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銀河鉄道は雨の中 其の十

十 全ては星の中で

踏みしめる一歩、この先には何があるのか?

期待と緊張が渦巻く胸中、心臓がハカハカと音を奏だす。

それは体をつたい二兎吉の耳に流れ込む。

少しこわばった顔をしながらその視線は真っ直ぐ目の前を見つめ歩いていた。

乙女座駅に着けばすぐに真相がわかると思っていた。

だが、汽車を降りたと同時にヌラはこっちだよと私を案内しだした。

目の前をテトテトと歩き、私を何処かに導いていく、その姿をしっかり視界の中に入れながら二兎吉は後を着いていった。

汽車を降りて数分、駅から出た私の目に飛び込んできたのは白い石で作られたであろう、美しい姿をした女神像だった。

「うわぁ、なにこれ!凄く美しい」

外は快晴、太陽の光が女神像を照らし輝いて見えている。

それが余計に神々しさを際立たせて本当に女神が目の前に居るように見えた。

今にも喋りだしそうなくらいリアルで生々しさを感じるのだ。

「おかえりなさい二兎吉」

突然誰かの声が女神像から聞こえてきた。
二兎吉はビックリしながらも、女神像を丸い目で見ながらその声の本当の人物を探そうと頭の中をフル回転させていた。

その声に聞き覚えがあったのだ、「だれだろう?」

そう思っていると背後からまた別な声が聞こえた。

「お疲れ様だったな」

その声はそう言ってくる。

一体何者なんだ?そう思っていると、女神像の後ろから誰かが現れた。
その姿を見た瞬間二兎吉は少し怯えた。
それは二兎吉の母親だった。

姿を見た瞬間に脳裏にあの時の言葉が思い出された。
「私の子じゃないこの家から出ていって」
それが鮮明に聞こえてくる。
だがそんな過去の言葉とは裏腹に母親の顔は二兎吉を心配し、やっと会えたねと言うような雰囲気が出ていた。

そのオーラには優しさを感じた。

何故か母親にすがりたくなってきた二兎吉は目に涙を溜め、その胸に走り出そうとした。

その時肩をポンと叩く誰かが後ろに立っていた。
誰だろう?そう思い振り返ると、そこにいたのは狼男の牙狩(ががり)だった。

「え?」

「後で話してあげるから、お母さんの所へおいき」

牙狩はそういって二兎吉を促してくれた。
にじみ出るその涙を拭きながら、まだ言葉にできないかすかな喉をヒクヒク鳴らし母親のもとに向かっていった。

近づいてくる二兎吉を両手を広げて待っていてくれた母親は、胸元へ来た二兎吉をぎゅっと抱きしめてくれて、そのぬくもりの中に包んでくれた。
あたたかい、これが母親という存在のぬくもりなのかと感じていると、母親からか細い声で言葉が漏れ始めた。

「ごめんねあの時あなたにあんなことしか言えなくて、本当はあなたが女になっても全然いいの、だけど怖くて受け入れられなかった。
また乙奈のように病気で死んでしまうんじゃないかって怖かったの・・・」

「お母さん、泣かないでよ、分からないよ私・・・どういうことなの?」

するとぎゅっと抱きしめてくれていた母は二兎吉をそっと放ち、微かに涙のにじむ目を向け頭をなでてくれた。

「前も話したけど、私はあなたの姉であなたの生まれる前に病気で亡くなった。あなたとお母さんの間が悪くなっているのを感じてたから私とこの人で関係を修復しようとした」

ヌラは突然そう言いだし、隣にいた牙狩はその話と共に私に話しを切り出した。

「二兎吉・・・君は長い夢を見ていた。それはあることをきっかけにして突然起きた・・・君はお父さんのことを覚えているかい?」

「え?お父さん??覚えているよだってだって・・・」

二兎吉は父親に言われた言葉も思い出していた。
母親と同じように「お前はうちの子じゃない、出ていけ」それが脳裏によぎった。

少し怪訝な顔をして二兎吉は牙狩を見ていた。
すると彼は少し申し訳なさそうな顔をして二兎吉の目線までかがんだ。

「私はね。君のお父さんなんだよ・・・二兎吉が生まれて数日後に事故で無くなってしまった。母さんには未練しかなかった。
乙奈が死んでしまって、それから私まで、辛い思いしかさせられなかった。
申し訳なかった。
だけどお母さんは一生懸命二兎吉のために頑張ってくれていた。」

「そう、私は頑張ってた。もう二度と家族を失いたくなかったから一生懸命あなたに尽くしていた。
だけどある日あなたが『私は女性になりたい』と私に言ってきた。
その時脳裏によぎったのは乙奈の事、女になったら乙奈のように病気になって死んでしまうんじゃないかって・・・急に怖くなった。
二兎吉が自分らしくいれるなら、私はそれでいいと思っていた。
だけど受け入れられなかった。」

