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「JOKER」

 彼が欲しかったのは、ここに居ても良いんだと思える場所と優しい言葉だけだった。

 自分も同じ道を辿る可能性がある。環境は人間を変えていく。彼が望んだのは“硬貨な死”であった。何が彼を変えていったのか...。トントン拍子で進んだテレビ出演のシーン。アーサーは登場してすぐに女性にキスをした。女性は不快な態度を取っていたっけ。あそこで、優しい言葉とハグがもらえたら銃弾に貫かれていたのはアーサーだったはずだ。

 アーサーは誰かの気持ちを代弁した訳じゃない。そんな事は一度もない。ただ、存在して良いんだと思える何かがアーサーには必要だった。小さい時に養子に出されて、親の暴力をたびたび受けてきた。アーサーが突発的に笑うのは自分を守る為だったように思う。周りを笑わせることができたなら、大人は自分を殴らないはずだと...。だが、誰もがアーサーに冷たくしてきた。最後には優しい言葉をかけていた母親までもが、幼いアーサーを虐待していた事実が浮かび上がる。絶望の果て、アーサーは母親を殺してしまう。

 もう、アーサーはこの世界で救われないのか。そう思った。しかし、最後に天使が舞い降りた。毎週毎週、アーサーに同じ質問をしてばかりいた福祉カウンセラーの黒人女性だ。彼女は彼の話を聞かなかったことを悔いたに違いない。誰かに優しい言葉をかけてもらったり、自分の居場所があれば、殺人は起きなかったはずだ。自分から世の中を恨んだことは映画の中では表現されていなかった。環境がJOKERを作り上げてしまった。

 誰もがJOKERになりうる。私も例外ではない。

 ここに居ても良いんだという場所と優しい言葉。自分には何ができるだろうか。

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