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論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-1-

「『助けて』、とな」
「ああ、こいつをどう見る、R・V」

 西部劇めいた誂えのバー・メキシコ。その端でいつもの様に文筆作品を並べて茶を呷っていたいつも通り黒ずくめの俺に対し、浅黒い肌に分厚く丸いサングラスをかけレモンイエローのジャケットを羽織った屈強なる偉丈夫が見せた情報端末の板面に表示されていたメッセージがそれだった。

「通常なら単なる悪戯と見るべきだが……周辺情報まで含めて考えると異常事態が起こっている、と考えられる」
「やはり、お前もそう思うか」

 屈強なサングラスの男、Y・Gは情報端末をしまうとかぶりを振る。気持ちはわからんでもない。今のご時世、ろくでもないトラブルが巻き起こっては毎度毎度大騒ぎするのだから。しかも、ピンポイントで俺を巻き込むおまけ付きだ。ともあれ、Y・Gにバーの椅子へ座るように促す俺。

「一旦得られている情報を整理しよう。Y・GにそのSOSを送ってきた仮想アイドルは表面上、SNSでは普段と変わらないように振舞っている、と」
「そうだ。こちらから返事も送ってみたが、返答どころかメッセージに既読印すら付かない」
「企業付きのアイドルだろう、運営企業の関連人物とかSNSやってないのか?」
「もちろん、調べたとも。企業公式アカウントについては定常広報を続けているが」
「生身の会社員と思しきアカウントはSOSメッセージが送られてくる数日前から活動を停止している、だろ」
「その通りだ。奇妙だと思わないか?」

 Y・Gの言葉にうなずいて答える。通常、企業付きの仮想アイドルであれば運営組織である企業側もアイドルの盛り立てを行う。だが、今回はアイドルだけが普段通り活動し、所属企業における関連人物の活動はインターネット上では停止している。逆なら企業側の都合で片付くが、アイドルだけが普段通り活動しているのはいかにも奇妙に感じられる。

「しかし、ネット上で得られる情報だけだと限界があるな」
「そうだ。だからこそ自分の目で起きている事態を確かめに行く。ついてはお前にも協力してほしい、R・V」
「良いぜ、事件ならパルプのネタになりそうだしな」

 茶碗に残っている茶を注いで飲み干すと、椅子から立ち上がる。時間は昼前で、今この瞬間にバー・メキシコにいるパルプスリンガーは俺とY・G位だ。平日の早い時間はいつもこんなものである。

 自分の作品を束ねて壁際にある書籍ラックに預けるとY・Gと並んでバー・メキシコを出ていく。超巨大自由売買商業施設”Note”は平日はどこもまばらな人入りだが、とりわけ胡乱窟であるバー・メキシコに来るものは少ないのだ。

「しかしだ、一体全体なんだってパルプスリンガー達は誰も彼もが俺に相談を持ってくるんだろうな。そりゃ相談されればいくらでも乗るんだが、他にも頼りになるヤツは居るだろうに。A・Tなり、B・Rなり、O・Dなり」
「なんだ、わかってなかったのか?多分そいつはR・V、お前が年がら年中朝っぱらからバー・メキシコに居座ってるからだろう。いつでも居るからな、お前は」

 商業施設らしい開けた通路を歩きながら、Y・Gからかえってきた言葉にがくりと肩を落とす。言われてみれば、その通りだ。パルプスリンガーの中でも毎日メキシコに居座ってる変人は俺くらいのものだった。

【論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-1-終わり:-2-へと続く

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