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戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-9-

「なあ、M・H。マグロって喋るモノなのか?」
「えっ?」

 翌日、いつも通り超巨大自由売買商業施設”Note”の片隅にある胡乱窟、バー・メキシコに居座ってた俺はたまたま目の前にやってきた海洋学者パルプスリンガーのM・Hに問いかけた。青みがかった美しい長い髪を揺らしながら困惑する、穏やかさのにじみ出る顔立ちの彼女に俺はうろんな質問をぶつけた事をちょっと後悔した。

「その、私の知見の範囲ではマグロが人間の言葉を話した事例はない、と思う」
「だよなぁ……」

 はぁぁあ……と深くため息ついて顔を伏せる。メキシコ内では絶賛マグロパーティが開かれており、調理スキルを持った者達が思い思いに食べたいマグロ料理を作り上げてはシェアして皆で味わっていた。もちろん、彼らが食べているのは俺が末期を看取った知性マグロだ。遺言で本魚から無駄にしないでくれと言われているのでこれで正しいのだが、なんか釈然としない俺であった。

「どうかしたの?R・Vらしくないわ」
「あー……その、なんていうか。しゃべるマグロに遭遇してだな」

 気遣ってくれた様子のM・Hが俺の言葉に硬直する。無理もない、彼女は列記としたまともな海洋学者であり、間違っても「海のそこにはクトルゥフ神話で語られる深き者どもと信仰の対象である神が!?」とかは言い出すタイプではない。

「それ、は、信じていいものなのかしら」
「俺もわるいゆめだと思いたい」

 暗に冗談ではない事を伝えるとますますもって表情を険しくするM・H。さらにこっちに歩み寄ってきてテーブルについたのは赤ら顔に詩人風の服装をしたパルプスリンガー、O・Dだ。彼は毎回ここに来るたびに見た目も振舞も違うが、今回は色あせた金髪に彫りの深い壮年の男性の様だった。

「R・V、しゃべるマグロに遭遇したというのは本当か」

 見た目相応の渋いバリトンで俺に確認するO・Dに多分しんなりした表情でうなずく俺。

「そうか……であれば、オヌシにマグロしんじつについて語らねばなるまい」

 携えていたハープともギターとも、既存の弦楽器のいずれとも異なる形状のソレを爪弾きながらO・Dは語り始めた。身構える俺とM・H。彼の弾き語りに対しては、強い意志力をもって相対せねばニューロンに深刻なダメージを受けるのは免れない。

「時は遥かさかのぼること源平合戦の時代。熾烈を極めた源氏と平氏の争いは源氏の勝利に終わり、歴史に記されておる通りに追い詰められた平氏は壇ノ浦の戦いにて海に身を投げていき、その生涯を終えたとされている」

 聞きなれない、しかし不快ではない調子っぱずれの弦楽と共に厳かな雰囲気で彼は歴史の事実を語る。ここまでは史書に記されている通りだ。

「だが、海に身を投げた平氏達は滅んでいなかったのじゃ」
『え”っ』

 たった一言であっさりひっくり返される歴史事実。身構えていてなお俺達は耳を疑ってしまった。

「壇ノ浦に身を投げた平氏が数多海の底に沈んでくるのを目撃した深きぬばたまの海神が彼らを憐れみ、完全に死を迎える前に神通力でもって陸の生き物である人間に対し海で生きていける様に加護を与えたのだ」

 ノリノリで秘せられた歴史真実を語るO・Dを他所にギギギ、とぎこちなく首を回してM・Hと顔を見合わせる俺。もしや知性マグロしんじつとは……

「それ以来、平家とその末裔は日本の海の底にひっそりと住まう様になり、魚たちは彼らから人間の言葉、すなわち日本語を学び取り特に賢きマグロは自らもまた人語を理解し、話す様になったのだ」

 やはりそういう事か!納得はしても相変わらず脳が理解を拒否する。身投げした平家は実は海の底に存続していて、しかもマグロに日本語を教えただと?確かにそれならばマグロが本来聞く機会のない日本語を流暢に話せたのはワカル。わかるが……O・Dの語りにいつしかパルプスリンガーの皆が手を止めてこちらを囲い込んでいた。初めから聞いていたのか、黒髪眼鏡に温和な雰囲気のM・Jがおずおずと手をあげて質問する。

「その、R・V。君が遭遇した知性マグロって一体最後どうなって……」
「……皆が今食べてる『ソレ』だ」
『え”っ』

 ビシッとその場にいた全員がメデューサに魅入られたが如き様子で硬直する。まあ、そうなるな。だがこの場に居るのは海千山千のうろんな奴らである。五分ほど経つとマグロに変わりはないと無理やり自分を納得させたのか各々マグロパーティに戻っていく。語って満足したのか率先してマグロ食事を再開するO・D。一方手にしていた皿の上のマグロ刺身に手が伸びないM・J。

「R・V、これどうしたら」
「食ってやってくれ、一応それが本人の希望でもある」
「……わかった。ま、まあ、マグロには変わりないしね!」

 何とか納得できたのか、皿の上の大トロをパクつくM・J。味については最上級のソレなのは疑う余地はないようで、M・Jは極めて複雑な表情でトロ切り身をパクつきながら、メキシコの中央にある台に並べられたマグロ料理を取りに戻っていった。

 入れ替わりにキッチンからこちらに来たのが、今回の立役者A・Dである。その手には俺が頼んだマグロの尾の身のステーキがあった。マグロステーキはじゅわじゅわと湯気を立て、陸のステーキにも全く劣らない食欲を掻き立てる仕上がりだった。M・Hはというと、やっぱり衝撃が大きかったのか皿を受け取る俺の横で硬直したままだ。申し訳ないが俺に出来る事はないので自力で立ち直れるよう祈ろう……

「ほらよ、ご希望のマグロステーキだ」
「サンキュー」
「はっは、こんなに好評ならまた釣りに行ってもいいかもな!」

 ご満悦な様子のA・Dを前に、マグロステーキの切り身を口に運ぶ。ガーリックの利いた醤油ソースと、あぶられたマグロの旨味が口の中で暴れまわる。すまん知性マグロ、おまえは美味い。

「それも良いかもなぁ……」

 俺のつぶやきはメキシコの喧騒に溶けていき、俺自身もまた、マグロ料理に集中するのであった。

【戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-9-終わり】

作者注記

 本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の三作目だ。参加者は23人?いるので後20本だ、ガンバレ俺。

 と言う訳で今回の主役はこちらの方。

 太間雷角斉=サンです。ひらがなでよんではいけない。

 彼とは俺がNoteを始めた当初からの付き合いでメキシコで右も左もわからない頃、非常に心強い思いをしたのであった。

 普段は艦隊これくしょんなどを実況していたり、マグロを釣りに挑戦してたりする。そう、マグロ回なのは必然だったのだ……キャラクターイメージとしては、艦これで良く描写される「提督」と海の男、そして著作の巌流島を元にした作品から軍人にして剣客的な風にしてみた。

 乗機である「武蔵」はかつての大和型戦艦「武蔵」と剣豪「宮本武蔵」のダブルミーニングとし、戦艦であり剣豪ロボでもある、と設定させていただいた。意外とありそうなんだが、俺の知見範囲では大和型戦艦を人型機動兵器に変形させてる作品は寡聞にして知らない。

 ご参加、ありがとうございました。

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