スマホの使いすぎが子どもたちの学力を破壊しているか?②

 先日紹介した「研究者が思わずゾッとした『子どものスマホ使用時間と偏差値の関係』小中学生7万人調査でわかった衝撃の事実」という記事があまりに衝撃的で、早く続きが読みたくなっていました。売り切れ中になっている紙版は入荷が早くて5月下旬です。紙媒体の原本を諦め、電子書籍版を購入して、読んでみました。すると、記事には掲載されていなかった内容がいろいろと書かれているではありませんか(そりゃ、そうだ)!
 ということで、今回は、ネット記事を読んだだけではわからなかった点、記事を読んで気になっていた点などを、『スマホはどこまで脳を壊すのか』(以下「本書」)をもとにいくつか掘り下げてみたいと思います。

 まずは、簡単に本書の構成をみると、次のようでした。

はじめに
目次
第1章 思考の中枢を担う前頭前野を守れ
第2章 スマホはここまで学力を破壊する
第3章 オンライン・コミュニケーションの落とし穴
第4章 オンラインでは脳は「つながらない」
第5章 スマホ漬けの脳はどうなるか
第6章 すぐ始められる脱オンライン習慣のススメ
おわりに

本書のタイトル、そして目次をざっと眺めただけでもわかるのは、スマホの使用に対して著者が警鐘をならしているということです。スマホの使用によって得られるものもあれば、失うものもあると思っている読み手はぐっと惹きつけられます。今回は、本書の中で第1章の内容を少し掘り下げていきましょう。 

第1章 思考の中枢を担う前頭前野を守れ

 まず、第1章のポイントをまとめると、次のようになるでしょう。

 認知機能・コミュニケーションといった高次機能を司る前頭前野を、たくさん動かすことで、10代のうちに健全に発達させることが重要だ!

ポイント内にある「前頭前野」とは何なのでしょう?また、なぜ著者は「10代」に注目しているのでしょう?こうした疑問に対する答えを、第1章の中から探してみましょう。

前頭前野の機能と役割:認知機能とコミュニケーション

 前頭前野とは、「情報を素早く適切に処理したり、覚えたりする脳の機能」の総称である「認知機能」を実現する箇所だそうです。具体的な機能としては、次のようなものがあるそうです。

「実行機能」:計画を立てる。感情や行動を抑制する。
     例:PDCAサイクルを回す。
「作業記憶(機能)」:情報を一時的に記憶しながら操作する。
     例:メモを見ずに買い物をする。
「処理速度(機能)」:迅速かつ「正確」に情報処理する。
     例:仕事、家事をこなす。
「持続的注意(機能)」:集中力の持続させ、注意を切替える。
     例:映画を見続ける。
「選択的注意(機能)」:特定の情報にだけ注意を向けて行動する。
     例:病院の待合室で看護師が呼ぶ声に耳を傾ける。

※例には、本書の著者が示していないものも含まれます。

こうした前頭前野がもつ多くの機能は、日常生活を送るうえで欠かせません。それぞれの機能が、細かな日常生活上の行動に結びついているからであり、機能同士が関連し合い、複雑なコミュニケーションを成立させているからでもあります。

10代の過ごし方が重要!

 前頭前野に多くの機能があり、コミュニケーションを成立させるために欠かせないことはわかりました。では、なぜ10代のうちから前頭前野を気にかけないといけないのでしょう?

 その理由を考えるうえで重要なのが、人間の脳のつくりを知ることです。つくり自体はシンプルで、若いうちは脳が発達する(容積が大きくなりながら信号の伝達が効率化していく)が、年を取ると衰退(萎縮)するというものです。ここでの効率化とは、普段から使う神経(線維)だけが強化されていくことと示されています。
 具体例として、幼少期の言語習得が挙げられています。英語圏で生まれた赤ちゃんはLとRの音をそれぞれ聞き分けるように育つので、LとRの中間の音を聞き分ける必要がなくなっていく。他方で、日本語圏で生まれた赤ちゃんはLとRを聞き分ける必要が無いので、いずれの音であってもラ行として処理することが強化されていくというわけです。
 当教室に通っている子どもたちの中には外国出身の生徒もいて、「か」と「が」の聞き分けや、「な」と「ら」の聞き分けが苦手な子が多くいます。在日期間が多くなればなるほど、この区別は定着していくのでしょうけれど、ある一定量に到達するまでこの区別を練習しない限りはなかなか越えられない壁になるのでしょう。

 さて、話を戻して、なぜ10代が重要かといえば、言語習得の例に見られるように、脳(とりわけ高次機能を司る前頭前野)が、小学校高学年頃から20歳ころまでの間に時間をかけて少しずつ成熟していくからだよ、ということが示されています。どんな風にスマホが脳を破壊するかは第1章では明かされていませんが、10代が脳の発達段階で非常に重要となるということはわかりました。

前頭前野を守るために!

 10代が脳の発達において重要であるとして、どうすれば前頭前野を守れるのでしょう?スマホを与えないor所持しているスマホを取上げるといったような処方箋があるのでしょうか?

 著者が示す処方箋は、ずばり「使うこと」です!え?それだけ?と思わされなくもないです。が、上述したように脳のつくりはシンプルなので、萎縮に逆らうには使うことが必要になるのでしょう。著者は、半年間32人を対象にした検査結果をもとに、音読や計算などのトレーニングが認知機能の低下を食い止めたと紹介しています。また、その検査から脳トレゲームが誕生し、脳トレゲーム自体の効果も実証済みであると紹介しています。
 ただ、脳を使うことで前頭前野の維持、改善に繋げられるとしても、気掛かりな点はいくつか残ります。

  • 脳トレをすることでスマホによる脳破壊が食い止められるという話は、至極単純な話に聞こえなくもないです。この話が本当に研究者をゾッとさせたのでしょうか?脳トレなどを通して脳を使ったとしても脳の破壊を防げない致命的な何かが、第2章以降に紹介されるのではないかと、期待半分、不安半分といったところです。

  • 10代が脳の発達にとって重要な時期であると示されていましたが、著者(の専門である脳科学)による処方箋は、10代の脳の発達を守るだけでなく、広い世代の脳の萎縮を防ぐ術のように読めました。まだ第1章を読んだだけなので、第2章以降でのスマホが学力に及ぼす影響について詳しく理解できたわけではありません。ただ、せっかちな読み手である私は、10代の脳の発達が重要であればあるほど、10代に対する特有の処方箋があっても良いのではないかと期待してしまいます。

 結論として、第2章以降を早く読みたくなっています!第1章はポイントが端的に示されていて、スラスラ読めました。第2章以降も読んだら備忘的に記します。

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