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【創作小説クロスオーバー】彼の世界の友人たちへ〜きらめく夜の星月デュエット〜

みなさん、こんばんは。禧螺です。

今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。


創作の夏は、まだまだ続きますね。

本日は、一次創作として、私とあるクリエイター様による、クロスオーバー作品をお届けします。


今回、一緒に創作してくださったクリエイター様とその舞台は

塔果さんによる「湖底ラーブル」 です。


創作うちのこ、イサベルとユウリの、夏の旅行の思い出。

旅先は、なにかに導かれるようにその場所を知ることとなった、湖の底に静かに佇むホテル・ラーブル。

夏のきらめく夜の祝宴が始まる。




🐟


湖の底は、優しさと暖かさだった。
心地良い静寂と、ゆったり流れる時は、生き急ごうとする私を柔らかく抱きしめてくれる。
そんな場所での思い出。



「イズー!異界便使おー!!」


ユウリは声を弾ませ、スキップをしながら、書斎の机で作業をするイサベルに向かう。
相変わらず尋常ではない書類の山に目を通し、黙々と事務を進めている。
ただし、ユウリの出現によって、公務は息を潜めることとなった。


「また異界便を使うの?」
「何でも使えるもんは使っとかないと。それに、手紙でも届けられたら、冥さんも湖月さんもあずちゃんも、嬉しいと思うんだけどなぁ~」


異界便は、他の世界に手紙や荷物が届けられるかもしれない、謎に包まれた郵便サービスのことであり、送り主と受け取り主の運とタイミングが合えば、受け取れるシステムになっている。
そして、今回異界便を使う相手は、先日、旅行先でお世話になった人たち。休暇を兼ねて、二人で初めて旅行を計画していたユウリは、宿選びでかなり手こずった。
自国での宿泊は、次期女王が宿泊するとなると当然大騒ぎになるし、かといって、他国で宿泊しようにも、普段の遠征任務とかわり映えがなさそうだったので、この世界とは全然違う雰囲気を体感できる場所を探していた。
そんな時に、ふらっと立ち寄ったアクセサリー屋で見つけた、文庫本サイズの小さなパンフレット。
「ホテル・ラーブル」と書かれたそれには、静寂の湖の底に佇む落ち着いた雰囲気の建物と、周囲の生きものたちの写真が掲載されていた。
水の中は、魚や水草をはじめとした、陸とは違った華やかな世界が繰り広げられていると思っていたが、このホテルを取り巻く、癒しを感じられる静けさと優雅さは、まさに求めていたものだった。
ほとんど運任せで、ホテル宛てに宿泊予約を送り、それを受け取ってもらったことによって、今回の旅行が実現したのだった。


「あんな穏やかな場所、本当にあるのね。あなたがひたすらに異界便を使っていたのが、ホテルとのやり取りだと知った時は、開いた口が塞がらなかったわ」
「まあね、いつ運が途切れてもおかしくなかったのに、自分の強運もそうだけど、相手の運にもびっくりしたよー。途中から誰か意図的に操作してんじゃないかって、思うくらいにね」


ユウリの二カッと笑う顔は、本当にその旅行が思いっきり楽しめたことを意味していた。
イサベルとしても、ユウリが本当に旅行を楽しめていたことが嬉しかった。イサベルよりも多くの土地に足を運んでいる彼女は、一応旅行の経験はあるが、ただその場所に行っただけで、本当の意味で楽しめたことはないと言っていた。
同行する人間が嫌な相手だったり、行った場所が最悪で、命を落としかけたこともあるとのこと。
そういうことがあったからこそ、ホテル・ラーブルでの出来事は、二人の中では宝物だ。
目を閉じれば、鮮明に思い出される。
あの湖の底で体験した、水に包まれるような暖かさ。



🐟


湖の底は、深い紺碧の夜空のようだった。
魚がゆらゆらと、水の流れに乗ってたゆたう姿は、まるで流れ星のよう。
今夜はここでディナーをいただくことになっている。
この時のために、ホテル・ラーブルが、特注でドレスを仕立ててくれていた。
星と月の煌めきが編み込まれたその生地は、古の女神が纏っている優しい羽衣のような肌触り。
夜の湖を思わせるダークブルーと優雅なライラックの色彩は、穏やかでありながらも優雅さを引き立たせ、イサベルの魅力を十二分に引き立たせる。
この服を仕立てた人間の感性や相手を視る眼、殊に審美眼が伺える。
改めてこの空間は、確かに自分を迎えてくれていることを、イサベルは実感した。

「まさか、こんなに素敵な服を用意してくださっているなんて、思ってませんでした。本当にありがとうございます!」
「お気に召していただけて幸いです」
「よくお似合いです、ユウリ様」


