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ファイナンス(企業財務)の基本㊳:個別株式のリスクを表す「β値」について、まとめてみた

β値について、これまでの記事(下記の2つ)には書かなかった内容について、今回メモしていきたいと思います。


これまでのおさらい

まず、これまで書いてきたβ値に関する内容を、軽くおさらいしてみます。

CAPM理論に基づくと、株主の期待収益率rEは、下記の式で表せます。
E(rE) = rf + β × (E (rm - rf))
 E(rE):個別株式の期待収益率
 rf   :リスクフリー・レート
 rm   :マーケット全体の期待収益率
 β   :この後、説明


上式の「β × (E (rm - rf))」の項を「リスク・プレミアム」といいます。
また、リスクフリー・レートrfは、通常、リスクがゼロとみなされる国債などの利回りを適用します。

ベータ(β)は、「市場全体が1%変化する際に、任意の株式のリターンが何%変化するか」を表したものです。

ベータが1より大きいということは、市場平均の変動よりもリターンの変動が大きいことを表します。ベータが1である場合は、株式のリターンの変動は市場平均と同じことを表します。ベータが1より小さい場合は、リターンの変動は市場平均のそれよりも小さい、低リスクの株式であることを表します。

本来は、「市場全体が 1%変化したら、その株式のリターンは何%変化するか」を将来にわたって予測する必要がありますが、現実的には、それは困難です。
そのため、実際は、過去の対象株式の値動きと、同時期の市場全体の値動きのデータを集め、それからベータの値を回帰分析で推計することが多いです。

なお、リスクフリー資産(国債など)のリターンは、市場平均の変動にかかわらず一定と見なせるので、ベータはゼロです。

ファイナンス(企業財務)の基本㉑ より

β値の考え方
ある株の動きが「市場全体(TOPIX)の値動き」と全く同じであれば、β=1となる。市場全体よりも動きが大きければ、リスクが大きいと考えてβ>1、市場全体よりも動きが小さければ、リスクが小さいと考えてβ<1となる。

β値は、ロイターのホームページ で調べることができる。
(書籍ではブルームバーグのホームページが紹介されていますが、こちらは現在、有償みたいです)

ファイナンス(企業財務)の基本㉝ より

今回のメモ

β値が表す2つのリスク

これまでの記事からわかるように、(個別株式の)β値は、「個別企業の株式が、市場リスクに敏感なのか、鈍感なのか」ということを表します。すなわち、β値が1よりも大きい個別株式は、市場リスクに対して敏感な個別株式であり、市場全体の値動き(TOPIXや日経平均株価)が変化したときに、その個別株式の値動きも大きく変化します。

ここで、個別株式の値動きの変化(ファイナンスの言葉でいうと個別株式のリスク)について、もう少し踏み込んで考えてみます。

個別株式(個別の企業)における「リスク」は、下記の2つに分解することができます。

  • 事業リスク
    保有資産や事業展開する市場など、ビジネスから生じるリスク

  • 財務リスク
    資本構成(D/Eレシオ)から生じるリスク

そして、上記リスクに紐づいて、β値に影響を与える要因は、具体的には下記のようなものがあります。

  • ビジネス(事業リスク)

    • 顧客構成:法人顧客が多いと、β値は高い

    • マーケットシェア:シェアが低いと、β値は高い

    • 固定費・変動費:固定費比率が高いと、β値は高い

  • 資本構成(財務リスク)

    • 負債:負債が多いと(=D/Eレシオが高いと)β値は高い

以上より、個別株式のβ値は、その企業の「事業リスク」と「財務リスク」の両方が反映された数字となっていると考えることができます。

β値の算出:アンレバーとリレバー

以前の記事では「β値は、過去データを使って回帰分析で求めることが多い」「β値は、ロイターのホームページで調べることができる」と書きました。

一方、実際には下記1、2のようなケースで、既知のβ値を使って、求めたいβ値を算出するということも行います。

  1. 他社のβ値を使って、自社のβ値を算出する
    ⇨ 例えば、自社と類似した事業を行っている上場企業のβ値(既知情報
     として公開されている情報)を使って、自社のβ値を算出する。

  2. 自社の目標負債比率を変更した場合のβ値を算出する
    ⇨ 自社の負債比率を変える場合のβ値をシミュレーションする(詳細後述)。

前述ように、β値は「事業リスク」と「財務リスク」の両方が反映された数字となっています。そのため、例えば同業他社のβ値を使って、自社のβ値を算出する場合(上記ケース1)、事業リスクは同等とみなすとしても、財務リスクは異なるはずです。

そこで、他社のβ値を、一旦無負債状態でのβ値に調整し(アンレバーという)、 再度、自社の負債比率でのβ値に修正する操作(リレバーという)が必要となります

上記ケース2の場合も同様に、自社の現状のβ値を、一旦無負債状態でのβ値に調整し(アンレバー)、 再度、自社が目標とする負債比率でのβ値に修正(リレバー)する操作が必要となります。

そして、アンレバー・リレバーの操作は、具体的には下記の式を使って行います。

レバードβ = アンレバードβ × (1 + (1 - t ) × D/E)
t  : 税率
D : 負債
E : 株主資本

最終的には、β値を使ってWACCを算出するため、上記ケース2(自社の目標負債比率を変更する場合)について、WACC算出までの流れを書いておきます。

  1. 現状のβ値をアンレバーする。
    アンレバードβ = レバードβ ÷ ( 1 + ( 1 - 税率) × 現状D/E)

  2. レバレッジ(D/E)を修正する。
    リレバードβ = アンレバードβ × ( 1 + ( 1 - 税率)× 目標D/E)

  3. CAPM理論に従い、株主資本コストrEを算出する
    rE = リスクフリーレート + リレバードβ × リスクプレミアム

  4. 負債コストrDを算出する。
    ※ rD算出に関する詳細は、また別の機会に書こうと思います

  5. 加重平均コスト(WACC)を算出する。
    WACC = D / (D + E) × rD × (1 - 税率) + E / (D + E) × rE

以上です。

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