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ジャンゴ 繋がれざる者

クエンティン・タランティーノらしい西部劇。ディカプリオが初めての悪役、という事で当時話題になっていたはず…ディカプリオのみならず、主演のジェイミー・フォックス、助演のクリストフ・ヴァルツもとっても魅力的でした!タランティーノも大好きなのでめちゃめちゃ楽しみました。

奴隷制度という歴史をきちんと知らない私

この映画のテーマとしてあるのが「奴隷制度」。黒人達が奴隷として扱われ、考えられない様な辛い日々を送っていた時代。学生時代に授業で聞いたのも覚えているし、映画などで触れる事も多いトピックではありますが、やはりよく理解していないし知らない事が多すぎる…そんな私でも「どんな時代で、どんな扱いを受けていたのか」がきちんと分かる様に描いてくれているタランティーノの優しさ。表向きはタランティーノ節のエンタメ作品っぽくなっているのですが、根底にはきちんとその歴史や事実を描こうとしたタランティーノの気持ちみたいなものが見える気がします。

キング・シュルツみたいな人が本当にいたのなら

主人公ジャンゴが奴隷生活から抜け出し、賞金稼ぎになるきっかけをくれたのがドイツ人のキング・シュルツ。奴隷だとか、黒人だとか白人だとか、そういった事は関係なく、合理的であればそれで良しとするフラットなキャラクターです。もちろんその合理主義が冷酷な方向に働くシチュエーションもあるのですが、ジャンゴに対しても「人」としてきちんと真摯に対応しています。そんな人が本当にいたのなら…と思ってしまう。いなかった訳じゃなかったのかもしれないけど、そういう人の歴史は表立って残ってはいないんですよねえ…

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演じていたクリストフ・ヴァルツは悪役が多いので、「こいつもどっかで裏切るんかな…」と思って見てしまいましたが、裏切るどころか超良い人でした。ジャンゴの為に命を落とすシーンはグッときます…それまで合理主義で割とドライでさっぱりだったシュルツだったので余計にシュルツのラストシーンは衝撃的…(そしてかなりあっさりで驚きました)

気高き男、ジャンゴ

映画のキャラクターとして「出来すぎている」感がない訳でもない主人公、ジャンゴ。

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ひょんな事から賞金稼ぎに買われて、人として扱われ、教養を身につけて、妻を助けようとする気高き男。決して諦めないし何よりも正直で素直なのです。独特のファッションセンスを披露するシーンもありますが(笑)基本的な目的はずっとブレない。銃の腕が良いというのもかっこいいポイントです。ラストにあんまり笑ったりする事はないのですが、その無表情が崩れない中にも怒りや葛藤が見えてきて…ジェイミー・フォックスすんごいな。

待ってました、ディカプリオ!

今回の悪役であるキャンディを演じるレオナルド・ディカプリオ。

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ディカプリオといえば、ヒーローっぽい役かつ主人公が多かったのでちょっと意外なキャスティングでもありましたが…ラスボス感があって良かったです(実際はラスボスじゃなかったけど)
昔のキラキライケメン王子時代には絶対できなかっただろうキャラクターだけど、今の脂の乗ったしぶいオジサマになったディカプリオならぴったりでしたね。悪意のないイヤ〜な奴でステレオタイプなのも良かった!
公開当時も話題になった、「まじで手を怪我して流血しつつも演技を続けるシーン」はまじでがっつりめに流血してましたね…演技を続けるディカプリオもやばいけど、そのまま続ける周りもやばいし、カットかけないタランティーノもやばい。笑
あまりの暴虐武人ぶりに、イライラしてせっかく我慢していたジャンゴでしたが、先にキレたシュルツによってあっさりやられちゃうキャンディ。そっから怒涛の展開でしたね…劇中ここまで、シュルツはあくまでも合理的で割と冷酷に描かれていたのであんなところで銃を出すとは思っていなくて…それだけ許せなかったって事なんでしょう…その心情の動きも含めて、ちょっと泣けるシーンだったな…
さて、キャンディというキャラクターは歴史を紐解くと別段おかしな人でもないし、大農場の領主であればスタンダードくらいの人だったのかもしれない。自分がやっている事や信じている事柄が間違っているという事を知らないだけなんですよね。だからこそタチが悪いんだけども…キング・シュルツやジャンゴ、ブルームヒルダに対する扱いは正直ゾッとするものがあります。でもそう思えるのは、今の平和な時代にアジア人としてぬくぬくと過ごしているからであって…

本当のラスボス、敵は同胞だった

キャンディが死んでなお、ジャンゴを追い詰め、ブルームヒルダとの仲を引きさくのが、キャンディの屋敷で奴隷頭として働く同じ黒人のスティーブン。

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もう、登場した時からやなやつで…自分が黒人で奴隷という意識があまりにありすぎて、(当時としては)高待遇を受けるジャンゴを思いっきり敵視。客だっつってんだから黙ってろよと思いますが、まあそこは映画なので。彼は、白人であり自分達を支配する立場のキャンディを敬う為に、他の黒人にも同様の接遇を求めるし、なんだったらひどい仕打ちをするのです。それって…なんか歪んでますよね?

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(内緒話が楽しそうなお二人…)
実際に当時、こういう立場にいた黒人はいたのでしょうか?ある意味、虐待されたり心身の危機に晒される機会は減るのかもしれませんが…ううーん、いまいちしっくりこない。劇中ジャンゴが演じた「黒人の奴隷商人」ってのも本当に???って思っちゃう。
さて劇中に話を戻すと、このスティーブンはキャンディや屋敷の人達をバンバン撃ちまくったジャンゴを捕まえて、過酷な現場として有名な鉱山に売り飛ばしてしまうのですが、なんだかんだと逃げて舞い戻ってきたジャンゴにめっちゃめちゃにやられるという…全観客がイラついていたスティーブンが見事に爆破されてきっとみんなスッキリしたはず。笑

エンタメかと思いきや、後から色々と考える事になった

結局、見ている途中は割とエンタメの方向にふっていていつものタランティーノっぽく見ていられるんですよね。かっこいいバディ感、バイオレンス描写、お得意の言葉遊びなどなど…

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(必要だったのかどうか謎のシーンを担うドン・ジョンソンさん一味。笑)

基本的にタランティーノが好きな私としては結構楽しんだのですが、よくよく考えると割とよく考えなくてはいけない事も結構散りばめられているというか…バイオレンス描写がお得意のタランティーノにしては比較的控えめだったし、あくまでも「歴史」をエンタメにして笑おうってので作ってる訳じゃないんですよね。ある意味、歴史に散っていってしまった人達の為の復讐の様な…
自分の無知を恥じるきっかけにもなりました。きっともっと、色々と知るべき事実や歴史があって、今を生きる人間として理解しなくてはいけない事がたくさんある様な気がしました。


ジャンゴ 繋がれざる者

Django Unchained
2012年 アメリカ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ジェイミー・フォックス、クリストフ・ワルツ、レオナルド・ディカプリオ、サミュエル・L・ジャクソン、他


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