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綺麗な思い出のまま残しておきたかった

今の恋人と付き合って、1年がたった。
素敵なことだ、幸せなことだ。

だけど同時に、これまでの恋人のことがびっくりするくらいすっからかんになっていた。そもそも存在を思い出すことがめっきり減っていたくらいだから、「過去」になってるんだと思う。

恋人の匂いはジップロックに入れて保存したいし、恋人が何気なくくれたお土産は手放したくないし、恋人の着た服は洗濯の前に一回私が着たいし、恋人の一本一本の毛まで愛したいと思ってしまう私だから、これまでの淡い恋愛の思い出として全ての記憶も思い出として残しておきたかったのに。綺麗な思い出ばかりを詰めた、開けないけど持っておきたい心の箱の中にしまっていたはずなのに。
この前ふとその箱を持ってみたら、なんか軽くなっていたような気がした。
おかしいなと思って、開けちゃだめな箱なのに開けてみちゃった。


そしたら涙しか入ってなかった。嬉し泣きした時のも残っていたのが幸いだったけど。口癖も、髪の触り心地も、匂いも、2人だけのネタも、全然輪郭が定まっていなかった。一緒に行ったところも、朝までLINEや電話をしてたくだらない話も、全部滲んでて思い出せなかった。
鮮明にあるのは、林の中で別れ話を切り出した時にどうしようも泣く彼の姿とか、落ち着いたらLINEしてって言ったら数日間ほっとかれて「落ち着いたらって言ったのお前だろうが」って言われたこととか、電話でさよならを言われた数日後の電車の中で突然私が号泣して座り込んでしまった瞬間とか、女の子のストーリー上げてるのに返信がなくて悶えている私とか。

本当は、彼の家の階段から見える大学の時計塔に差す夕陽とか、初めて「愛してる」って言われた日のこととか、私の誕生日のこととか、そんなことをしまっていたはずなのに。

今何してるのかも、元気でいるのかも知らないし、知りたいとさえ思わなくなったことは本当に私が前に進めている証ではあるのかもしれないけど、今じゃなくてせめて過去のことくらいはこっそりしっかり抱きしめていたかったのにな。悲しい部分なんか忘れて、確かにあの時の私は幸せだったってことだけ覚えてたかったのにな。


恋は上書き保存なんて、誰が言ったんだろうね。
全然別フォルダのまましまってたいよ。
もう開けないって約束するから。
だから、これ以上減らないで。

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