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食べてすぐ寝るとせつない牛になる

本日はこちらです

 高校の通学路に牛小屋があった。と言うとかなりの田舎のように聞こえるが、いかにもな田舎でもなく、かといってビルの建ち並ぶ都会でもない、いわゆるニュータウン的な土地だった。牛小屋は、のどかな田舎が造成されていく途上にぽつんと遺された牛小屋だった。登下校は自転車で片道30分ほどかかったが、放課後、友人と3人で連れ立って、当時国民的な人気だったモーニング娘。の出演する番組をリアルタイムで観るため全速力で自転車をこいで帰宅するのを繰り返すうち、タイムは10分を切るようになった。

 修学旅行の前日は部活が休みになった。帰宅部だったわたしたちにはなんの関係もなかったが、帰宅方向が同じだったYくんと初めて一緒に帰ることになった。その日はモーニング娘。の番組は無かったが、全速力帰宅がもはや習慣になっていたわたしたちは、面食らうYくんをよそに、いつものように全速力で自転車をこぐのに没頭した。卓球部に所属して日々激しい走り込みで体を作っていたYくんだったが、連日のタイムアタックを経たわたしたちの脚力は、そんなYくんを置き去りにするまでに鍛え上げられていた。無駄のないコース取り、アウト・イン・アウトをきわめたコーナリング。信号の挙動まで熟知していたわたしたちは、いつものように風となり、いつものように牛小屋の前を通りすぎ、いつものようにそれぞれの家へとゴールすると、翌日の修学旅行の荷物をまとめ、ぐっすり眠った。

 次の日、担任が、荷物を抱えたわたしたちクラス一同に、Yくんの体調不良と、それによる修学旅行欠席を告げた。激しい運動かなにかで肺に穴が空いて、修学旅行の飛行機にも乗らないほうがいいらしい。えっ、と、わたしたちは顔を見合わせた。

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