、正当さを望まない考え方にこそ、”かっこよさ”を見ていたのだ。

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そんな彼が中学生になり、自分の世界を広げたのが音楽という存在だった。ビートルズ(The Beatles)からUKカルチャーにハマり始め、学生時代のスターはセックス・ピストルズ(Sex Pistols)とヴィヴィアン・ウエストウッド(viviennewestwood)。世の中がカッコ良いというものに対しての違和感と、パンクカルチャーの反抗精神とが重なり、高橋盾を魅了させたのだ。

また、セックス・ピストルズとヴィヴィアン・ウエストウッドと言う、ファッションと音楽が密接にリンクしている関係性、これこそが高橋盾の服作りにおける根幹になっていくのだった。

03.異端児

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高橋盾は、群馬県立桐生西高等学校を卒業後上京し、文化服装学院アパレルデザイン科に入学する。
入学当初、「音楽とファッション」を結びつける仲間に出会える事を期待していたが、バブル景気で、ボディコン全盛の時代に同じような目線で語らう仲間はいなかったと言う。

そんな学院生活を送りながらも、後輩であり後の「BOUNTYHUNTER」デザイナー岩永ヒカルとともに、「東京セックスピストルズ」というセックスピストルズのコピーバンドを組み、音楽とファッションの可能性を模索する。

また、自身のビジュアルが本家のジョニー・ロットンにそっくりだった為、”ジョニオ”というあだ名がつけられ、親しみを持たれた。
それが結実し、音楽という共通点から仲間ができ始める。それが、藤原ヒロシや、大川ひとみ、NIGOというのちの裏原文化を牽引する面々だったのだ。当時を振り返る一説がある。

”それでも少しだけ音楽好きの連中がいて、一緒にクラブに行くようになりました。大川ひとみ(MILK、MILK BOYのディレクター)さんや、藤原ヒロシくん、後輩のNIGOとか、みんな音楽つながり。昼は学校で服の作り方を学び、夜はクラブへ遊びに行く日々。そこで知り合った人たちの影響が、未だに大きいですね。学校の成績は全然よくなかったですよ。真面目にやってなかったので話にならなかった(笑)。”
引用:cinra.net インタビューより

高橋盾は、昼間の学校での勉強よりも夜クラブで過ごす時間の方がデザイナーとして学ぶことが多かったという。デザインを学ぶ場というより、デザインのための技術を学ぶ場という学校のムードが合わなかったのだ。

そんな異端児だった高橋盾は、友人でありのちの、ヴァンダライズ・デザイナー、一之瀬弘法とともに、在学中から『アンダーカバー』を立ち上げる。
「秘密めいた雰囲気を漂わせたい」という想いを含めたこのブランドは、凶悪犯の宣材写真をモチーフにした手刷りのTシャツなど、ブラックユーモア溢れるものから始まっている。

そんな正攻法を嫌う高橋盾は、卒業後の進路に対しても独自路線。まずは企業に勤め修行をするという当たり前のレールから外れ、自身で立ち上げたアンダーカバーで食べていく道を選択するのだ。

当時の意気込みを語っている一節がある。

”先のことなんてわからないじゃないですか。ダメかもしれないけど、うまくいくかもしれない。「だったらやってみよう」っていうタイプなんです。自分が本当にやりたいことだし、「自信」じゃないですけど、「やってみたい」っていう気持ちのほうが強かった。”


04.転機

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1991年文化服装学院卒業。これを期に、在学3年目で立ち上げたアンダーカバーは初台に小さなオフィス兼住居を構え、ブランドとして本格化していく。渋谷クワトロ内のビリーや、ミルクボーイ(MILK BOY)に卸しを行いながら、徐々に知名度をあげていったのだ。

1993年、「A BATHING APE」のNIGOと共に原宿竹下通りにセレクトショップ「NOWHERE」をオープンする。しかし『どこにもないモノがここにある』というコンセプトでスタートしたこのショップは、創業当初はありきたりなセレクトだったという。そこに、すでにストリートで絶大な影響力を持っていた藤原ヒロシのバックアップが加わり、「NOWHERE」にはファッショニスタで溢れかえるようになった。
以降“裏原系”と呼ばれるムーブメントの中で伝説のショップとなったのだ。

1994年A/Wよりアンダーカバーは東京コレクションデビューをする。
デビューコレクションは既製服を解体して再構築した作品、これが世間の度肝を抜いた。斬新な手法でストリートとモードをミックスし、両者の境を曖昧に表現した世界は、まだ見ぬ新しい逸材として、さらに注目されるようになった。

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画像引用:https://fashionpost.jp

ここで、アンダーカバーを世界的なブランドへと昇華させる”奇跡”が起こる。文化の学生の頃から崇拝する、川久保玲が東京コレクションの後、商品が並ぶ初日に買い物をしに来たのだ。歓喜に沸いた高橋盾は、すぐに川久保へ手紙を書くと、川久保からも返事がもらえたという。

それをきっかけに憧れの先輩と文通をする間柄となり約4年たったある日、川久保からとあるメッセージを受け取る。

もうそろそろパリに行かれたらどうですか?

