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映画『ゴールデンカムイ』感想

予告編
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PG-12指定


交流


 野田サトル原作の同名コミックを山崎賢人主演で実写化した本作……って、まぁ話題作でもあったので、説明は不要かもしれません。

エンドクレジットでのCG映像や、続編を匂わすポストクレジットシーン等々、シネマティック・ユニバースを形成してきたアメコミ映画作品群を彷彿とさせるような仕上がりの本作。

また、山崎賢人さんが主演(漫画の実写化作品で主演を張るの何本目だろうか?笑)ということもあり、続編への期待もあってか実写版の『キングダム』(感想文リンク)シリーズをも連想してしまいました。

冒頭から見せつけられる迫力満点のアクションシーン、漫画原作の実写化など、ふと連想してしまうような共通点は多々あれど、それ以上に “山崎賢人さんが演じている” という事実が、主人公・杉元佐一というキャラクターから滲み出ている〈歴戦のツワモノ感〉ともリンクして見えてくるようで不思議。
 且つ、杉元という架空のキャラクターに立体感を付加してくれるキャスティングのようにすら感じました。ちなみに原作は未読なので、あくまで本作を観ただけの感想です。



 明治末期の北海道を舞台に、アイヌの埋蔵金を探し出す本作。劇中、様々なアイヌ語やアイヌ文化が描かれていきます。幾度となく流れてくる聴き馴染みのない言葉も、その都度、注釈の字幕が表示されるので、観客が置いてきぼりを食うことはありません。逆にその字幕が表示されないことで、そこでのセリフや表情、その瞬間自体が、言葉を超えて大切なものであることを理解できるようなシーンになっていたこともあり、とても良かったと思います。

 僕自身がアイヌ語やアイヌ文化・歴史に関する知識が浅いので、ついつい本土の人間側の視点で感想を述べてしまいがちですが、言葉や文化について学んでいたのは、アイヌの少女アシㇼパ(山田杏奈)も同様。アクションや物語も魅力的ではありますが、本作では異文化同士の交流みたいなものもしっかりと描かれていたように思います。

 「アイヌ語で〇〇~」といった、言語の共有だけではなく、野生のリスを食す、熊の冬眠穴に入るなど、アシㇼパの話を聞いた杉元が実際に体験したり行動したりすることが多く、それは逆もまた然り。

(これは別にネタバレに入らない気もするけど……まぁ一応お気を付けください ↓ )

杉元が鍋に味噌を入れようとした際に「オソマ(アイヌの言葉で「糞」の意味)を食わす気か」と怒っていたアシㇼパが、最期の最後には実際に食べて、鍋の味、そして食事という経験を共有する。文字通り「同じ釜の飯を食う」というやつ。新しい発見や出逢いの一つ一つを新鮮に描き、それぞれを共有していく様は、異文化同士の交流としてだけではなく、バディ系ストーリーとも似た魅力にも繋がっていた印象です。


 また、体験や行動を共有するということでいえば、白石(矢本悠馬)の存在も良かったです。単純に作品内のコメディだとか明るい要素を担ってくれていたという印象も強いのですが、はじめのうちは敵対していたはずの人間が、例えば「真冬の川に落ちて凍える思いをする」「共に協力して火を起こそうとする」といった実体験の共有によって、知らず知らずのうちに仲間のようになっていくのが素敵。形は違えど、これもまたある種の異文化同士の交流とも呼応する関係性にも見て取れる。




 そういったことを考えていると、冒頭で描かれていた迫力満点のアクションシーンについても、別の視点でもって考えることが出来る気がします。

鬼人のごとき戦いぶりを見せ、杉元に「不死身」という二つ名が付けられるきっかけにもなった二百三高地での日露両軍の攻防戦の様子。鑑賞中は「ド頭のオープニングアクト、或いはツカミとしては最高じゃん!」などと浮かれていたような覚えもありますが、今思えば、このシーンのナレーションにおいて、日露戦争が起こる経緯が明確に語られていなかったことがとても印象的に残っています。

 「敵だから」「戦争だから」というだけの動機で人間と戦う、人間を殺す……。戦争にまで至った理由、どちらが悪いだとか何が原因だとか、その一切合切が提示されることがなく、ただただ殺し合う両軍の姿が描かれるのみ。完全に敵対し、断絶された関係性の者同士の争いが冒頭に描かれたことが、先述した異文化同士の交流を逆説的に際立たせてくれる。

 食べたことないけど「リスを食べてみよう」「オソマみたいなやつを食べてみよう」……そんな程度のことがきっかけになるかもしれない。或いは言葉が理解できなくてもフチ(大方斐紗子)の想いを汲み取れた杉元のように、しっかりと相手の目を見て、気持ちや意志を想像すること(エンパシー)も大切

 アクションやキャストの豪華さばかりにスポットが当たりがちな印象もある本作ですが、その裏では、相容れない、もしくは何も知り得ないことだらけの者同士でも、人と人は歩み寄ることができる、手を取り合えるということも、本作に込められたテーマだったのかもしれません。



 アクションの魅力も然ることながら、雪景色や星空といった北海道の大自然を視覚で存分に味わうためにも、IMAXでの鑑賞をオススメしたい本作。一人で歩き進む杉元の姿も、真っ白な雪原という舞台が映えることによって〈一人〉が際立つ。だからこそ、アシㇼパと並んで歩く姿が描かれるラストがより一層、素敵な余韻に繋がっていたんじゃないかな。


 かなり評判が良かったのもあって期待して観に行ってしまったため、刺青人皮の争奪戦が始まるまでの序盤の会話シーンだとか、内省的なセリフだとか、必要以上に細かい部分が気になってしまったのは正直なところですが笑、それでも、劇場に行って鑑賞、それどころか+数百円してIMAXなど上質の環境での上映法を選んでもお釣りが来るくらい楽しめました。今後の展開が楽しみです。
 


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