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『私の物語』〜心が震えた、異文化からのおくりもの 〜 1986 その捌(#8)






前回までのあらすじ
1986年。バブルに浮かれていた世間を横目に、生きていた『私』。
高校生の『私』は、親に置き去りにされ、ひとりバイトで生計を立てていた。深夜の音楽番組は、そんな『私』にとっての心の拠り所。
そして、ある日、『私』は、ボン・ジョヴィの楽曲と出会い、英語を学びたいと思うようになる。
夏の終わりのある日、バイトの休みに、近所の商店街の夜店に出かけると、いつも気になっていた星条旗のバーの店主と知合い、店に招き入れられ、特製ハンバーグを注文する。
いざなわれた新しい世界とその住人たちと出会い、優しさに触れていく。

∞ 金曜日の夜は


こ、こんばんは~

バーのドアを全開にするくらいの勢いで、ドアを押したような気がした。

店内は、ジャズが流れて、この間より賑わっていた。

右側のテーブル席には、この間のメンバーが座っていた。

ひげのやっちゃんと、金物屋さんのしょうちゃんに、モデルみたいなみきさん。

そして、あともうひとり、色白の男の人が一緒だった。

向かって左のカウンター席には、ひとりの男性が背中を丸めて座っていた。

私は、カウンターの中にいる、まつださんの笑顔に引き寄せられるように、カウンター席に向かった。

店主のまつださんのことを、みんな『にいちゃん』と、呼んでいた。

よぉ〜。

とみちゃん、久しぶりやん。

元気してたか〜?

テーブル席の3人が、トランプをしながら、私に声をかけてくれた。

うぁ〜、名前覚え出てくれたんですか〜?

うれしい〜、、、元気でした〜。

今日バイト代入ったから、ちょっと覗きにきました〜!

気持ちが高揚して、また、一気に喋っている私がいた。

とみちゃん、まぁ、すわりぃやぁ。

と、まつださんがニコニコしながら、カウンター席をアゴで促した。

バイトの帰りか〜?
えらい遅いねんな〜、お疲れさん。

やっちゃんが、そう言って、グラスを乾杯するみたいに持ち上げて、一口飲んだ。

何飲む〜?
アルコールは、飲んでもいいけど、ウチは優良店だけあって、ハウスストップあるから、よろしく〜。

まつださんが、笑いながらそう言って、

カウンターの奥の席に座っていた、ずんぐりむっくりの男の人を見た。

そうや、とみちゃん、初めて会うよね。この人、比嘉さんいうねん。

比嘉ちゃん、とみちゃんやで、よろしく〜。

私は、その比嘉さんというおじさんに、ちょこっと会釈してみた。

すると、比嘉さんがチラリと私を見て、

どうも。いつも、ジャズ聞きに来てます。比嘉です。

と、静かに言って、タバコに火をつけた。

何だか、寡黙そうな人だなぁ。

私はそう思って、なんとなく、会話をまつださんに向けた。

まつださん、あっ、じゃなくて、にいちゃん。

今日は自分でオールドクロウ飲みたいです。

水割りでお願いします!

そしたら、テーブル席のしょうちゃんが手札のトランプを凝視しながら、

お〜、なかなか分かってきたね〜、男のバーボンの魅力が!

そう言って私を、冷やかした。

オールドクロウの水割り。オッケー。シングル、ダブル?

にいちゃんが、当たり前のように私に聞いた。

えっと、取り敢えずシングルでお願いします、、、

なんちゃって、、ははは。

ちょっと、取り敢えずって、言ってみたかっただけです〜

と、不意にボケていた。

でも、隣の比嘉さんは、クスリとも笑わなかった。

だから、私は、なんとなく恥ずかしくなって、にいちゃんからもらったオシボリで手を拭いて、水割りが出てくるのを待った。

そうしていると、いきなり、後ろのテーブルから歓声が上がった。

私のボケにでは、もちろん無く、トランプのゲームが終わったみたいだった。

テーブルの奥っ側に座っていた、色白の男の人が、トランプを綺麗にまとめながら、

そろそろ、帰りますわ。

そう、言った。

残りの3人がブーイングをしながら、

つくちゃん、勝ち逃げずるい〜、

そうや、おとこやったら、もっかい勝負や!