レストランの前では、先に着替えて待っているユウリが、ホテルの支配人である冥と、コンシェルジュの湖月と共に、楽しそうに話していた。
彼女はイサベルとは違い、パンツスタイルで水の穏やかな流れを彷彿とさせる洗練された服の型が、その中性的な美しさを際立たせている。
宮殿以外で自分の服を仕立ててもらったのが初めてで、着方が合っているかどうかと考え始めると、なかなかレストランの前に足を運べない。
廊下の隅でもじもじしていると、いつの間にかイサベルの横に来ていた、ペンギンのボーイあずが手を差し出す。


「あずちゃん……連れて行ってくれるの?」


相手と言葉を交わすことはできないが、まるで「大丈夫」と言ってくれているようで、握った手を通じて、水に包まれるような安心感が身体に行き渡る。
緊張からの震えをなんとか隠そうとしたが、あずには伝わっているらしく、優しくもしっかりと握り返された。
ゆったりした足取りで、ホテル一番のボーイにエスコートされて、レストランの前に立つ。


「あの……遅れてごめんなさい。ここまで連れてくれて、どうもありがとう」


宿泊手続きの際に、冥にあずは背中を撫でると喜ぶと聞いていたので、自分よりも小さい温かな背中を丁寧に撫でる。
喜んでくれている姿にこちらも嬉しくなったところで、緊張が緩和し、ユウリ、冥、湖月と顔を合わせた。


「イズーすごい似合ってる。かわいいよ」
「ありがとう。あなたも美しいわよ、ユウリ。冥さん湖月さん、こんなに素敵なお洋服を仕立ててくださって、ありがとうございます。服のみならず、ディナーまでお世話になれるなんて」
「お二人並んでいただくと、ドレスの魅力がより引き立ちますね。お二人の素敵な髪のお色から私がグラデーションカラーを、湖月が月と星のモチーフをご提案しました」
「輝き合うお二人の関係にぴったりです。それでは、どうぞこちらへ。改めまして、ホテル・ラーブルへようこそ」


冥と湖月とあずに連れられた先は、大きな水泡がそのまま空間となったような、湖底を一望できる不思議な場所。
色とりどりの魚が、彗星の如く水中を横切り、個性に富んだ水草たちも、この場を囲んで踊っている。
そこがレストランだと分かるのは、真っ白なテーブルクロスに、銀色に光るナイフやフォーク、白い薔薇の花束が、本日の晩餐会の準備を終え、いつでも客を受け入れる用意ができているから。
着席を手伝ってもらい、イサベルとユウリは改めて向かい合う。


「ユウリはこのお洋服のこと、知っていたの?」
「全然。ここに来て、ディナーの前になって初めて分かった。びっくりしてるけどすごい嬉しい。キミのいつもと違った雰囲気のかわいい姿をじっくり見れる」
「そ、そんなにまじまじと見られると……照れてしまって顔を上げられないわ」
「なんで。もう照れ屋だなぁ。ほんとのこと言ってるだけなのにさ」


ここまで完璧なシチュエーションでイサベルに愛を囁いているのに、彼女にはまだまだ言葉が届きそうもない。
しかし、ユウリはそれでもよかった。
十何年も独りで過ごすことを当たり前としてきたイサベルが、自分と一緒に旅行に来ていて、照れながらも穏やかな表情で目の前に座っている。
事前のやり取りで、冥や湖月に「一度も宿泊を経験していない者が同伴者だ」ということを軽く伝えていたが、まさかここまで丁寧にこちらの意を汲み取り、環境を整えてもらえていたのは想定外だった。
その後、コース料理の前菜が運ばれてきたのを合図に、湖底での優雅な宴が始まった。
イサベルもユウリも、心置きなく料理を楽しみ、彼の世界の食文化に舌鼓を打った。
いつも通りの他愛のない会話は、周囲の取り巻く環境と人間が違うだけで、特別な秘密に変わってゆく。
冥たちにもこの会話が聞こえているだろうけれど、それぞれが二人のために、この空間をつくってくれている姿が、何よりもこころを暖かくしてくれた。



デザートが運ばれる前には、イサベルはすっかりこの場所が気に入ったようで、あちこちに施された装飾や建物全体を見渡して楽しんでいる。
すると、彼女の目の青い宝石が、より輝きを増した。
その目線の先にはあず。


「あずちゃん、こっち見つめてくれてるわ」
「来たばっかりなのに、すごく仲良くなってるじゃん」


イサベルとあずの仲良しぶりに、ユウリは少し妬きながらも穏やかに眺めていると、冥がシャンパンを注ぎに来た。


「お楽しみいただけていますか?」
「はいとても。連れの……イサベルの楽しんでいる表情が見られた。それだけでも十分嬉しいですけど、それ以上によくしてもらえてありがたいです。あずちゃんと仲良しなのには、ちょっと妬いてますけど」


