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ため息が出る夜には、『ラブ・イズ・ザ・ベスト』を。

こんにちは、ぷるるです。

カナダでヒッチハイクをしたり、夜中に犬の唸り声を真似するような私ですが、ため息が出てしまう日も、当然にあります。

そんな時に、よく手に取るのがこの本。

1986年に出版されました。

佐野洋子さんといえば絵本「100万回生きたねこ」がとても有名ですが、エッセイの名手としても知られています。

私にとって佐野さんといえば、このエッセイ「ラブ・イズ・ザ・ベスト」。

落ち込んだ時や気分がふさぐ時、後悔にさいなまれた時に、何度もこの本に助けられてきました。


「ラブ・イズ・ザ・ベスト」は、佐野さんが関わってきた人々との思い出を、1人につき1話ずつ書いたエッセイ集です。
けれど登場人物たちがあまりに個性豊かなので、なんだか短編小説を読んでいるような気になります。

例えば、父のヤブな主治医、中年男性に恋するドイツ娘、運命の男性と結婚したお婆さん、団地でミシンを踏む真のデザイナー、地下鉄で出会った危険な香りのする男・・・。

どうです、こんな登場人物のお話。ちょっと読んでみたくなりませんか?

目次です。どれが先ほどの人物の話だと思いますか?


中でも特に好きなのは、本のタイトルにもなった「ラブ ・イズ・ ザ ・ベスト」でしょうか。

佐野洋子の叔母には「野本さん」という友人がいた。
毛皮のコートをいつも羽織り、上品な言葉遣いで話す野本さんは、当時では珍しい未婚の母だった。子の父親は進駐軍のアメリカ人である。
なぜ子供を産んだのか、と問う叔母に野本さんはこう言った。
「だって良子さん、わたくし、ラブ ・イズ・ ザ・ ベストって思っていましたもの」
これは愛を選んだ野本さんの、豊かな人生のお話なのです。

何回読んでも、胸にくる一話です。


この本に出てくる人々は、「あの角を曲がった家に暮らしているかもしれない」
と思わせる身近さがあります。まあちょっと・・・いやかなり個性が強いけれど。

初めて読んだ時は17歳でしたから、ちょっと大人の世界をのぞき見している感覚もありました。
でも年を経るごとに共感の相手が変わり、当時は分からなかった意味が、気持ちが、より胸に迫るようになったのです。

佐野さんは、エッセイの中で誰のことも否定や肯定をしていません。
鋭敏な観察眼で見たことを、ユーモアを含んだ文章で淡々と描いています。
でも文の奥にある視線のやさしさから、深い「許し」を感じるんですよね。

「いろいろ問題ありのアンタだけど、まあいいじゃない。
デコボコしている人生も、悪くないわよ。
必死で一生懸命で、滑稽。でも生きるってそういうことでしょう?あなたも私もね」

私はこんな言葉を、「ラブ・イズ・ザ・ベスト」から聞いているのだと思います。


<おまけの絵本>

私が佐野洋子さんを知ったのは、5歳の時に買ってもらった絵本が最初です。

佐野洋子さんが初めて出した絵本です。

気弱なねこちゃんと、気の強いすーちゃんのお話です。
この絵を見るだけで、その関係性が一発で読めますね。

すーちゃんとねこちゃんは大の仲良し。
ある日ねこちゃんは、木の枝に引っかかった風船を見つけます。
でも隣にいたすーちゃんは、ねこちゃんから風船を奪って走り去ってしまいます。

悲しみでいっぱいのねこちゃんは、あることを思いつくのですが・・・

風船を奪った後のすーちゃんがまた・・・。

ねこちゃんが見つめるのを知りながら、一緒におやつを食べたり、着せ替えごっこをしたり。ねこちゃんがいるからより風船が可愛く思える・・・子どもらしい意地悪さが、ばっちり描かれています。

幼心にすーちゃんのパンツの行方が気になりました。

子どもの頃はすーちゃんが大嫌いでした。でも今になるとすーちゃんの気持ちも、よーくわかるんですよね。

子どものことを、佐野さんは本当によくわかっていらっしゃると思います。

でも、ご安心ください。ラストはちゃんと大団円です。
ねこちゃん派の人もスッキリできますし。

佐野さんの自由な絵も相まって、読んだ後にのびやかな気持ちになる1冊です。













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