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よろい

ひさびさに会った君は、あの頃とは全く違った。
ニコニコしていて、グラスを片手におどけている。
「もしかして くん?」聞き覚えのある声が僕の名前を呼ぶ。
「久しぶりだな。 さん」僕は、大人になりすれ減ってしまった声で返答した。
「まさかこんな所で再会できるなんて。それに、私って気がついてくれて嬉しい」
「すっかり変わっちゃったでしょ、私」
「まぁ、少しね。
                   」


私は、自分が嫌いだった。
昔から、ブサイクで、友達なんていなかった。
周りの女の子は、よってたかって私をいじめた。
世界は、私に冷たかった。
人は、「陰気だ。何考えているかわからない」そう言って私の首を搔き切ろうとした。
幼い頃から、切りつけ続けた私の手首は赤い五線譜のようだった。

だから私は、胸に願いを詰めた。
      鼻に虚栄を入れた。
      眼はこれから変わる世界をきちんと見るために大きく開いた。
      アゴは、今まで伝った涙と一緒に削ってやった。
私は、可愛いの鎧を纏って、人生をやり直すことにした。
だのに人は、「前のままでも可愛かったのに」なんて軽々しく言う。私の決意を軽々しく踏み付ける。

だから、私はうれしかった。
あなたが
「でも、一層可愛くなったね。僕は、今の明るい、笑顔を見せてくれる君の方が好きだな」って言ってくれたこと。

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