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真夏の無計画 2日目 ~名案、明暗~

旅行中は早起きしてしまう体質である。日差しがやけに鋭いので寝過ごしたか、と思ったが、なんとまだ五時半であった。北海道は最も朝が早い都道府県である。

もちろん朝風呂に行く。露天風呂は闇に支配されていた昨夜と打ってかわって驚異的な解放感に溢れていた。青い支笏湖との初対面である。スッと澄んだ青い湖面が対岸の山を映してとて綺麗だ。デッキに椅子があったので座って眺める(全裸なのですごく寒い)。すぐそこには桟橋があり、船が停泊していて風情がある。
ん、それが見えるってことは桟橋からもこっちが丸見えだよな、と思ってそそくさと湯船に入る。ふと思ったが「深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いている」という有名な文句があるけど、深淵はつまらないものを見させられてるものだ。
あと、丸駒旅館にはこのリッチな風呂の他にもう1つ支笏湖と繋がっているという露天風呂があった。しかし、こっちは私たち的には今一つだった。感想代わりに一句詠んだのでこれで雰囲気感じてくれ。

ぬるま湯や アメンボ泳ぐ 露天風呂
底は砂利敷き これほぼ池やん

査定は!才能ナシ!...どうでもよい。
素泊まりなので朝食は昨日買っておいたコンビニ飯だ。少し悲しいが、格安限界旅行勢なので慣れたもんである。温泉宿に泊まっているだけで奇跡というもの。我々は、朝8時ごろ丸駒温泉を出発した。

さて、北海道レンタカー旅行2日目。朝からのスタートでいよいよ本番である。1日目は夕方からだったこともあって写真が皆無だが、ここからは一気に増やしていく所存だ。

丸駒温泉→山線鉄橋

旅館を出てしばらくは昨日来た道を戻る。昨夜は完全な闇だったが、快晴の空の下ではまったく違う風景で素晴らしい眺めである。湖畔の平坦なカーブを快調に走る。

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山線鉄橋と呼ばれる湖畔の橋に来た。付近の駐車場は朝ならただらしい。早起きは三文の得である。

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対岸に見えたているのは恵庭岳。そのふもと、上の写真の左側の湖畔に見える白いしみのようなものが、昨日泊まった丸駒温泉である。付近の人工物の無さをわかってもらえただろうか。夜に同じ場所で写真を撮ると、おそらくこの位置だけに白い点がある真っ黒な写真になる。

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左手には樽前山と風不死岳も見える。樽前山は頂上を押すとON・OFFができそうな形をしている。

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支笏湖は日本一透明度の高い湖として知られる。そして、山線鉄橋の下をくぐって湖から流れ出す千歳川もまた、すさまじい清流で吸い込まれそう。

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橋の上から千歳川の写真を何枚か撮ったが、水中の水草が上から丸見えなのでもはやなんだかよくわからないレベルだ。まったくピントが合わない。緑の絨毯の上にいるごまみたいなのは全部魚である。潜ってみたいが綺麗すぎてこんな不純物の塊のような人間が入るなんて湖が可哀想に思える。そもそも水着は家に忘れた。

山線鉄橋➔苔の回廊

さて、湖畔を後にして次に向かったのは、苔の回廊という一般にはあまり知られてないスポットである。たしか「北海道66選」とかいうあまり選びきれてないウェブサイトに掲載されており、行ってみることにしたのだ。「せっかくなので」攻勢である。駐車場が近くになく路肩に駐車できるスペースを探してしばらく右往左往したが、何とか車を止めることができた。グーグルマップによると、苔の回廊は森の中にある。道がないじゃないか、と思ってクチコミを見ると枯れ沢を登れと書いてあった。それに従って橋の脇から枯れ沢に降りるといきなりコレである。

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うん?人が通って大丈夫かこれ?こんな見事な通せんぼないぞ。

ほぼ圏外なのでスマホの通信は他の銀河と交信してるのかってくらい遅いが位置情報はこの沢が正しいことを示している。とりあえず登ってみるが、倒木はますます増え、明らかに北海道二日目の初心者が立ち入るべき場所ではないことをこれでもかと示してくる。不安げに5分くらい進むと石で地面に矢印が作ってあった。人為があると非常にホッとする空間にいる。誰の仕業かは知らないが何らかの賞を差し上げたいレベルでナイス所業だ。我々はこれ幸いとずんずん山奥に入っていった。熊よけの鈴がないので大声で歌う。選曲は「森の熊さん」

