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カザフスタンとウズベキスタンの強権体制

本文のpp.5-6に新疆ウイグル自治区を含めたトルキスタン全体の概要について、また注17(p.220)にトルクメニスタンの世襲王朝化について、記しました。ここでは今回のカザフ情勢を話の枕に、それ以外の国々についてまとめておきます。

・ カザフスタンでは政権が危機を迎える都度、前倒し大統領選によって国民に信を問う手法が常態化している(信任投票的な一種の国民投票として、大統領選挙を前倒しすることで多選禁止規定を反故にするようなご都合主義がこれまでもまかり通っており、今回も政権側が表向きに言っていることを真に受けても仕様がない)。
・ 今回もその倣いで、任期末を待たずに大統領選挙を実施するとともに、抱き合わせに多選制限を導入を表明することで反発を抑えようとしている(もともと旧ソ連崩壊後に独立したさいには大統領の3選は禁じられていたが、以後29年間にわたり君臨したナザルバエフ政権が途中で多選規定を撤廃していた)。
・ ナザルバエフ前大統領は19年3月に退任したものの、トカエフ現政権になっても、ナザルバエフ氏の一族が影響力を維持したことで国民の反感は収まらなかった。
・ 今年1月に大規模な反政府デモが起こり、政府はこれを独力では抑え込めずにロシア以下の旧ソ連圏諸国に軍事的支援を求めた。
この辺りまでが以下の記事の要点ですが、これだけでは全体像は分かりません。

・ ナザルバエフ前大統領には男児がおらず、三人娘の長女に世襲する方向で布石を打ってきたと考えられていた。
・ 長女は後継大統領となったトカエフ氏(旧ソ連の外交官上がり)の後任として上院議長に就いたが、国民的な人気を欠いた。
・ 隣接するウズベキスタンの同年輩のカリモフ大統領が急死したさいに、後継大統領が一族(やはり娘ばかりだった)に容赦ない摘発を始めたことで、ナザルバエフ氏は危機感を抱く。
・ にわかに大統領を辞任し、長女を中心とする一族の利権を保とうとして日本でいうところの院政を敷こうとするが、国民の不満は収まらず、再選されていたトカエフ大統領に与党その他の役職を罷免されて、今年1月に一族もろとも国外に逃亡した。

特定の有力者のファミリーに牛耳られた発展途上国のご都合主義の強権体制の実態と、その種の「投票制の権威主義」(p.60,156)の最大のものが、プーチン政権であることがお分かりいただけると思います。それでもこれらの国々は、開票操作を含めた不正を行っているにしても、一応の民主的な投票制度をもっているだけ、中国以下の社会主義国よりはマシなのです。
なおナザルバエフ氏にしてもカリモフ氏にしても、旧ソ連末期の共和国第一書記が独立した共和国の大統領に横滑りしたものであり、揃いも揃ってゴルバチョフ体制の下で台頭した民族共和国の指導者でした。
またカザフスタンで反政府デモが起こりやすくなっているのは、隣国の大国と同様、かつてエネルギー価格の高騰で潤っていた経済が立ち行かなくなっている事情があります。
ナザルバエフ氏が辞任した19年3月の前月にも、トカエフ現政権が旧ソ連圏の兵力を導入した今年1月にも、危機の打開のために首相が更迭されています。今回は直後の大統領退陣に至らないまでも、依然として国内情勢が沈静化していないということなのでしょう。
  


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