この後押しもあり、パリコレクション参加を決意し、2003年S/S、パリコレデビューを飾るのだ。

05.W FACE

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アンダーカバーのコレクションは回ごとにコンセプトが異なり、“両極端な価値観のぶつかり合い”が常に付き纏う。それは、ストリート出身の高橋盾自身がモードとの境界を容易く飛び越えたように、今ある相反する価値観が混ざり合う可能性を模索してるように思える。

その姿勢は、分かりやすくコレクションを彩るアイコン的キャラクターに現れるのだ。ポップでありながら、どこかダークな『BUDDAH BURGER(ブッダバーガー)』や、犯罪者のように目が隠された大きなクマが、同じく目を隠された小さなクマを抱く姿を描く『目隠しベアー』など、作品を発表するごとに、美しさと醜さ・ひいてはグロテスクとユーモアなど様々な境界線を上手く手なづけオーディエンスを虜にしてきたのだ。

物事の一面だけでそれを判断するな!と言わんばかりのメッセージを発するその商品は、プロダクト衣服のスケールを超え、1アーティストの芸術作品と言える。これがアンダーカバーの魅力なのだ。

06.多面性

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画像引用:https://undercoverism.com/

高橋盾は、アーティストとして、おかしみや不気味さを持つプロダクトを発表する『歪み』を持つ一方で、『真っ直ぐ』な顔も持っている人間である。

それが2012年のユニクロとのコラボ「UU(ユニクロ アンダーカバー)」である。東日本大震災の自粛ムードの後、『自分ができることは服を作ること』自分の服で喜んでくれる人のために実現させたコラボレーションだったという。

『家族』をテーマにキッズラインまで展開したこのコレクションは、彼自身が家族を持つようになり感じた『安心』や『誰かの為』という目線から生まれているのだ。

この頃からアンダーカバーは『反抗精神』や『非現実的』な視点から、『生活に寄り添う視点』という広がりを見せ、NIKELabとのコラボレーションの「GYAKUSOU」などブランドとして多面的な成長をみせるのだ。


07.アンダーカバーとは?

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画像引用:https://www.instagram.com/undercover_lab

服ではなくノイズを作る
アンダーカバーのブランドコンセプトは『服ではなくノイズを作る』こと。
音楽とファッションの関連性から洋服に魅せられた高橋盾らしい言葉である。

パンクミュージックも初めは世の中から”ノイズ”だと罵られた。それでもメッセージに共鳴したもの達が集まり、そこからカルチャーを作ったのだ。

着る服で好きな音楽が見てとれた時代、ファッションは好きを体現するツールであり、仲間との共通言語であった。しかし、情報が溢れ様々な価値観が入り乱れる現在において、趣味・嗜好ほど隠す風潮が強まり、ファッションで共鳴出来る言語は行き場を失った。

当たり前の価値観や常識に流され、自分の心に従う事から逃げてしまう現代人に向けて、一般的には相反するものを手なづけてきたアンダーカバーは「何が正しいのか」を問い詰めているのだ。

おそらく正しさなんてないし、誰かの価値観に必要以上に寄り添わなくていい。そんな厳しさとも優しさともとれるメッセージ。そして誰かに雑音と罵られても、自分にとって心地よい音。


それがアンダーカバーなのだ。


あとがき

2020年は誰もが忘れられない年になっただろう。学校も会社も、毎日通える事が当たり前だったが、緊急事態宣言によりそれは決して”当たり前”では無い事に気付かされた。そしてそれは、自分自身を見つめ直し”あなたの人生に必要なものは何か?”を考える時間でもあったような気がします。
「従来必要とされてきた」という概念ではなく、「今本当にあなたが必要なものか?」という本質に立ち返るべき時が来たのだ。

アンダーカバーが裏原で1次ブームを起こしていたあの頃。SNSもWEBページもない当時の裏原系のショップは、営業時間から人気アイテムの発売日など、店員さんと仲良くならなければ知る術が無く、まさに「一見さんお断り」のムードが強かった。それでも、勇気を振り絞って店員さんに声をかけたり、電話で聞いたりした者だけがその仲間になっていった…仲間になりたければ、自分で行動を起こす、そんな時代だ。アンダーカバーというブランドも高橋氏の、自分にとって必要なものを見極めた行動によって未来を切り開き、仲間を創って来たように思える。

未来を不安視する必要なんてない。未来を作れるのは自分の心に従った決断と、その決断が間違ってなかったと思えるほどの行動だ。

さあ、今日もちゃんと自分の心に向き合って1歩、踏み出してみよう。それはきっと未来を創る1歩につながっている筈だから…。


■服飾偉人伝VOL.1
https://youtu.be/zRz76xOatXQ

■服飾偉人伝VOL.2
https://youtu.be/bbp3UYKHZAk

■服飾偉人伝VOL.3
https://youtu.be/wJovtKYQNFQ

■服飾偉人伝VOL.4
https://youtu.be/DKqZy4Kuswk

■服飾偉人伝VOL.5
https://youtu.be/zf5BW5vYvrE

■服飾偉人伝VOL.6
https://youtu.be/u1fL0N7vwKU

■服飾偉人伝VOL.7
https://youtu.be/eiQOrAoA608


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それでは、次回のYouTubeでお会いしましょう♪

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