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ギターは、夢たちを泣かせる

私の高校時代の友達はヴァイオリン弾きだ。彼女がドイツでヴァイオリンを勉強していた時に、課題曲として弾いていた曲の録音を、お家で聞かせてもらった。

プーランクのヴァイオリンとピアノのためのソナタ FP.119。

この楽曲は、1942年の夏から翌43年の春にかけて作曲された、プーランクの最後のヴァイオリンソナタ。

スペインの内戦に巻き込まれ銃殺された、そして自由を愛したスペインの詩人、ガルシア・ロルカにささげられた曲だ。

ちょうど、プーランクがこの楽曲を作ったころ、世界は第二次世界大戦の真っ最中だった。この時期、プーランクの身近でも、人々が戦争によって犠牲になっていった。そうした身近に迫りくる無情さと死を目の前にして、プーランクは「怒り」よりも、「祈り」や「内的な感傷」でそれを表現しようとしたという。

そんなプーランクの作品としてはめずらしく、このヴァイオリンソナタの第一楽章、第三楽章は荒々しく、まるで戦争中の人々の混乱と怒りを生々しく表しているよう。それに比べて、第二楽章は、甘美でどこか切ないメロディーが流れてくる。

その第二楽章にだけ、ガルシア・ロルカの「六本の弦」という詩がの冒頭文が引用されている。

ーギターは、夢たちを泣かせるー

友達のヴァイオリンの先生は、この楽曲を弾く前に友達にこういったそうだ。

「この第二楽章は、戦争の不安、恐怖、混乱の中で、ふと、光がさすように出てくるんだ。『そうだ、そういえば、昔、こんな幸せな瞬間があったなぁ。スペインの田舎町で、日が暮れるまでみんなと音楽を奏で、笑って踊ったんだ。自由で平和だった。』と、過去の幸せに一瞬引き戻されるように。そんな風に弾いてほしい。」

もちろん、私は戦争を経験したことはないので、私には到底知り得ない感覚なのかもしれない。でも、もしかしたら、その心情は、苦しいときに、ふと幸せだった過去の瞬間を思い出して、胸がぎゅっと締め付けられるような、そんな感情に近いのではないか、と思った。

とても美しく、儚く、懐かしく、子どもみたいに泣きたい気持ちになった。

お家の窓はとても広くて、そこからだんだん赤くなっていく夕陽を眺めながら聞いた彼女の演奏は今でも忘れられなくて、ふとした時にその時の感情を思い出している。

※第二楽章は6:30からです。


#プーランク #音楽 #思い出 #儚い #クラシック #ヴァイオリン

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