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(補充)裁判員になった話2

1はこちら

「裁判員の朝は早い。ことはない」

裁判員となると、基本的に地裁での裁判終了まで毎日自宅から通勤することになる。稀に宿泊可能な場合もあるらしい。

私が通うことになった裁判所では、通勤手段は公共交通機関、または自家用車のどちらでも良かったため、私は鉄道を選択した。
この移動費については、本籍地から地裁までの公共交通機関での最安運賃で計算され、後日支給されることになる。
だったら毎日渋滞と戦うのではなく、鉄路でゆっくり二度寝して通勤しよう。とういうことで、毎日115系の爆音を聞く通勤を選択したのであった。

裁判所への集合時間は、どの日もおおよそ9時30分。
だいたい通勤ラッシュも終わりかけぐらいの時間である。
ところが、当時から無駄に街を歩くのが好きだった私の場合、地裁の最寄り駅にラッシュも極まる8時前に到着し、そこから1時間以上ただ街を散歩した上で、駅から徒歩10分の距離にある地裁に9時ごろに到着していた。
審理を行う評議室には、個人用のロッカーとコーヒーなどの飲み物、昼食弁当の注文書があり、私は毎日一番乗りで全員が集合するまでダラダラと過ごしていた。

「みんな私服なの……?」

(補充)裁判員になった話1の最後の方でも書いたとおり、裁判では常識的な範囲での私服での参加となる。
私服のセンスが壊滅的な私は、抽選で選ばれたときからすでに一週間分の服装を考えるのが面倒になったため、毎日スーツで参加することにしていた。

もちろん、私以外の参加者は全員私服であった。

一瞬次の日から私服にしようかとも考えたが、真面目に選んだところで公序良俗に反するファッションになりかねないため、結局裁判終了まで毎日スーツであった。(絶対、書記官とか裁判官からスーツって呼ばれてた)

「業務開始です」

裁判員裁判の日程は、おおよそ1週間。
この間、審理だけの日もあれば、法廷で検察が激詰めする日もあれば、弁護士がそれに反論する(もちろん検察と同時ではない)日もあれば、証人や警察がスライドを出したり話をする日もある。
法廷でのやり取りは公判という(らしい)

法廷に出る日は、だいたい10時から開廷となる。
評議室から10時数秒前に法廷に出ると、検察、弁護士、被告と拘置所職員が所定位置で待っている。

いらすとや様より。だいたいこんな位置関係。裁判員は裁判長たちの後ろに並ぶ。

裁判長、裁判官と裁判員達が入ってくると、全員起立をする。
揃ったところで、裁判長の号令により礼を行い着席。以降裁判長が司会として公判を進めていくこととなる。

公判ではまず、検察が被告が本当に被告本人かの確認、起訴内容と何を審判するかの説明などを行う。
ここで起訴状の朗読などを行うが、文章の内容や読み上げ方は、我々が想像するカミソリのような検察官のイメージそのままであったのが印象に残っている。コワイ。
ちなみにこの手続では、裁判員、補充裁判員が発言、質問することはほぼないし、裁判長達も司会を行う形でしか発言しない。

次に、検察が起訴内容の証明(この証拠と供述があるから起訴したんだぞ)、被告側による証明(この証拠と供述があるから認めないorそんな悪意に満ちてないぞ)を行う。

そしてそれをもとに、検察側の起訴の法的根拠の説明(論告)と求刑、弁護側の弁論が行われ、最後に裁判長達と裁判員による判決宣告がある。

文書にすると割と早めに終わるように思えるが、これを3日ぐらいに分けて行う。
概ね、午前中に公判、午後審理のような感じだが、日程によっては午後から公判になることもあり、閉廷直前に裁判長から次の開始時間の確認が行われて決定していた。

「異議あり!!!静粛に!!!とかあの木槌はない」

それはそう。逆転裁判ではない(あれは司法制度が変わった世界線なので)

基本的に検察も弁護側も静かに聞いて、自分側の手続きのタイミングで自分の主張をするから、行政文書のやり取りを言葉でやっている感じ。
裁判長達が持っているのはゲーミングPCみたいな厚さのキングジムのファイルと法律関係の本で、そもそも木槌はどこにもない。あれは参議院かアメリカ。

「サ(イバンインノ ジバ)ラメシ」

お昼ごはんは、外に出る人もいれば、前述の通りお弁当を頼むこともできた(たしかどちらも自弁)
私の行った地裁では、お弁当は何種類か選ぶことができたが、一番小さい物でもそこそこの量であった。
そこに温かいペットボトルのお茶もついてくる。

「とにかく手を動かすんですよ」

満腹+話を聞くだけ+ちょうどよい空調+最高に柔らかい椅子

これらが揃ったときに何が起こるかは、堕落学生であった私以外の人にも想像に難くない。
大変不謹慎であることは承知だが、今回私達が担当した事件は殺人未遂。
しかも、友人同士の喧嘩の延長線で、被害にあわれた方も「反省してるからゆるしてやってくれ」との事。
血に塗れた現場の写真も、悲しみ処罰を訴える家族もいない裁判で、どこか緊張感がなくなりつつあった。本当に不謹慎であるが、時折り眠気がやってきた。

幸い、私含め公判中に寝る者はいなかったが、何事もなく公判に集中することができたのは、裁判長からのアドバイスであった。

「公判中にどうしても眠くなってきたら、とにかく手を動かして、人が喋っていることを全てメモに取るんですよ。そうすれば眠くなりませんよ」

実際、これによって寝落ちすることも、話の内容が頭に入らないということもなかった。
このアドバイスからも、どこか教授じみた雰囲気を感じる。

え、つまり裁判長も眠いことがある………?

「証拠写真です」

公判中、検察や警察は、現場や凶器の写真をスライドに表示する事がある。
参加した裁判で見せられたのは、荒れた内装の普通の民家とナマクラ包丁。事件自体が前述のような状況であったため、血がべっとり。などということはなかった。

ここからは報道や別の方の話から。
とある殺人事件では、血がついた凶器や、発見された被害者の方の一部の証拠写真をモノクロにして表示したとのことである。
事件や証拠写真の必要性にもよるが、予め注意されるそうなので、裁判員になった方は無理をしないようにしよう。
あなた一人だけで全て見て量刑を決めるわけではないのだから。

「最終陳述」

公判も最後になると、被告による最終陳述が行われる。
ここでは、被告が思っていることを話したり、逆に裁判長、裁判官、裁判員が被告に質問をすることもある。

私の参加した裁判では、被告は後悔と反省、被害者への謝罪を行った。
また、裁判員ひとりひとりからいくつかの質問が行われたが、補充裁判員である私ともう一名は聞くのみであった。

一連の手続きが終わると、裁判長から「判決の言い渡しを何日の何時から行うからここに集まってください」との通達がされ、一旦閉廷となった。
ここから審議を行う一日をはさみ、判決宣告の日となる。
(3へ続く)

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