と言って、引き止める。

だって、終電のらな帰れなくなるやん。

つくちゃん、という人は、そう言いながら、バタバタと帰り支度を始めた。

時刻は、11時半になろうとしていた。

慣れたように、自分のグラスとお勘定をカウンターに置いて、

にいちゃん、そしたら置いとくで。

そう言って、慌ててドアの方へ向かった。

そして、いい忘れてた、というように、振り返って3人組に言った。

じゃあ、明後日ね〜。

そうしている間に、私の目の前には、オールドクロウの水割りが出来上がってきた。

つくちゃん、いつもバタバタやな〜。

しゃ〜ないやん、家まで、こっから電車で30分やでぇ。

テーブル席の三人組が話している。

へぇ。。

私は、背後から聞こえてくる話を聞きながら、オールドクロウをチビッと一口飲んだ。


∞ ゲーム


続きど〜するぅ?

3人でやっても、いいけど、盛り上がりに欠けるなぁ。。

三人組は、いたずらっ子のように比嘉さんに声をかけた。

ね〜、ね〜、ひっがさ〜ん。トランプどうですかぁ?

。。。俺はパス。

と、比嘉さんは、バッサリ拒否された。

素っ気無い人やなぁ、、、

と、私が思っていると、

そうやぁ〜、とみちゃんおるやん…!

三人組の嬉々とした声が、背後から聞こえた。

とみちゃ〜ん。ここ空いたから、こっちおいでよ〜。

私が、テーブルの方に振り向くと、みきさんが、手招きしながら、隣りにある椅子を、手のひらでトントン叩いていた。

私は、ビックリした反面、仲間に入りたいという気持ちがムクムク湧き上がってきたけど、何だか気恥ずかしかった。

だから、

いいんですかぁ〜、、、

などと言って、いっぱく置いてみたりした。

そしたら三人組は、

当たり前やん、はよ、はよ〜、、グラス持っておいで〜。

と、大きな手招きした。

みんないい感じに酔っ払っている。

カウンターから、にいちゃんが、私に言った。

とみちゃん。安心しぃ。アイツらは大丈夫やから。

でも、オマエら青少年を、あんまり引っ張り込んだらあかんで〜、、

と、三人組に釘を刺してくれた。

私は、グラスを持って、みきさんの隣に移動して座った。

みきさんから、大人の香りがして、私は、何だか心臓がドキドキしていた。

しょうちゃんが、

いらっしゃい、いらっしゃ〜い。

と、桂三枝のマネをしながら、マッチ棒を全員に配っている。

ひげのヤッチャンが、トランプをくりながら、私に聞いた。

ポーカーしたことあるか?

私は、したことが無かった。

学校の同級生の中には、カブとか麻雀とか、お正月とかに家族でする人もいたけど、

昔から、うちの家はそういったギャンブルになる遊びを許す家庭ではなかった。

だから、ポーカーなんて小説とか歌の中に出てくる遠い存在でしかなかったのだ。

けど、こんな時は、なんか言わないと…!

え〜っと、ロイヤルストレートフラッシュ、とか出るやつですか?

そんなアホな事を、言っていた。

なんや、それ。まあ、それが最高の役や。まあまあ知ってるやん。

そう、しょうちゃんがそう言ってくれて、ちょっと救われた。

やっちゃんがトランプを見せながら、だいだいのルールを教えてくれた。

やっちゃんは、見た目より面倒見が良くて、説明がうまい。

しょうちゃんとみきさんは、その間にもう一杯ずつ飲み物を頼んで、二人でじゃれていた。

だいたい、わかったかぁ〜?

何にも教えてないのに、しょうちゃんがそう言って、それが合図のように、やっちゃんがトランプをくり始めた。

そして、一瞬手を止めて、カードに息を『ふっ』と、ふきかけた。

みきさんがそれを見て、

せこいよ〜。息吹きかけなし〜!

そう言って、口を尖らせた。

俺のジンクスやん。
親のとっけん、特権〜、、

やっちゃんは、笑いながらトランプを配っていた。

そんな風景を見ていると、お酒も手伝ってか、遠慮しているのは、何だかアホらしくなってきて、軽口をたたきたくなった。

先生が良いから、しょうちゃんに、勝てると思いま〜す!