あるーひ、もりのなかーと歌いつつ歩いて15分ほどたった。着かない。ひょっとしたら、さっきの矢印はアホな人間を誘導して食べるために驚異的な知能指数を持ったヒ熊さんが置いたのでは、このまま進んだら「お嬢さんお待ちなはれ」とか言いながら出てくるのでは、などと考えていたらようやく周りが苔むしてきた。

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これはすごい。両側の岩が沢の流れに削られて切り立った地形もすごいが、それが一面緑色なのだ。まさしく回廊と呼ぶに相応しい。名付けた人のセンスが欲しい。

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F氏を撮ってみる。緑が鮮やかでジブリの世界観がある。腐海的な...いや、腐とは程遠い環境だが。まだ火の七日間は経験してないし、さすがの某ウイルスもそこまで強くないので、マスクなしでも五分で肺は腐らない。

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苔に覆われた壁を触ってみると思いの他ふんわりしている。別に無理にジブリで例えなくていいのだがトトロの腹はこんな感触だろう(いや知らんけど)。抱きついてみたりしているとオニクワガタを発見した。絶滅が心配されている昆虫。ここが美しい森である証拠だ。

あまり長居すると熊さんに出会ってしまいそうなので名残惜しいが15分ほど見て立ち去る。幸い、白い貝殻のイヤリングを持ったしゃべるヒグマに追跡されることもなく沢を下ることができた。車に乗って次の目的地に向かう。支笏湖に別れを告げて向かうは洞爺湖方面である。

支笏湖➔きのこ王国➔昭和新山

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途中で、菌類にかなり重度の侵略を受けた道の駅、といった感じの施設を見つけたので立ち寄る。その名もきのこ王国である。すでに王政まで確立されているようだ。

冗談はさておき、ここの名物はきのこ汁である。なんと100円で飲める。渡されたお椀には沢山の正体不明のきのこが入っている。特に美味かったのは白くてぷりっとしたきのこだ(った気がする)。後から説明パネルを見るとなんとエノキダケだった。エノキダケといえば細長いヒョロッとしたキノコが束になっている姿を思い出すが、あれは暗所で栽培されたものできのこ汁に入っていたのは天然物らしい。パネルには「天然ものが最も美味しいきのこである」と断言されていた。まじか...いつもヒョロヒョロの束を鍋に入れて満足してたぜ...。キノコ汁の写真が無いのは王国の厳しい検閲にあって消去されたわけでは無く、早く食べたすぎて撮り忘れたからである。

さて、きのこ王国から平和的に出国し一路向かうは昭和新山だ。「一路」とかいったが途中で二回ほど道を間違ってUターンした。一時間ほど走ったところで、前方の山の一部に赤い岩が見えた。遠目に見ると、緑に覆われた山肌にできたかさぶたのようである。しばらく進んで真正面まで来た。これが昭和新山か。迫力満点だ。

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昭和新山は畑出身の山である。どういうことかというと、この山は元々個人の畑だったところが火山活動で突如盛り上がってできたらしい。大自然恐るべしだ。自分の土地が唐突に火山になる、というのはどんな気分だろうか。もし私の下宿が建っている地面が突発的な火山活動あるいは地殻変動によって隆起し、山になったらどうか。二週間は開いた口が塞がらないだろうが、とりあえず、住所変更の手続きと火災保険の適用が気になると思う。皆も、自宅が突然令和新山になった場合の備えはした方がよい。

昭和新山の向かいにある有珠山にはロープウェイがある。ロープウェイなどの観光特化型の乗り物の料金は大抵学生には少々高め(作者は片道=ラーメン一杯程度を高いと思っちゃう懐と器の小さな人間です。)だがせっかくなので乗ってみた。

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ロープウェイが上昇をはじめるとすぐに後方に昭和新山が見えた。やや高い場所から見ると迫力満点。とても眺望のいいロープウェイで、右手には洞爺湖と羊蹄山、左手には海が見える。

