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波佐見焼の廃棄物も再利用!町ぐるみでサスティナブルな取り組みを~長崎県波佐見町~

長崎県波佐見町役場の商工観光課に勤務し、廃石膏型リサイクルプロジェクトを担当する今里さんにお話を伺いました。

—これまでのご経歴を教えてください。

今里:私は生まれも育ちも波佐見町です。高校卒業後は福岡県にある大学に進学したのですが、いったん波佐見町を離れたことで、改めて地元の魅力を感じまして。それで、波佐見町に戻って就職をすることに決めました。

波佐見町役場に入庁したのは、大学卒業後の平成25年です。最初は農林課に配属され、害獣関係や棚田の保全、農家さんの機械関係の補助事業に関わる業務などを担当していました。

はじめは農業のことはまったくわからずに働いていたのですが、次第に「波佐見町のために自分は何ができるだろうか」という、使命感が強くなってきたと実感しています。

農林課に8年勤務したのち異動になり、商工観光課で働き始めて今年で3年目です。今は地域の乗り合い交通に関わる業務や、波佐見焼の廃石膏リサイクルに関するプロジェクトをメインに担当しています。

—プロジェクトの概要、廃石膏について教えてください。

今里:波佐見町ではやきものの生産が盛んで、波佐見焼が町の主な産業となっています。この波佐見焼を作る際に石膏型を使用するのですが、100回程度使うと摩耗して使えなくなってしまいますので、従来は廃石膏を産業廃棄物として埋立て処分をしていました。

しかし、2017年頃に最終処分場から受入れを拒否されはじめたこともあり、行き場を失った廃石膏が町内で散見されるようになりました。

波佐見町は「半農半陶の町」であり、波佐見焼は波佐見町の大切な産業。持続可能な産地をめざすためにも民間と行政の協力体制が不可欠です。そこで、廃石膏を何か他のものに生まれ変わらせて再利用する取り組みを始めることになりました。

産業廃棄物関係のプロフェッショナルである外部コンサルタントの手を借りて、プロジェクトが始動したのが2019年のこと。石膏由来の肥料があることからも着想を得て、廃石膏を農業用肥料として再利用することを検討しました。石膏型の原材料である硫酸カルシウムは、もともと農業用資材としても使われているんですよ。

そして、長崎県の農林技術開発センターにおける実証実験などを経て、廃石膏の肥料化に成功し、2023年3月には肥料登録にまでこぎつけました。肥料登録に向けた実証実験に協力してくれる農家さんを探す際は、前に所属していた農林課での経験や縁をフルに活かすことができました。

基本的な農業の知識を身につけていたのはもちろん、農家さんとの繋がりもできていたので、納得して協力していただけました。

他の産地と違って、波佐見焼は分業制で成り立っています。生地の形成から焼き上げまでのすべてをひとつの会社が手がけるのではなく、石膏型を作る型屋さん、型をもとに形成する生地屋さん、絵付けをして焼き上げる窯元さん、販売する商社さんがそれぞれ協力しあって波佐見焼が市場に出るんです。

波佐見焼に関わる人たちが多いこともあり、廃石膏プロジェクトは町を挙げたサスティナブルな取り組みとなりました。

—石膏由来の肥料としてどのような農作物を作ったのですか?

今里:例えば今は、「陶箱クッキー」が非常に人気になっています。廃石膏を肥料として散布した田んぼで育てたお米から作った米粉でクッキーを焼いて、波佐見焼の器に詰めたセットのお土産商品です。

この陶箱クッキーは、「グッドデザイン賞2021」や「長崎デザインアワード2021」など、さまざまな賞を受賞。販売すると、その日のうちに売り切れてしまうような人気商品になったんですよ。陶箱クッキーに続く第2弾として「陶箱ポン菓子ショコラ」という商品の開発も進んでいます。

こうやって、廃石膏プロジェクトは、地域内で資源の循環ができているんですね。

—廃石膏プロジェクト以外の商工観光課のお仕事についても教えてください。

今里:商工観光課ですから、観光部門の仕事も担当しています。突発的なイベントなどは課内で担当が決まっておらず、臨機応変に担当。催事があれば、全国各地に飛んで波佐見町のPRをさせてもらっています。このような仕事も、外部から刺激を受けることができるのでおもしろいですね。

波佐見町のPRにしても廃石膏プロジェクトにしても、入庁前にイメージしていた公務員の仕事とは違いました。デスクワークが多いのかと思っていましたが、現場にでることも多いです。地元内外のいろんな人とふれ合いながら仕事ができる点にやりがいを感じますね。

廃石膏プロジェクトでも、2カ月に1回、波佐見焼に関わるさまざまな事業者さんと集まって推し進めているんですよ。

プロジェクトを抱えて忙しく働いてはいるものの、自分の中でスケジュールを組みやすいので、割と思ったとおりに仕事を進めることができていますね。

—今後の取り組みについて教えてください。

今里:まずは、廃石膏プロジェクトをより多くの町内事業者さんに浸透させたいです。環境問題に対しての取り組みは、どうしても売り上げの次になりがち。もっと多くの事業者さんにサスティナブルな取り組みの意義を知って賛同してもらい、波佐見焼をますます盛り上げていきたいです。

さらに、廃石膏を農業用肥料として再利用するだけでなく、建築資材として活用する新たな事業にも取り組んでいます。実際に波佐見町役場の新庁舎建設の際に廃石膏を建築資材として一部使用したものの、民間の住宅に使用する段階までは来ていません。

廃石膏を建築資材として広く普及させるために、地元の建築会社の方も協議を進めています。

本来ならばまずは学識経験者の方と組んで推し進めるところですが、その工程を飛ばしてJIS規格を認定する施設を直接訪問したことなんかもありました。訪問先では「こんなの初めてです」なんて言われていますよ(笑)。

—仕事のやりがいについて教えてください。

今里:陶磁器由来の廃石膏を地域全体の取り組みとして実施しているというのは、おそらく日本で初めてではないでしょうか。このプロジェクトに関わっていること自体、とても幸せなことだと思っています。

職人さんたちが廃石膏の処理に気を取られていては波佐見焼が安心して作れませんから、波佐見町のためにも問題解決に関わる仕事に携われることにやりがいを感じていますね。

公務員としてやりたい仕事や目標があったわけではありませんし、これまでに農業や波佐見焼に関わる仕事をしていたわけでもありません。農業も波佐見焼も知らなかった私ですが、公務員として働くことで、波佐見町の未来を作っているなと実感しています。

ーありがとうございました。

この記事は2024年4月11日にパブリックコネクトに掲載された記事です。
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