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全裸の呼び声 -46- #ppslgr

「オーケーオーケー、気遣い感謝する。なにはともあれ移動しよう」

 レイヴンは、天寿を全うしそうな老人でももう少し覇気があるだろうくらいに億劫な様子で立ち上がると、残った左腕で得物を掴む。ラオ師は奥ゆかしくも一行の先頭に立って先導する。その股間のまばゆいかがやきが闇を照らし出し、屋上からビルにつながる底なし沼めいた階下をおぼろげにあらわにした。

「ついてくるが良い、ワシが拠点としている場所へ案内しよう」
「頼んだ、教授もそれでいいな?」
「ああ。他に当てもないし、ね」

 一同が階段を踏み降ろすたび、怪異の気配がおぞけて遠ざかっていく。そんな空気の残り香があった。

―――――

 夜空の星の他には先頭を行く全裸中年男性だけが光源となったころ、おぞましい存在の影を立ち並ぶ建物の内側に感じながら一行がたどり着いたのは平屋建ての豪邸……だったと思しき門構え。当然ながら人の出入りが絶えて久しいのか、ところどころほころびが見受けられた。

「ここが?」
「うむ。ここにはそこらの怪異も出入りせぬのでひとまずは安心じゃ」
「この街中でか?というかなんで貸し切りみたい出来る」
「それは簡単、ワシが前のヌシを懲らしめたからじゃよ。ゆえに近所の住人はワシが使うことを認めてくれたし、ワシの縄張りゆえ雑魚程度ならば避けるというわけじゃ」
「この異界の中であって、自分のテリトリーを維持するとは、腕の立つ話だ」

 この場にあって二人はまだ緊張を保っていたが、ラオの語るとおり目の前の屋敷からは、ドブヶ丘らしからぬ静謐な空気が漂っていた。それは汚泥に咲く白い蓮のような場違いな雰囲気だった。

 それ以上の説明は不要とばかりに戸を引き開けて中に入るラオに続いて、二人も招かれた屋敷の中に入る。長い間放置されていた割には、内部の傷みはさほど見られない。率直に言って半年ほど空き家だった程度だろうとレイヴンは判断した。もっとも、この異界のヌシの気分一つで何もかも陽炎のようにぶれるこの場所では……まるで当てにならない判断だったが。

「すまん、ご厚意に甘えさせてもらう」

 ドブヶ丘らしからぬあつらえの良い居間までたどり着くと、レイヴンはばったりと倒れ込んだ。つづいてアノートも腰を下ろす。電気が通っていないのはここも同じなのか、光源といえばラオの露出光ばかりだ。

「君らしからぬしおれっぷりだね」
「飲まず食わず休憩なしのトドメに自殺すれすれの自爆芸だ、これで続けて元気に殺し合い出来るほど無茶な体じゃない」
「十分スゴいと思うけどね」
「せめてホテルの荷物を回収出来たら良かったんだがなぁ」

 夜間の奇襲とあって、二人の荷物は回収する暇もなく触手の濁流に飲まれたのであった。そんな中でも刃物だけは掴んで逃走するのが、この黒いやつの黒いやつっぽいところである。

 と、居間に座り込んだ三人の目の前に、持ち込んだ荷物が文字通り降って湧いた。完全に虚無から現れたのだ。あらわれた荷物は、喪失した時と全く同じ状態だと見て取れた。

【全裸の呼び声 -46-:終わり|-47-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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