冥がクスリと笑い、湖月とあずに視線をやる。
あずがイサベルと仲良くなっているのは間違いないが、その眼差しは、彼女の洋服とアクセサリーにも、向けられていることは把握済みだ。
光り物が好きな彼のこと。
湖月もそれに気が付いていて、そっとあずに囁いた。


「あずさん、ご歓談を邪魔してはいけませんよ」


我に帰ったあずが、再び仕事へと戻り、忙しく動く。
湖月はニコニコ笑いながらあずを見送り、二人のテーブルにデザートを運んだ。


「お待たせいたしました。本日のデザート、林檎のローズ・シャルロットです」
「えっ、湖月さんすごすぎる……てかもはや宮廷料理人にもなれますよね」
「わぁ……繊細な装飾がとても美しいですね。このデザートは、湖月さんがお作りになられたのですか?」
「はい。ちなみにこちらはあずさんのお気に入りスイーツでもあります」


湖月の料理の腕に、イサベルとユウリは感嘆するばかり。
まじまじと料理を観察する少女たちが微笑ましく、料理人としての職人心が心地良くくすぐられる。
しかし今はまだ仕事中。
この温かな感覚を保ちながら、手を再び動かし始めた。


「あら……蝶が一緒にいる」
「ほんとだ。ここ、水の中なのに」


レストランには、いつの間にか青い蝶も一緒になって、この宴に参加していた。
イサベルが空中に手をかざすと、無数いる蝶の一頭が指に静かに留まり、ゆったりした様子でその場で羽ばたく。
まるで、その空間で一緒になって、祝宴を楽しんでいるかのように。


「いつかなにかの絵本で見た、水の中の楽園という景色に似ているわ」
「絵本の中だけじゃなくて、現実にもあったってことだね」
「ホテル・ラーブルは、私たちにとっての水の中の楽園であり現実。だからこそ、つながったのかもしれないわね。冥さんも湖月さんもあずちゃんも、そうして出逢えた奇跡」


手元の蝶を群れに帰すと、蝶たちは縦横無尽に羽ばたき、レストラン全体を、青く優しい灯りで包んだ。
一通りの仕事を終えたラーブルのスタッフたちも、イサベルとユウリのそばに来て、共にこの幻想的な光景を眺める。


「冥さん、湖月さん、あずちゃん、素敵な時間を本当にありがとうございます。こうしていつもお客様をお迎えになられているんですね。みなさんここで過ごすうちに、こころが温かくなるのでしょうね」
「僕も、予約の段階でいろいろ無理なこともお願いしたのに……感謝しています」
「お二人に喜んでいただけて何よりです」
「このあとも、どうぞお寛ぎください」


あずは青白く光る蝶と魚たちの群れを見て、ボーイの仕事とは別に、夢中でそれらを追いかけている。
そんな楽しさに笑い、幻想的な空間の中で、その場にいる全員が夏の夜の夢を見ているようだった。
誰かが外から、あの空間を垣間見ていたなら、きっとこう答えたにちがいない。
「あれば、水の中の楽園だった」と。



🐟


湖の底は、静かなる安息と、こころが還る場所。
手紙を書いていたイサベルがやけに静かになったので、様子を伺うと、穏やかに寝息を立てていた。
その寝顔は、ホテル・ラーブルで一日を終えた時にみたいに、穏やかで安らかな表情そのもの。


「また一緒に、ホテル・ラーブルに行けたらいいね」


ブランケットをそっと被せ、ユウリは一旦部屋を出た。
そのまま外に出ると、あの時の青い蝶が、庭の隅を飛んでいるではないか。


「えっ、ちょっ……まさか、ラーブルから来た?!」


近付いてみたが、すぐに空に舞い上がってしまい、そのままの勢いで、近くにある湖の中に消えてしまった。
慌てて追いかけて、湖を覗くが、蝶の姿は見えないし、湖の底も視えない。それでも確かなのは、あの場所で、冥や湖月やあずと時間を共に過ごし、あの瞬間を生きたこと。


「今度はいつ行けるかな。さてと、お仕事に戻りますかー」


しばらく湖の底を覗き込んで、ユウリはその場を後にした。
そんな彼女の後ろ姿を、先程の蝶が、湖から再び出て来て、静かに見守っていたことは、誰も知らない。


この後向かった先が、ホテル・ラーブルだったということも。



🐟

【文章または絵の、無断転載・複製・改変等は禁止です】


塔果さん、このたびのクロスオーバー企画では、本当にお世話になり、ありがとうございました。

改めて感謝申し上げますと共に、益々のご活躍をお祈りします。

これからも、大切な創作仲間として、どうぞよろしくお願いいたします。




トップ画像は 塔果様 に制作いただきました!

ありがとうございました。


みなさんに、ここで出逢えて嬉しいです。

この記事にお時間をいただき、ありがとうございました。


それでは、今日はここまでです。

みなさんの本日が、素敵なものでありますように。



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