ランチュウ会

児童文学の創作教室で出会った9名。 応募作品の入選や、作家、朗読家など活躍中。 創作、…

ランチュウ会

児童文学の創作教室で出会った9名。 応募作品の入選や、作家、朗読家など活躍中。 創作、エッセイ、本の紹介などジャンルに縛られず個性豊かに投稿していきます。

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メンバー自己紹介

◆ kikimaruru ◆ ・山口県出身 ・ナンセンス作品が好き ・猫派→犬は人を信用し過ぎるから重い。適度な距離をとる猫がいい。 ・基本怠け者→なまけもの、ハシビロコウが好き ・note個人アカウントkikimaruruもよろしく ◆ 田部智子・TOM ◆ ・東京都出身 ・現実逃避できる楽しい物語が好き…だったんだけど ・数年前からネコにはまりこむ ・運動不足でマジ死ぬかも…と思う今日この頃 ・原点に戻って絵本を書きたい! ◆ 邱力萍(チュウリーピン)◆ ・中国出身。

    • 今晩はフィンランドのパンとスープだ

             ■邱力萍■ 紀伊國屋で硬いフィンランドのパンを買った。そして 急にスープを作りたくなった。 ずっしり重たいパンを手にして、私の頭の中に鍋が急に現れて、そしてじゃがいもや、玉ねぎ、ソーセージ、トマト、キノコ、カラフルな豆まで、鍋の中でコトコトと煮えていた。 どんな味だろう?市販のコンソメの味?違う。 油を引いて、刻んだニンニクをしばらく炒める。それから玉ねぎやキノコ、じゃがいも、トマトを入れて丁寧に炒める。最後に丸ごとのソーセージをぶち込んで、水をたっぷり入れて

      • モロッコインゲンと里芋と

        澤 なほ子                                  モロッコインゲンの蔓の伸び方がすごい。一晩で二十センチくらいは伸びる。異常な猛 暑が続いた今年の六月下旬、用事があってわたしは三日ほど畑に行けなかった。その間に 十五株から伸びた蔓は二メートルの支柱を五十センチほど超え、ふらふら揺れている。 その淡い緑色の蔓から声が聞こえてきた。 「早く、何とかしてよ! 掴まる

        • 満員電車中の電話

          ■邱力萍 ある朝の満員電車の中だった。その日、運よく私は席が見つかり、座ることができた。缶詰めにされたように、電車の中に人がいっぱい。それなのに、誰一人も喋らない。みんな静かに立ち、揺れる電車と一緒に一駅、また一駅と前へ進む。 いくつかの駅を通り過ぎたそのときだった。隣の席で寝ていた男性のほうから突然電話が鳴った。静かな満員電車の中、電話の音はかなり響き渡っていた。男性は四十代前半だろうか、彼は慌てて、ワイシャツの胸あたりのポケットに差し込んでいたスマートフォンを取り出し

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        • 邱力萍作品
          6本
        • #眠れない夜に
          4本
        • kikimaruru作品
          3本
        • 鏡六花作品
          1本
        • 田部智子作品
          2本
        • 澤なほ子作品
          2本

        記事

          さがしもの

                                     kikimaruru  不機嫌な顔をした女性が、本の表紙をじっと見ている。おもむろに机の引き出しから砂消しゴムを取り出し、タイトルの一部を力任せに削り始めた。 「ない、ない」  タケは、シャツのポケットを押さえたり、ズボンのポケットの前も後ろも何度も手をつっこんでいる。 「あー、どうしよう」  もちろん、カバンの中も、机の引き出しも、ベッドの下もごみ箱も、家の中を一晩中さがした。 「ヤバい、朝になっちまった」  昨夜

          初めてのlive house

                邱 力萍 試しに行った初めてのライブハウスに、チャーリという中年の男がギターを弾いて歌っていた。 チャーリは外国人の名前をつけているのに、実際はバリバリの日本人中年男性だった。 背が高くて細身のチャーリは、大きなギターを弾きながら、日本語の歌も英語の歌も歌った。しかし、彼が歌った日本語の歌はほぼ自分で作詞作曲したせいか、私にはなじみはなかった。一所懸命聴いていても、彼の曲に自分の気持ちを合わせることができずにいた。目の前に立派なアーティストさんがいるのに、そ

          初めてのlive house

          ヨルのプール

                                       鏡 六花 しのびこんだよ ヨルのプールに くらやみの中  遠くにみえる街の灯りは 呼吸するみたいに点滅していて まるで 大きな生き物みたいだ 僕はここで 好きに泳いでいいよ だってここは 僕のプール 冷えた水に 飛び込んでみると 体中が痛くて 思わず声をあげた 切り傷が あちらこちらにあるみたい どの傷も もう治ったと思っていたんだけどね そんな あきれた顔をして僕をみないで 僕は ずっと前から僕にあきれている