私はそう言って、笑った。

お〜、それは、しょうちゃん危ないかもな〜。

と、にいちゃんが、カウンターから冷やかす声が聞こえた。

比嘉さんは、グラスを持ち上げて、にいちゃんに軽くふって見せた。

氷の音は聞こえなかったけど、グラスの中の氷がキラキラしていた。

にいちゃんは、おかわりを作り始めた。


やっちゃんが、トランプを配り終わって、こう言った。

え〜っと、それから、大事なルールがもひとつあって、

俺らはお金賭けへんねん。

でも勝ったら、『誰かにお願いできる権』が一回分もらえるねん。

もちろん、できる範囲のお願いやで。

例えば、さっき帰ったつくちゃんは、

次の日曜日にみんなで打ちっぱなしに行きたい!

って、お願いしてん。

だから、みんなで行くことになってん。

みきちゃんも、夏休みで行けるから、なぁ?

やっちゃんが、みきさんに話を振った。

そやねん。
お店も夏のバーゲン終わって、ちょうど今日から一週間、遅めの夏休みやねん。

そこに、しょうちゃんが割って入る。

ホンマやったら、元旦那と旅行やったのになぁ。

出戻って、予定はオジャンで、フリーな夏休み。

フリーと言っても、実家の履物屋の店番やて、ざんねん、残念。

みきさんは、呆れたようにしょうちゃんに言い返す。

もう、うるさいな〜、

お喋りな男はモテへんで!

いいやん、みんなで楽しいリクリエーション、打ちっぱなし!

服屋なんか、日曜休みなんて、夏休みくらいしか、有り得へんねんから、ラッキーやん!
みんなで集まれて。

そうだった。みきさんは、有名ブランド店の店長さんだった。

みんな好きなこと言い合いながら、目は手札のカードに釘付けになっていた。


∞ ビギナーズラック

え〜っ!スリーカード?!

え〜っ!!フルハウス?!

初めてちゃうやろ〜?

みんなが、びっくりする程、私は、ついていた。自分でも、ビックリだった。

そんなこんなで、私がマッチ棒を総取りして、ゲームは終わっていた。

ビギナーズラック、とは、このことである。

時刻は深夜を回っていた。

私、そろそろ、帰ります〜。

金曜日の深夜は、ミュージックビデオの番組があるのだ。

え〜、とみちゃんも勝ち逃げ〜!

にいちゃんが、そう冷やかして、笑っていた。


しゃあないなぁ、早く帰りなさい、青少年は!

しょうちゃんが、負け惜しみのように言った。

ところで、お願いは何にする?

やっちゃんにそう言われて、不意に口をついて出たのは、

私も日曜日に、連れて行ってください。
打ちっぱなし、したこと無いですけど!

お願いしても、いいですか〜?

自分でも、何でそんなお願いをしたのかわからない。

え〜。そんなんで、いいの〜?

いこ、いこ。一緒に行こう!

クラブは借りたらいいし、みきちゃん、手袋予備ある?

じゃあ、車、2台やな。オッケー、そうしよう。

あっという間に、いろんな事が決まって行った。

え〜、ほんとに一緒に行って良いんですか?

自分でお願いして、いまさら何云ってるの〜、と思いながら、焦っている自分がいた。

当たり前やん。

勝者のお願いやで。

それに、こんなん、かんたん、簡単。お安い御用です。

三人組は、口を揃えてそう言った。

それじゃ〜、お言葉に甘えて。よろしくおねがいします!

そう、お礼を言って、グラスを持ってカウンターに行き、にいちゃんに、お勘定をお願いした。

500円でいいよ。学割な。

そう言って、にいちゃんは、ニコニコいつものように笑っていた。

カウンターの比嘉さんは、ずっとジャズに浸っている。

ここで何を言っても、仕方がないんだろうな、と思って、

ありがたく、気持ちを受け取る事にした。

にいちゃん、いつもありがとう。
有り難く、学割で。

そう言って、500円玉を渡した。

挨拶して帰ろうと思って、みんなの方を振り返ると、やっちゃんが、言った。

日曜日は、そこの角の喫茶店で集合な。

朝10時ごろに、モーニング食べながら待ってるわ。

動きやすいカッコで、おいでや。

待ち合わせなんて、何だかワクワクしてきた。

ハイ!日曜日、角の喫茶店に朝10時!
了解しました〜。

楽しみにしてま〜す。

そう言って、店をあとにした。


『私の物語』〜心が震えた、異文化からのおくりもの 〜 1986 その玖(#9)につづく






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