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スポーツ界におけるハラスメント

ハラスメントという言葉は今では世の中に浸透している。セクハラ、パワハラやモラハラなどハラスメントの形態も様々で社会の認知が深まる一方、スポーツ界におけるハラスメントはなかなか問題視されていない。中国で冬季オリンピックが開催される今だからこそスポーツ界におけるハラスメントについて再考したい。

ハラスメントとはなにか

そもそもハラスメントとは何だろう。一般にハラスメントは相手の意に反して不快や不安な状態に追い込む言動、あるいはそうした環境を作ることとされる。このとき故意があるかなしかは関係なく、悪気がなく発した一言や行動がハラスメントとなることもある。ハラスメントは拒否したりクレームをつけることによって当事者に利害が生じる状態で起こる。つまり、ハラスメントは両社の権力関係を背景に生じる。

何故スポーツ界におけるハラスメントに注視すべきか

スポーツ界におけるハラスメントは通常よりも注意が必要な理由としてスポーツ界は権力関係が成立しやすいことがある。競技者・指導者間の権力関係を生み出す要因としては以下のことが挙げられる。
<指導者側の要因>
〇指導者としての実績
〇レギュラー・派遣選手の決定権
〇進学や就職時の推薦決定権

<スポーツ集団側の要因>

〇子弟的上下関係(指導者と競技者間だけにとどまらず、先輩・後輩間にも起こりえる)
〇和を優先する場の問題(連帯責任など)
〇集団凝集性(Group Cohesiveness) の高さ
〇固定的な指導環境
<競技者の要因>
〇競技成績は就職や進学に有利
〇指導者への忠誠心・憧れ・精神的依存

以上の相関関係からもわかる通り指導者と競技者との関係性が権力関係を生み、ハラスメントを生みやすいかつ、継続・根付きやすい状況に陥りやすいといえる。

状況に依存するハラスメント

ハラスメントの判断基準が被害者側にあることも大いに問題である。ハラスメントの受け入れ方は人によって異なり、被害者の主観によるのでその証言に依存することになる。法律の対象にならない程度のハラスメントは個々の言動では定義できないのだ。被害者自身が被害状態を訴えることができないのもスポーツ界にハラスメントが蔓延る要因でもある。被害を訴えると指導してもらえない、就職や選抜に不利になる、周りからのプレッシャーや
指導者に対する信頼・陶酔・依存などが大きな原因となる。また、当事者自身が被害を受けていると認識できないケースも考えられる。近年では被害者自身が被害にあっているのも気づかないほど周到に時間をかけて手なずけることをグルーミングといい、グルーミングの期間が長ければ長いほど当事者は洗脳から逃れられず、ハラスメントに気が付けないばかりか状況を変えることのできない自責の念や自暴自棄に陥るケースも考えられる。

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ハラスメント的言動が起こった際→嫌と言えない→周りが口にだせない、傍観する→ハラスメントの黙認→ハラスメント増長・継続といった悪循環に陥る。

気づかないハラスメント

先にも述べたようにスポーツ界において指導者と競技者の権力構造は築きやすいが上にハラスメントに対する脆弱性があるが、ハラスメントは指導者・競技者間だけでなく先輩・後輩間や競技者・スポーツ観戦者間でもハラスメントも成立する。例えば飲み会の場で性的な嫌がらせをする、性的な余興を無理強いすることや、スポーツ観戦中にアスリートを性的にみる、またはその対象とするような発言をSNSで行うなど様々だ。そのほか、競技者の容姿に対する言及や不必要な接触・不必要な視線を送ることなどもハラスメントの対象となる。注意が必要なのはハラスメントは異性間だけでなく同性間でも起こりうる。

また、近年特に問題視されているのはスポーツ界におけるジェンダーハラスメントだ。女性や男性らしさといった性役割を無理強いすること、恋愛・結婚・妊娠・出産などは極めてプライベートな問題について触れるこなどもハラスメントとなる。

大学生を対象にした調査の結果


近年発表された大学生を対象とした調査では一般社会でセクハラとおもわれてもスポーツの場ではセクハラを黙認するような要素が起こりえることが明らかになった。また同時に指導者側にハラスメントに対する認識が浸透している一方、日本では諸外国に比べ競技者間におけるハラスメントの認識の低いということがわかった。特に競技者はハラスメントに対する許容と服従を経ることが競技者としての生き残り戦略とされていることがしばし見受けられた。

想定されるケース(1)

もしあなた自身が指導者ででセクハラを訴えられるのを恐れていたとしたらどうだろう。まず、指導者同士でのデモンストレーションを行うことを徹底し、競技者に意味なく接触することは控えるべきだ。また、動画を協議者と共有するなどして身体的接触をできるだけ避けるべきである。指導は決して一対一で行わず、たとえ同性であってもできるだけプライベートでの指導や身体的接触を避けるべきだろう。もし未成年者を指導する場合は保護者に対する説明責任と透明性を確保することが重要だ。

想定されるケース(2)

もしあなたが指導者でチームの中の競技者が性的マイノリティという噂があった場合どういった行動をすべきだろう。まず、噂の真意に関わらずマイノリティを揶揄することは不適切とし、噂を断ち切ることが重要だ。アウティング(本人の意思に関係なくセクシュアリティを公にすること)になる可能性があり本人に真意に確認する必要はないが、必要であれば相談にのることも重要だ。セクシュアリティは極めてプライベートな問題であるため慎重な対応が求められる。

もしハラスメントの現場に遭遇したら

もしあなた自身がスポーツにおけるセクハラやモラハラなどの現場に遭遇したらまず、黙認しないことを実践してもらいたい。まずは信頼できる人に相談し、当事者自身と話合う機会を持つことも重要だろう。また、大会運営側に報告したり、大会の通報窓口を利用することでも当事者の助けとなる。また、余裕があればハラスメントに対する指針表明をしたり、キャンペーンを行うことも重要だ。

参考文献

井谷聡子(2016)「スポーツとセクシュアリティ」日本スポーツとジャンだー学会編「データで見るスポーツとジェンダー」八千代出版

Takamine, O. (2012) "Factors Concerning Perceptions of Sexual Harassment in Sports Settings Among Top Tanking Japanese Coaches and Athletes, Proceeding for World Congress of Sociology of Sports 2012.


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