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F氏が眼下に鹿を見つけてゴンドラ内で歓声があがる。まあ、この時はまだ純粋だったが、鹿なんぞ今後いやというほど見ることになるのよ。山頂駅に到着したのでまずは少し登ったところにある火口原展望台に行ってみる。マスクで登山はつらいぞ(立派な上りやすい階段があるので運動不足が主な原因である。

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展望台からは内浦湾と噴火口が一望できた。USU Crater Observatory とかかっこよすぎか。

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眼前の内浦湾は巨大な噴火湾で対岸にうっすら見える活火山の駒ヶ岳、後ろには昭和新山とカルデラ湖の洞爺湖、立っているのは有珠山火口、えーっと、視界にあるほとんどの物体がたぶん噴火できる。なんだかもう地球ドラマチックすぎていい感想が見つからない。地球めっちゃすごいな(雑)。

展望台からはさらに登山道が続いているが、ここから先はしっかりした装備がいる。しかし我々のような軟弱ものでも展望台で十分楽しめた。下は(残念なことに)私の写真だ。(私以外は)美しい風景である。

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ロープウェイの駅まで戻る。駅の横から取った写真。傾斜が急で標高が一気に高いのですごい眺めである。大地のエネルギーを手中に収めた気分になった。

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有珠山を堪能した我々はロープウェイを下ってデミ夫に乗り込んだ。

有珠山➔洞爺湖

洞爺湖畔を走る。昼ご飯を食べれそうな食事処がパッと見つからないのでセイコーマートに入る。セイコーマートは道内各地に分布する、だいだい色に鳩のマークが目印のコンビニでセコマやセイコーなどの愛称で親しまれている。私はこのセコマを最強のコンビニチェーンだと確信している。どこがいいのかというと何といっても食材の安さであろう。おにぎりはほとんどの種類が常に100円であり、パスタなどの様々な総菜も100円そこらで手に入る。しかも、数多ある総菜も弁当も量が多くておいしい。暖かい食べ物がすぐ手に入るホットシェフもおすすめだ。さらに、この広い北海道内のどこにでもあるのが魅力の一つである。道内のほぼすべての市町村にセコマは存在し、道民にとって欠かせないインフラの一つとなっているのだ。離島だろうが過疎地域だろうが、自治体の要請があれば出店することでも知られている。前の大地震の時は大停電真っ只中にも関わらず普通に電子レンジを動かし、レジ会計を行い、通常営業したといった数々の伝説を持つ。私の下宿の一階に出店してくれることを祈っているのだが、残念ながら今のところセコマは北海道外に店舗を持たない。しかし、少なくとも津軽海峡より北ではセコマに勝てるコンビニは無いのだ
…思わずセコマ愛を語ってしまった。今回の旅行ではこれが最初のセコマ訪問だ。そしてこの後、この旅行では計14回、セコマにお世話になる。

話を戻そう。セコマで弁当を買った我々は洞爺湖を見下ろせるサロマ展望台という場所にやってきた。真ん中に島がある洞爺湖を一望でき、大変眺めがよい。曇ってきたのでちょっと残念だが、島の回りをくるくる回ってるモーターボートがいて飽きない。ベンチで弁当を食べる。

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洞爺湖と書かれた大きな看板の前で観光客が大勢写真を撮っていたので我々もそれに習う。備え付けの三脚があったがうまく取り付けられず悪戦苦闘していると、優しい人もいるもので見かねて二人一緒に撮ってくれた。

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さて、休憩は終わりだ。お土産屋で飲み物を補充し、いよいよ後半戦スタートである。

と、ここできりがいいので一つ。
はっきり言おう。この日は他の日に比べても異常な行程だった。最終的な移動距離はなんと400kmにも達したほどだ。そしてお分かりだろうか。実はここまで約4000字書いてきて、距離的にはまだ、約150km分しかないのだ。つまり、あと約250km。
言いたいことは、ただ、そう、
がんばれ、読者。がんばれ、俺。

洞爺湖➔積丹半島

さて、お次はどこかというと、北海道でも有数の絶景スポット、神威岬である。バカみたいな移動距離の理由になった、積丹半島の先っぽにある岬だ。私はSNSか何かで写真を見て感動し、是が非でもここを行程に加えたかった。そして、昼の段階でF氏と相談したところ、今日中にたどり着けると判断し、そのまま積丹半島を半周したところにある小樽に宿を抑えた。
とんでもない目に遭うとも知らずに。

