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末っ子がさんさいになった。

昨日、末っ子が3歳になった。
あの、洗面器にすっぽり収まっていた赤ちゃんが、立って、走って、飛んで、話して、歌って、3歳になった喜びではちきれそうになっていた。

朝起きて、お布団の中で「お誕生日おめでとう」と言うと、にっこり顔で「ありがとう」と返ってきた。

「今日で何歳になったの?」

「ちゃんちゃーーい」

ああ、なんてかわいいの。

それを聞いていた息子が

「2歳が恋しいなぁ」
とつぶやいた。
「3歳になってどんどん大きくなって、小さい末っ子じゃなくなるのがなぁ…なんかなぁ…」

うんうん、さみしいねぇ、と答えると、「うん」とひとこと。

*

末っ子のクラスに、去年の9月、新しいお友達が入ってきた。
そのお友達のお誕生日は9月で、入舎してすぐにお誕生日会の席に並んだのだ。
末っ子としてはちょっと驚きだったらしい。
私より後輩なのに、なんで私より先に登壇してるの、的な。

「○○くんがお誕生日だった。末っ子はまだ?」

その日を境に何度聞かれただろう。
なんと言っても半年後だから、こちらも返事に困ってしまう。

「えっと、まだ…かな…」

と非常にお答えしにくい返答をしてきた苦節6か月、こちらもようやく解放されたような気分。

*

私もこの開放感が嬉しくて、それはもう何度も言いたくなる。

「お誕生日だね」
「3歳だね」
「もう2歳じゃないんだね」
「今日はなんの日かな?」
「お誕生日になったんだよ」

朝起きたその時から、何度も何度も「お誕生日」を繰り返してしまう。
そして、末っ子も何度言われても嬉しくて、もう100回目かもという段になっても、1回目と変わらない満面の笑みで答えてくれた。

*

夜は末っ子リクエストの唐揚げと、カレーと、ハム(はマカロニサラダにした)その他、を用意してお祝いした。
自分のために用意されたご馳走だと言わんばっかりに、みんなに「食べてね」と何度も勧めていて、そのあまりのかわいさにちびるかと思った。

マカロニサラダがいたく気に入ったらしく、一生懸命自分のお皿に取り分けて、抱え込んで食べて、結果、お腹がいっぱいになった末っ子はカレーには一口も手をつけなかった。あれ、どういうこと。
唐揚げがかりっとじゅわっとほんとうにおいしくできたので、なんとか1個だけでもとお願いして食べてもらったけど、カレーはじめ、カリフラワーのポタージュなど、食べた形跡ゼロのものがテーブルの上に残っていた。
いや、いいんだけどね。お誕生日だし。なにも言うまい。

食後はマイメロちゃんとキティちゃんのいちごケーキでお祝いした。
もちろん、ぜんぶ末っ子のリクエスト。
ああ、いつの間にやら、こんな女子めいたものに心を奪われるようになったのね。
長女のぐだぐだのピアノでハッピーバースデーをみんなで歌って、末っ子がろうそくの灯を消した。
カットしたマイメロちゃん部を嬉しそうに食べていた末っ子。愛しさ。

*

下に行くほど、一喜一憂することが少なくなって、かわいいの純度ばかりが増していって、それはそれでとっても幸福で最高なんだけど、その分日々があっという間に過ぎていく。
長女のときは1日が1年くらい長く感じたイヤイヤ期だって、末っ子に関してはほとんどが「ああ泣いている、かわいいな」だから、一瞬の出来事だった。

つい先日分娩したと思ったのに、もう3年経っているなんて時空のゆがみに眩暈がする。ずりばいとか伝い歩きとか、あったっけ?と本気で思う。

あんなに嫌がっていた幼稚園も、いつの間にやら自分で園の用意をするようになって、門についたら振り返りもしない。
ちいさい背中が頼もしい。頼もしくてさみしい。

信じられないけれど、これからもっともっと大きくなって、いつか「さしすせそ」もはっきり発音できるようになって、「ママ抱っこ」なんて言ってくれなくなる日が来るのだ。
そして、それまでの日々もきっとあっという間のできごとなんだろう。

*

ああ、かわいいなぁ、さみしいなぁ、と昨日は幕を下ろして、今日になった。
今朝もまた性懲りもなく、「何歳になったんだっけー」と末っ子に訊ねると、「ちゃんちゃーーい」と返ってきた。
のだけど、ちょっぴりいたずら心が芽を出して、「でもさ、お誕生日が終わったからまた2歳に戻ったんじゃない?」と言うと、末っ子は小さなお目目をぱっちり見開いて、少し沈黙した後、神妙な顔で「うん」と言った。

まさかと思って、「なんさい?」と訊くと、「にちゃい」と真剣な面持ち。




コノビーさん公開になってます。

また読みにきてくれたらそれでもう。