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看護師になるつもりなんか、なかったのに。

その気持ち、まだ引きずってたんやったっけ。
真新しいピンクの白衣にはテンションあがったけど、「患者さんやご家族にとっては、あなたたちも先輩達と等しく看護師です」って研修で言われた言葉、重く響いたな。


第3希望に書いたICU(集中治療室)配属になるなんて、思ってもみんかったやろ?
「若い頃に急性期の部署を経験したほうがいい」なんて誰かの言葉が引っかかってて、書いてみただけのつもりやったのにな。
おびただしい数の点滴やチューブ、なんだか大それた機械に囲まれた赤ちゃんを初めて見たときの胃がきゅううとする感じ、今でも覚えてる。

先天性心疾患(生まれつきの心臓の形や機能の異常)って、あんなに勉強した国家試験にも一問も出てこうへんかった気がするんやけど、どうやったっけ?
臨床の場に立って、これまでの勉強が如何に基礎の部分やったかを思い知ったよな。
自分の知識も考えも浅すぎて、毎日先の見えへん断崖絶壁の細い道を歩いてる気分やった気がするわ。

自分のやってることがこれでいいんか分からんくて、怖いよな?
でもその気持ち、大事にして。
患者さんの安全を確保するためには、それに突き動かされて確認を重ねていくことが必要やから。
医療の世界で怖いもの知らずは、ほんまに怖い結果も連れてくるんやで。

日々のレポート、辛いよなあ。
これ意味あるん?って思いながら書いてるやろ。
だけどあそこで学んだこと考えたこと、ちゃんと身になっとるで。
それに先輩達は見てないようで、ちゃんとそんなところも見てくれてる。
あのファイルは宝物になって、まだ大事にとってあるんや。

なんで無視するん?って、あの人と同じ勤務の日は身体が縮こまってたな。
それでもな、話しかけるのが辛いからって、伝えるべきことを伝えへんのは絶対アカンのやで。
影響が及ぶのは自分じゃない、あなたの大好きな子ども達やで。
あの日の反省は、今も強く心に刻まれてる。


目の前で命を燃やす子ども達に、何回救われたやろう。
生後すぐの大手術からトントンと回復する子、あんなに青白い顔をしてたのに持ち直してきた子、親御さんの面会にとびっきりの笑顔になる子。
みんなみんな、可愛くてしょうがなかったな。
もしも願いが叶うなら、ここからとんでいって全員ぎゅうと抱き締めたい。

あ、そういえばビールのホンマのおいしさもわかったやろ?
日勤終わりと、夜勤明けに「ぷはぁ」ってやるのが最高なのは今も変わらへん。


1年目の終わる頃の集合研修の後、他部署の同期達と飲みに行って大泣きしたな。
同じ立場の人に囲まれた安堵感の中で、みんな頑張ってるんやって思えたんよな。
1年間走りきれた達成感と、まだまだ不甲斐ない自分と、わかることが増えてきたという実感と、何もできない悔しさと、お家に帰る笑顔を見送る喜びと、どんなに願い続けても助からなかった命のことと。
あの涙には、全部全部詰まってた。
そんなあなたが、今となっては愛おしい。


ひとつ、褒めたいことがあるねん。
それは死にたくなるくらいなら仕事を辞めようって覚悟を決めて、働きはじめたこと。
自分をなくしてまでせなあかん仕事なんかないって想いを、手放さへんかったこと。

仕事がわたしの全てじゃない。

その覚悟が、あなたを強くしてくれたんやで。
その覚悟は、今でもわたしを救ってくれるんやで。


社会人1年目のわたしへ。

生き抜いてくれて、ありがとう。
踏ん張ってくれて、ありがとう。

あなたが紡いでくれた糸を、
わたしは今も紡いでいます。


ここまで読んでくれたあなたは神なのかな。