          ヨルのプール

          メビウスの舌

                    田部智子                ➰➰➰➰➰➰    パソコンで仕事をしていると、知らず知らずのうちに歯を食いしばっているらしい。  千秋がそれに気づいたのは数日前だった。どおりでこのところ、顎の疲労や、首筋のこわばり、全身の倦怠感がひどいはずだ。  気づいたときは、口を開けてパクパクしたり、腕をぶらぶらさせたり、肩上下させたりしてみる。だが、いつのまにかまた歯を食いしばっている。  何とかしなければ……。このままでは仕事に支障が出るし、体にも

          メビウスの舌

          お茶を作る

                                         澤 なほ子             庭の隅にお茶の木が一本ある。十一月に白い五弁の花を下向きにひっそりと咲かせ、濃い緑の葉をかじかませたような姿で冬を乗り越える。三月に入ると新芽が出始め、四月の上旬にはみずみずしい葉を輝かせる。 この葉を摘むと、直径三十センチほどの笊がいっぱいになる。去年まではこれで煎茶

           ◇◆◇ユートと銀の魔神◆◇◆

          詩 緒 2012年発行 ランチュウ作品集2より  プロローグ  あれは、わすれもしない、ぼくが十歳のとき―。  あたらしい家に引っ越して、少したったころだっただろうか。  ぼくは、ベッドの上でうつぶせになって、ゲームをしていた。あともうちょっとで、ゲームクリアというところで、体中をビビビって静電気がはしったみたいな、へんな感じがしたんだ。  夜、ひとりでいると、なにもいないのに、だれかにみられているような気がして、びくっとすることあるじゃない。あんな感じ。  ぼくは、ふと

           ◇◆◇ユートと銀の魔神◆◇◆

          ユートー星人、地球グルメ調査の旅

          山口 舞 2012年発行 ランチュウ作品集2より ① 地球に出発!  ユートー星は、地球から遠く離れたべつの銀河系にある星。地球にそっくりで、ユートー星人も、地球人とまるでそっくりな暮らしをしています。姿もそっくりですが、頭が体よりちょっとだけ大きくて色が黒いところは、しめじに似ていました。  さて、ユートー星は銀河系の中で最も豊かな星でした。ユートー星人はみんなグルメで、おいしいものばかり食べています。トップニュースはいつもおいしい食べものについての話題で、マスコミが

          ユートー星人、地球グルメ調査の旅

          雨の日に

          澤なほ子                 2009年発行 ランチュウ作品集より  きょうは土曜日の午後。朝からずっと細かい雨が降っている。窓ガラスの向こうに、紫のあじさいの花が重たそうに首をたれていた。  中学二年生のテツヤは険しい顔つきで小麦粉やらサラダ油を戸棚から出している。頭の中はきのうの担任とのやりとりでいっぱいだ。  七つ年下の弟のダイゴはキャベツを危なっかしい手つきで刻み始めた。テツヤが重ねてくれた葉はダイゴの小さい手ではつかみきれない。 「ざく、ざく、

          炊事班長 ③

          邱 力萍 6.  六月の真ん中あたりに、天気が急によくなってきた。  梅雨らしくないじゃないかと周りの人が心配しているが、特に地震のような天変地異もなかった。  今日、二時間の授業が終わると、学校は終わった。先生達は生徒を連れて、畑に行き、収獲のお手伝いをするんだって。  私は「幼い」から、うちへ帰れと言われた。  学校から帰る途中、お昼の休憩時間だけ放送するはずの社内放送が急に鳴り始めた。いつもの中央ニュースではなく、変なことを放送している。 「公社社員の皆様、緊急連絡

          炊事班長 ③

          炊事班長 ②

          邱 力萍 4.  いやでも、李班長には一日五回は会う。  顔を洗うお湯も、お茶を入れるお湯も、夜足を洗うお湯も、李さんがいる厨房からもらってこなきゃいけない。それだけでまず一日二回は厨房に行く。  それから、一日三食。李さんから、食事をもらわなければならない。 「李炊事班長」と呼ばれている割には、厨房には李班長一人しかいない。ひとりなのに「班長」の呼び名は意味がないじゃない。  班のメンバーが変わらないだけでなく、もうひとつ絶対変わらないものがあった。それは李班長の毎日

          炊事班長 ②

          炊事班長 ①

          邱 力萍               2009年発行 ランチュウ作品集より 1.  王さんが運転しているトラクターは、白煙をはきながら、敷地の正門を出て、右に曲がると、車道とまっすぐに走った。私と母さんの乗った荷台には、エンジンからの大きな振動が伝わってくる。  正門まで追いかけてきて見送る兄ちゃんに、母さんはずっと手を振っていた。 「…、…」  兄ちゃんは何かを言おうと何回も口を開くが、言葉は出てこない。  私なら、せめて「母さん」と叫ぶのに。  兄ちゃんのことは、

          炊事班長 ①

          シロクロ

                                       田部 智子                ⬜◼  ほわっと、おっぱいのにおいがした。  そんな気がしただけかも。  目をとじたまま、かたっぽずつ前足を出してみる。  右、左、右。左……。  でも、足にはなんにもさわらない。  ついでにくるりと顔をなでてみた。やっぱりひとりぼっちだ。  と……。  バンバン! バン!!  上から大きな音がふってきて、まわりがびりっとふるえた。  びっくりして、足もとの小さなすきまから外