涙を目尻にいっぱい貯めてお母さんは震えた声でそう話してきた。
二兎吉はただ聞いているしかできなかった。
ヌラも牙狩も同じようにお母さんの話を真剣に聞いていた。

「そしたら不意に『あんたみたいな子は私の子じゃない』なんて言ってしまった。あなたはその言葉で涙を流し家を出ていった。
探した・・・申し訳ないことを言ってしまったと思って私はあなたを探した。そしたら、あなたがカエル山の階段で倒れているのを発見した。
また家族を失うのかと思って怖くなった。
あなたを救いたくてずっと看病していた・・・」

「え?まってよ、どういうこと??だってお父さんは私と喋ってくれてた・・・それに・・・あの時の、あの時の」

二兎吉は混乱した。今まで見てきたものは??あれは現実じゃなかったのか??どうしてあんなにリアルな夢を見ていたんだ?二兎吉には何もかも理解できなかった。
混乱した顔をしていると牙狩が話をし始めた。

「それはな、二兎吉がそう思ってしまっていた夢をずっと見ていたからなんだ・・・お母さんに言われた言葉がショックすぎて自分から逃げたくなってそんなマイナスな夢を見ていたんだ・・・」

「でもなんで私はそんなことになったの?なんでお父さんも、お姉ちゃんも私の夢に出てきたの??」

「あの時二兎吉はカエル山の頂上に行って一人で泣きたかった。悲しすぎて一目散に階段を駆け上がろうとした時に足を滑らせて転げ落ちたんだ、命に別状はなかったが気絶したまま意識がなかなか戻らなかった。
このままの状態ではお母さんがもっと悲しい思いをする。
だから私とお姉ちゃんは二兎吉を救いたくてお前の夢の中に現れた。」

牙狩はそう言ってヌラと一緒に二兎吉の隣に歩み寄ってきた。
事実上の家族が全員並んだ瞬間だった。
その場にいたヌラと牙狩は光に包まれ姿を変えていく、その光の奥から現れた姿は本当の姿の二人だった。

「お母さんの本当の気持ちの中の思い、私たちは知っていた。」

「だから二兎吉、お前の命は救ってあげたいと感じた。このまま意識がなくお母さんが悲しむような未来にはさせたくなかった。
お前たちには幸せになってほしい、だから・・・お願いだからこっちに来ちゃダメだ!」

お姉ちゃんとお父さんはそう言うと二人とも手をつなぎ手を振った。
「これからは二人で幸せにね」
二人はそう言うと一緒に駅に向かっていった。

駅の中に消えていく二人を見つめる私とお母さん、互いに涙を浮かべながら「ごめんね」そう呟きながら再び抱きしめあった。
母のぬくもりが私を包む、心臓の音が私の耳に響く「ドクン、ドクン」それは心地よく私の心を包み込み、優しい気持ちになっていく、徐々に力が抜けるような感覚になり私の視界はドンドンと白くなっていった。

白い世界がどれくらい続いたのだろうか?
気が付くと私は病院のベッドに居た。
すぐ隣にはお母さんが私のベッドに突っ伏して寝ていた。
「これが現実??」何気なくそう思いお母さんを見ていると、私の意識が戻ったのを悟ったかのように母親が目を覚まし顔を上げた。

「お母さんおはよう、お父さんと、お姉ちゃんの夢を見たよ」

二兎吉はそう言うと、お母さんはニッコリとほほ笑んで二兎吉に優しい声で話しかけた。

「うん、私も・・・おかえりなさい二兎吉・・・いえ、アカリ」

「え?アカリ??どうして??」

「私もあなたと同じ夢を見ていた。自分の気持ちをあなたに伝えたくて必死だった。そしたらお父さんとお姉ちゃんが現れて、乙女座の駅にあなたが居るから一緒に行こうって言ってくれた。
その旅の中で色々綺麗な星をいっぱい見てきた。
それを見て思ったの、もしあなたとまたちゃんと出会い、話すことが出来たら二兎吉じゃなくてアカリって名前にしてあげようって、銀河鉄道の綺麗な星々のように光り輝き照らす灯のようにカワイイあなたでいてほしいって思ったから」

二人は同じ夢を見ていた。
だがそれは本当に夢の話だったのだろうか?妙にリアルで温かみがあって気持ちがグイグイ伝わってくるまるで現実のような夢・・・
それはもしかしたら本当に二人が体験していた現実だったのかもしれない、
銀河鉄道は今日も夜空を走っている。

世界中の色々な人の思いを乗せて、願いをかなえるために夜空を駆け巡っている。


END

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