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ハーヴェイ・ミルクは、暗殺を予知していた

<ムービージュークボックス24>

「私のような人間は、暗殺されても不思議はない。まず、遺言を録音しておく」

自分はゲイであると公言して1977年の選挙を戦い、サンフランシスコ市の市政
委員になったハーヴェイ・ミルクは、命をかけていた。

ドキュメンタリー「ハーヴェイ・ミルクThe Times of Harvey Milk(1984)
アカデミー賞最優秀記録映画を受賞した。 

©︎www.jiluhome.cn

ミルクの遺言テープは、「希望のない人生は、生きるに値しない。そのためには、差別を撤廃してみんなが生きやすい街、サンフランシスコをつくることだ。ゲイへの差別は、高齢者、障がい者、黒人、東洋人へのマイノリティ差別へ連鎖している」と訴えていた。

しかし、3年間落選し続けたミルクの政治手腕に対する不安と疑問が、支持者にもあった。

ミルクが、まず手がけた政策は、わかりやすかった。厄介な路上の犬の糞に着目した。公園の記者発表の会場に早く行き、ミルクは犬の糞を置いておいた。発表後、その糞をミルクが踏み、カメラマンにシャッターチャンスを与えた。
そして、飼い主に、清掃義務を課す法案を通した。

次は、投票所に「投票機」を備え付けさせる法案。こうすれば、障がい者や高齢者あるいは帰化中国人などが、マーク方式なので、文字を書かなくても投票できるようになる。この法案も成立させた。

そして、最も成立が困難な「ゲイ権利法案」に取り組んだ。
ゲイを公表しても職を失わない法案だ。同性愛を告白すると、学校でいじめられたり、あるいは家に閉じ込められたりした。教師も医者も職を追われる1970年代に、ゲイの権利を市民に承認させるのは、とても困難な仕事だった。

14歳の時に同性愛者だと自覚したミルク。それは、心に負った傷のように思えた。しかし、この悩みは誰にも告白できず、沼のようにとどまっていた。

苦しい日々を過ごして、告白しても、傷口に酸をかけられる痛みに耐えるしかなかった。そんな自分の分身のような弱っている人々のために奮闘し、僅差で、法案を成立させた。

その日、サンフランシスコ市の40万人のゲイ、レスビアンが結集し、涙を流し、肩を抱き合って、祝福しあった。

この法案の恩恵を受けることができない、4,000km離れたペンシルバニアの一青年からも、ミルクへ熱い感謝のメッセージが届いた。差別に苦しんだ全米の同性愛者に夢を与え、力づけた権利法案だった。

ハーヴェイ・ミルク本人©︎www.intomore.com


一方、この法案に大反対したミルクのライバル、保守派のダン・ホワイトが失意の末、辞任。しかし、10ヶ月後に、ホワイトは、市政委員復帰を議会に申し出た。
しかし、市長に拒否され、激怒。市長を銃殺し、そして、ミルクも銃殺した。

訃報を聞いた多くの人々が、ミルクの家の前に集まり、怒りを抑え、彼への尊敬の念を表す沈黙のキャンドルで、列をつくった。1年前とは違う涙が、みんなの頬を濡らしていた。

ミルクへの献灯©︎allmovie.com


ホワイトは、2名を殺害した殺人罪で起訴された裁判が開かれた。

しかし、この裁判は、仕組まれていた。ミルクをよく思っていない検察もグルだった。弁護士側の主張通りマイノリティを排除し、陪審員はすべて白人でかためられた。

この結果、わずか5年半の実刑判決でホワイトを放免した。

軽犯罪のような判決は「市庁舎が、同性愛者によって腐敗し、その義憤でホワイトが立ち上がった。犯罪の背景には、ホワイトが失職中、ジャンクフードを食べ過ぎ、精神異常をきたしていた」という子供騙しの弁護によって引き出された。もちろん、ホワイトは、刑務所内で精神鑑定を受けることもなかった。

ダン・ホワイト本人©︎business insider

”サンフランシスコをゲイのメッカにさせない”アンチ・ミルクの報復だった。
議会の腐敗という大義名分が立って、被告に同情できる理由があればなんでもよかった。ホワイトは、彼らの英雄だった。

この判決に対して、サンフランシスコの悲嘆が憤怒に変わり、暴徒の街になった。

ミルクが命をかけてつかみ取った小さな街のゲイの権利は、人々の良心に種子を生みおとした。

現在、LGBTの権利は、国際人権として認められている。ミルクの目に歓びの涙を見ることができるように、私たちの頑張りが問われている。

LGBTフラッグ©︎www.redbanklegal.com

                   タイトル写真は©︎gettyimages.com





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