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旅の登場人物(2)顔だけじゃない接待員

 접대원(接待員)。ホテルの職員、ポーター、ウェイトレス、バーテンダー。商店や書店の店員さん。掃除のおばさん。カラオケバーやマッサージ師たちを総称することばだ。

 北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国の女性接待員。などと書くと、接待+美女=ムフフなことがあるのですか?と思う人も多いのかも知れない。

 ムフフなことは起こらないし、彼女たちはそういう存在ではない。

 確かに美人揃いである。肌は白くて細身で楚々とした雰囲気。美女軍団だっ!と口さがない人はいうが、それは正解でもあるが間違いでもある。

 顔だけじゃないのだ。彼女たちの本当の魅力は洒脱な会話と頭の回転の良さにある。こちらの稚拙な企みを込めた朝鮮語の会話を、バッサリと笑顔と共に斬り返す。これがたまらないのだ。カラオケバーの女性接待員たちは土間声のおっさんのへたくそな歌を、圧倒的な歌唱力で浄化する。そこに接待なんてものはない。全力の歌唱力で無慈悲に潰す。整った顔だけ見てデレデレしているうちは、彼女たちの本当の魅力などわからない。

 接待員の多くはチャンチョルグ・平壌商業大学で専門的にサービスを学んだ人が多いと聞く。2003年に初めて訪朝した際、日本人の同行者にホテルマンが偶然2名いた。彼らは宿泊した羊角島国際ホテルの接待員たちのサービスについて「実にレベルが高い」と高く評価していた。同業者から見ても一目置くところがあったようだ。

 経済制裁が厳しい中、北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国にとって観光は外貨を稼ぐ貴重な手段。元山葛麻海岸観光地区の観光開発は金正恩委員長肝入りで進められている。

 外国人と接する彼らの立場もまた特別だ。平壌行きつけの普通江ホテルのバー「銀河水」でのことだ。20代の女性接待員がバックヤードとカウンターを落ち着かない様子で行き来していた。耳を澄ますと電話がひっ切りなしに来ていて。バックヤードで誰かと話しているらしい。「彼氏?」と聞くと「違うんです。今日中国出張からお父さんが帰って来たので、早く会いたいですけど仕事があるから」というのだ。

 どこの国の父親も娘には甘い。彼女が父親と電話している間、ぼくと他の客はほったらかしである。中国に出張に行ける彼女の父親は相当のエリートと想像できる。接待員は良家の子女がほとんど、彼らは普通の市民とは違う特別な存在だということは、何度も訪朝した在日コリアンからも聞いた。

 バー「銀河水」にはイギリスとオランダ、エジプト人がいて、ぼくは中学レベルの英語を駆使して話していたが、ついに話が通じなくなった。カウンターの女の子を呼んで「ごめーん、通訳頼むわ」と朝鮮語でお願いすると快諾し、それは見事なキングダムイングリッシュでぼくの朝鮮語を英語に通訳してくれた。

 英語以外に中国語、ロシア語。英語ともう1言語話せるのが当たり前。才色兼備とはまさにこのこと。

 ポーターの仕事ぶりも真面目だ。平壌ホテルの書店の女性店員の本への造詣は深く「歌の本ありますか」と聞くと何冊も本を出し細かく説明してくれた。商店の売り子たちは実に熱心だ。「妻に化粧品買って行こうと思うんだけど、どれがいいかな」と聞くと、化粧水を数本出してきてそれぞれの効能について熱く説明してくれた。

 案内員と共に北朝鮮での旅行を彩る接待員たち。ぼくが北朝鮮について書き、話すエピソードのほとんどは彼らとの交流が紡ぎ出したものである。

 
■ 北のHow to その7
 美貌の接待員に近づきたい。色々北朝鮮について知りたいならば努力しなければならない。愚直に。泥臭く。つまらないプライドなどかなぐり捨てて。日本のように店に入ったら向こうから寄って来て忖度して、自分の思い通りまさに”接待”してくれるなんて期待しちゃいけない。いわゆる「おもてなし」を所望するのは北朝鮮においては、時に傲慢だ。
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