見出し画像

環境問題と政治がテーマのDon't Look Upはダークコメディではなく、もはやダーク

Don't Look UpがNetflix上で公開されて以来、物議を醸している。映画のカテゴリーとしてはコメディだが背景には笑えない社会問題が潜んでいる。*この文章にはネタバレも含まれます。映画をみたい方はご注意ください。

この映画は、天文学部の博士課程学生ケイト(ジェニファー・ローレンス)が、新しい彗星を発見したところから始まる。ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)とともに大発見だと大喜びしていると、なんと巨大な彗星が徐々に地球に向かっていることがわかってしまう。この人類だけでなく地球全体の生命を脅かす災害に立ち向かうべく二人はホワイトハウスへ向かう。しかしそんな二人を待ち構えていたのは圧倒的な社会の「無関心」だった。

 彗星が地球に向かっているのが事実であるのならばパニックも起こっても不思議ではない。しかし映画のように脅威が過少価値されることもしばしばある。この現象は正常性バイアスという心理現象で緊急事態下でも人は「まだ大丈夫」と思ってしまう傾向がある。また、同調バイアスと呼ばれる現象もあり、多くの人の意見があたかも真実のように見えてしまうこともある。これらは過去にも実例が存在する。例えば水俣病や四日市ぜんそく、イタイイタイ病などの公害も市民が健康被害を受けていても国や企業や利益を優先し、なかなか具体的な被害者支援にはつながらなかった。また2020年のコロナのような疫病の出現でも各国の政策の違いで国民の健康状態が脅かされることになった。映画Don't Look Upが描くのはそんな分断された権力構造でもある。

画像1

(ジェニファー・ローレンスが演じるケイト役のモデルは環境アクティビストのグレタ・トゥーンベリかも?)

映画では彗星が目視されないときは彗星の科学的根拠が求められ、信じるものとそうでないものとの対立が描かれた。これもまさにコロナ禍のリアルともいえる。一方では新型ウィルスの科学的根拠や実証がなされ、その一方でウィルス自体の存在を問う人や、ウィルスが人工的にまかれたなどという説さえ叫ばれた。

 時が流れ、彗星が地球から肉眼で見られるほど近づくと等々パニックになるかと思われたが大手企業が彗星に存在する自然資源に目をつけると彗星を破壊するのではなく、うまく利用できないかというほうに世論は流れる。彗星の自然資源を利用することで多くの雇用が生まれ、経済が潤うと考えたからだ。これも実際に起こっている地球環境変動にシンクロする内容だ。実例として二酸化炭素にキャップ(排出量の上限)を設けることで世界的に二酸化炭素排出の低下が試みられたが企業によっては金銭を交換に排出の上限をあげようとする傾向もある。環境対策もフリーライダー(対価を支払わず利益を得ようとする人)の対策ができていないと機能しないのだ。

 映画で描かれる雇用や経済的見返りを政治的演出に使う手法は、まさにドナルド・トランプが大統領選で行った方法だ。トランプ氏のプロパガンダでは主に富裕層や大企業を優遇する政策がとられ、低取得者層はその恩恵を受けるものとして特に社会的措置はなにも行われなかった、しかしそれにも関わらず一部低所得層がトランプ氏を支持したのにはアメリカの異様な権力構造と分断主義が表れている。

 本作は、あらゆる社会的・政治的・環境的問題において国民が二つの派閥に分断されるアメリカの奇妙な社会を描いている。しかし、双方の陣営を「どっちもどっち」と冷ややかに笑い飛ばしているようでは問題だ。時に派閥も生まれないような政治的無関心のような国であればどうだろう。社会は疑問や反論を生むことなく政治的な抑圧で鎮静され続けるだろう。

コロナ禍は闘争と分断を社会にもたらし続けている。映画Don't Look Upもそんな分断された世の中を描いている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?