ファイナンス(企業財務)の基本㊳:個別株式のリスクを表す「β値」について、まとめてみた
β値について、これまでの記事(下記の2つ)には書かなかった内容について、今回メモしていきたいと思います。
これまでのおさらい
まず、これまで書いてきたβ値に関する内容を、軽くおさらいしてみます。
今回のメモ
β値が表す2つのリスク
これまでの記事からわかるように、(個別株式の)β値は、「個別企業の株式が、市場リスクに敏感なのか、鈍感なのか」ということを表します。すなわち、β値が1よりも大きい個別株式は、市場リスクに対して敏感な個別株式であり、市場全体の値動き(TOPIXや日経平均株価)が変化したときに、その個別株式の値動きも大きく変化します。
ここで、個別株式の値動きの変化(ファイナンスの言葉でいうと個別株式のリスク)について、もう少し踏み込んで考えてみます。
個別株式(個別の企業)における「リスク」は、下記の2つに分解することができます。
事業リスク
保有資産や事業展開する市場など、ビジネスから生じるリスク財務リスク
資本構成(D/Eレシオ)から生じるリスク
そして、上記リスクに紐づいて、β値に影響を与える要因は、具体的には下記のようなものがあります。
ビジネス(事業リスク)
顧客構成:法人顧客が多いと、β値は高い
マーケットシェア:シェアが低いと、β値は高い
固定費・変動費:固定費比率が高いと、β値は高い
資本構成(財務リスク)
負債:負債が多いと(=D/Eレシオが高いと)β値は高い
以上より、個別株式のβ値は、その企業の「事業リスク」と「財務リスク」の両方が反映された数字となっていると考えることができます。
β値の算出:アンレバーとリレバー
以前の記事では「β値は、過去データを使って回帰分析で求めることが多い」「β値は、ロイターのホームページで調べることができる」と書きました。
一方、実際には下記1、2のようなケースで、既知のβ値を使って、求めたいβ値を算出するということも行います。
他社のβ値を使って、自社のβ値を算出する
⇨ 例えば、自社と類似した事業を行っている上場企業のβ値(既知情報
として公開されている情報)を使って、自社のβ値を算出する。自社の目標負債比率を変更した場合のβ値を算出する
⇨ 自社の負債比率を変える場合のβ値をシミュレーションする(詳細後述)。
前述ように、β値は「事業リスク」と「財務リスク」の両方が反映された数字となっています。そのため、例えば同業他社のβ値を使って、自社のβ値を算出する場合(上記ケース1)、事業リスクは同等とみなすとしても、財務リスクは異なるはずです。
そこで、他社のβ値を、一旦無負債状態でのβ値に調整し(アンレバーという)、 再度、自社の負債比率でのβ値に修正する操作(リレバーという)が必要となります。
上記ケース2の場合も同様に、自社の現状のβ値を、一旦無負債状態でのβ値に調整し(アンレバー)、 再度、自社が目標とする負債比率でのβ値に修正(リレバー)する操作が必要となります。
そして、アンレバー・リレバーの操作は、具体的には下記の式を使って行います。
最終的には、β値を使ってWACCを算出するため、上記ケース2(自社の目標負債比率を変更する場合)について、WACC算出までの流れを書いておきます。
現状のβ値をアンレバーする。
アンレバードβ = レバードβ ÷ ( 1 + ( 1 - 税率) × 現状D/E)レバレッジ(D/E)を修正する。
リレバードβ = アンレバードβ × ( 1 + ( 1 - 税率)× 目標D/E)CAPM理論に従い、株主資本コストrEを算出する。
rE = リスクフリーレート + リレバードβ × リスクプレミアム負債コストrDを算出する。
※ rD算出に関する詳細は、また別の機会に書こうと思います加重平均コスト(WACC)を算出する。
WACC = D / (D + E) × rD × (1 - 税率) + E / (D + E) × rE
以上です。
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