積丹半島への道は二通りある。羊蹄山のどちら側を通るかだ。どっちでも距離はかわらないので、湧水で有名な道の駅があるらしい左側を選んだ。車窓に美しいコニーデ型火山を眺めながら進む。

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途中、眠くなってきたので道路沿いの駐車場にて小休止した。シンメトリーな羊蹄山が綺麗だ。まぬけなことに、ここで小休止を取ってしまったために清水の湧く道の駅のことを二人ともすっかり忘れてしまい、そのまま脇を通りすぎてしまった。だが細かいことは気にしない。何を隠そう、我々は「行き当たりばったり」の世界ランク上位勢である(※でたらめ)。

倶知安の町を通りすぎる。積丹半島は思っていたよりも遠かった。羊蹄山の横っ手から一時間ほど走ってようやく、道路は日本海に出た。北海道の距離感を見誤ったかもしれない、と気付いたのはこのあたりだった。次の町までが遠く感じる。

そう、この積丹半島は想像以上に大きかった。考えてみれば我が故郷の琵琶湖と同じくらいの面積なのだ。おそらく、積丹半島を海岸沿いにまわるというのは、琵琶湖の琵琶湖大橋より北側を指す北湖をぐるっと一周するくらいの距離があると思われる(滋賀県民ならこの表現で面倒さが伝わる)。我々は、昼下がりから、この広大な半島に挑もうとしていたのだ。さらに、実は積丹半島は横に突っ切ることができる道がほとんど存在せず、メインルートは海岸沿いをぐるっと回っている国道229号線のみである。気付けば我々はすでに引き返せないところまで来てしまっていた。そして、ある重大なことを見落としていた。

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そんなことは露ぞ知らない我々は奇岩が面白い海岸をのほほんと走る。運転中の私は写真を撮れないので助手席のF氏にスマホで撮っといてよ、と頼む。そういえばこの時、スマホをデミ夫(乗ってるレンタカーの名前)のオーディオに無線で繋ぎ、音楽を流していた。旅を目いっぱい楽しませてくれる、まったくデミ夫は最高の車だね、とか思ってたら、F氏がスマホで車窓の写真を撮ろうとした時に車内のあちこちから大音量でシャッター音がするので二人で爆笑。そして我々はハイテク機器に強くないので設定の変更ができず、その後10日にわたってデミ夫はずっとF氏の撮影に合わせてシャッター音を奏でていた。いやまったくサイコーの車である。

神恵内村に入る。ここは北海道なのにセコマが無いという極めて過酷な状況にある179分の4の市町村である。しかし、海岸の国道は長大なトンネルや橋が多く高速並みに走りやすく整備されてる。この村から出る道は国道と県道が一本ずつしかないので、インフラ投資はすべてそこに注がれるのだろう。逆にそれらのルートを遮断すれば、あっという間に神恵内村は世界から隔絶されてしまうわけだ。ミステリー小説を書く方々へ、ここほど陸の孤島にしやすい市町村なかなかないのでおすすめですよ(何が)。

トンネルをいくつか抜けていよいよ神威岬に近づく。看板が見える。時刻は16時半より少し前。夕焼けが見れるかな、などとテンションマックスで道を左折しようとした。

無情にも、警備員が駐車場入り口の門を閉ざすところであった。我々は愕然とした。

なんと、神威岬には営業時間があった。午後四時半までと書いてある。なぜなのか。おそらくこの町でほぼ唯一といっていい(偏見)観光地を、それも岬という自然の地(入場無料)を、日暮れまであと数時間もあるのに閉ざしてしまうことがあろうか。諦め切れず、もう入れないのか、と尋ねる私を見て警備員はぶっきらぼうに首を振り、帰りな、と言うかのように手を払った。

しばし呆然とした後、やり場のない怒りが湧いてきた。岬の駐車場から楽しげに帰路に就く車を恨めしく見ながらとろとろとデミ夫を走らせる。こんなのあんまりではないか。ちくしょう、四時半って何をもって決めた時刻なんだよ、とりあえず積丹半島は燃料代返せよ、警備員は勤務態度が原因で職を追われろよ、もう神威岬のHPとか積丹町のSNSとかもれなく全部炎上しろよ、などと四方八方に悪態をつきまくった。小樽までは80kmもある。

積丹半島➔小樽(泊)

もうヤケクソになるしかないので、車窓に現れる大小さまざまな岬をあれが神威岬かァ、すげえなァ!などと言い張りながら進む。8個目くらいの神威岬(正しくは積丹岬)は大きくて展望台があるらしいので立ち寄ってみた。

なにやら土管みたいな暗いトンネルをくぐると断崖絶壁に出られるらしい。にしてもカップルが多い。この狭いトンネルで我々の前を歩いてけたましくイチャイチャしてるカップルに専攻の土木の知識を活かして何とか逆つり橋効果を与えることはできないか、などと卑屈なことを考えていると外の明かりが見えた。思ったより絶壁だ。

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遠く崖下には小さなビーチが見える。見ろ、カップルがゴミのようだ。(注:これはカップルという概念に対する悪口ではなく、あくまでその小ささから崖の高さを表した比喩表現ございます。決してうらやましいとかそういう以下略) 奇岩の立ち並ぶすさまじい景色だが、残念ながらかなりの曇天である。

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階段が崖にへばりつくように続いており眼下に見える浜まで降りれるようだったので降り始めてみたものの、おそらく標高差が100m以上ある絶壁、カップルだらけの崖下という条件を前に一瞬でやる気が霧散してしまった。男女が嬉しそうに階段を下りてくる中、淀んだ目の二人は駐車場に向かう。

再びデミ夫に乗り込むと雨も少し降り始め、いよいよ俺たちカムイに見放されてるなと、とぼとぼ走る。だが、ここでちょっとしたいいことがあった。

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キタキツネの群れが道に現れた。あわてて止まったら、一匹が車に寄って来て、こちらを見上げてきた。

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まあ元気出せよ、ってことかもしれない。かわいい。冬の北海道で見たやつはモフモフだったが犬みたいな姿もかわいい。

狐も神の使いだし、やっぱりカムイはいるのかもなぁ、と少し気持ちが回復した。ブラックジャックでおなじみの寄生虫エキノコックスを媒介するので触ったらだめだが遠目で十分かわいい。単純な人間なので「かわいい」を摂取しとけば何とかなるところがある。

狐のおかげで小樽まで気分よく走ることができた。宿は小樽の街の高台にあり、かなり急勾配な坂の途中にあったので駐車がすごく恐ろしかった。某ウイルスのせいで客が少ないのか二人なのに四つもベッドがある部屋に通された。この広さで一人1400円程度になるGOTOキャンペーンの恐ろしさたるや。さて、ようやく二日目も終わりか、と思いきやまだ終わらない。

ちょっと車で街まで降りて夜の街を徘徊することにした。小樽運河はさすがの美しさだ。

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三脚を持ってきていたのでバルブ撮影をしようとしたが、なんとカメラを固定するアタッチメントを自宅に忘れてしまっていた。この時点で三脚は約1kgの死重と化した。すごくかなしい。

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静かな夜の街も雰囲気があってよい。後から振り返るとなぜか倉庫の写真しかない。倉庫の街、小樽の夜。

某岬とかでろくな目に遭わなかったので飯だけはせめていいものを食べたいと思っていたが、某ウイルスのせいで店がまったく開いていない。街中まで降りたら開いてるだろう、と思っていたが甘かった。我々はどうにも見通しが甘すぎる。どうしようもないので最後の頼みの綱のセコマに入る。セコマは常に我々を受け入れてくれる。この日は三食ともコンビニ飯だ。まったく北海道まで来て何をやっているのか。無計画の弊害である。

へとへとで宿に帰った我々は、セコマ飯をかきこみ、風呂に入って布団に入った。F氏は先に寝てしまったが、そういえば翌日のことを一切決めていない。神威岬に行けなかった後悔が降り積もる上、今後の行程がまったく何も思いつかない。こんなことなら、もっとちゃんと計画を立てるんだったと、悶々としながら零時を迎えた。眠気の中、私は二日目にして開き直った。

そうだ、無計画による後悔は、無計画によって挽回すればいいじゃないか。

そして私は何も知らずにすやすや眠るF氏を横目に見て、クククと笑い、眠りについた。長い二日目(8200字...)は終わった。三日目が、はじまる。


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