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映画『王様になれ』感想

予告編


 本日9月16日はロックバンド『the pillows』の結成日なんですって。ネット情報で申し訳ないですが……。

 そんなわけで本日投稿するのは、同バンドの結成30周年プロジェクトとして制作された青春映画『王様になれ』の感想文です。

 公開当時の感想文ですが、よければどうぞー。



ぺちゃんこになれ


 the pillowsのアニバーサリー企画の一環で制作され、the pillowsのボーカル・ギターである山中さわおさんらアーティストたちが本人役で出演している本作。

 惚れた女性と仲良くなるためにピロウズを聴くようになった青年の恋愛や夢への道のりを描いた青春映画。キスどころか手も繋げない感じとか、夢を追いかけ悪戦苦闘している感じとか、イマドキなかなか見かけないほどド直球な王道青春ストーリーってだけでも好感が持てるし、何よりピロウズという存在が物語を中枢から染め上げている感じがして面白かったです。


 タイトルに彼らの楽曲名が用いられ、劇中でもピロウズの楽曲が流れ、しかもメンバーが本人役で出演している……。正直な話、そういった事前情報を抱えていたから「ピロウズに詳しくないと楽しめないんじゃないか」というちょっとした不安もあったんですけど、特に問題はありませんでした。

劇中でもヒロインのゆかり(後東ようこ)が「みんなそこから(ピロウズにハマっていく)」と言っていた通りというか、『funny bunny』しか聴いたことがない僕のような人間でも充分に楽しめました。そういう人も割と多かったんじゃないかな。いや、実際は知っている方が楽しめるのかもしれないけど……。まぁ素敵な音楽・歌詞とド直球の王道青春映画なので、相性が好いのは当然っちゃ当然だったのかもしれません。



 青春映画に求める魅力は人それぞれでしょうけど、僕の場合は “成長” や “変化” みたいなものを割と注視しています。一皮剥ける、殻をブチ破る。その過程や瞬間がたまらなく好き。

そういった変化のギャップにも繋がるから、ここでは良い意味として述べますけど、主人公・祐介(岡山天音)が本っ当にどうしようもない野郎なんです。誰しも周囲に一人や二人こんな奴が居たり、もしくは過去に出会ったことあるかもしれません。「これ本業じゃないし~」「別に一生この仕事やるわけじゃないし~」とか偉そうにほざいて仕事もロクにやらない生意気な奴が笑。

同期が売れていたり、三十路を意識し始める20代後半という年齢設定、親戚の店でバイトせざるを得ない経済状況、しかもバイトの時間ばかりが増えていき、夢への努力に時間を割けない、もし機会が巡ってきても何をどう努力すれば良いかがわからない……etc. 性格をどんどん拗らせた結果なのだと納得させる環境もまた面白い。


 まぁ他人のことをとやかく言えた義理じゃないけども、もちろん本人が選んだ道だから全て自業自得なわけで同情する余地も無いし、したくもないけど……気持ちは汲み取れる。他人とは違うキラキラした何かを目指すということは、「自分ならきっと……」という想いが大なり小なりあるということ。それはつまり「俺は他の人とは違う」という意識が潜在しているということでもある。本作の主人公・祐介の場合は特にそれが厄介で、専門学校時代に優秀だったが故にその無意識下の意識がこびり付いてしまっていた印象。だからバイトや他の諸々に全力になれない=全力になれる自分の夢よりそれらを “下に見ている” とも言える。

「自分は他の人とは違って特別だから、特別なことが起きて然るべき」と思うのは、実は誰でも一緒。「昨日まで選ばれなかった僕らでも、明日を待ってる」というキャッチコピーは、特に若者に多く見られるそういった心境——期待・希望と心の甘さが入り混じった本音——を見事に表しているように思えます。その上で “特別な自分” が敗北に直面した時に人間性が浮き彫りになる。そこでの足掻きっぷりこそ個人的に大好きな見所であり、先述の “成長” や “変化” に繋がる最大のチャンス。


 物語の中で祐介が「諦める」という意味——認めて、受け入れること——を諭されるシ ーンは結構キツい。何がキツいって、その時点ではまだ認めることも受け入れることもできていないから。時折、「あれ、もしかしてオレも……?」という感情に襲われるのも結構しんどかった笑。でも大切なことなんですよね、きっと。それができずに、悔しい、恥ずかしい、みっともない等の感情から逃げてばかりいると停滞するばかりになってしまう。「敗北を知る者は強くなる」なんてスポ根マンガみたいな言い方ですが、まさにそんな感じだと思うんです。未見の方にはそのペチャンコになる瞬間を是非とも味わって欲しいなと思います。



 終始主人公・祐介の、延いては男性的感性でばかり描かれている印象があるから、どちらかと言うと男性にお勧めかな? でも女性の意見も聞いてみたいから、もし観る機会があったら感想教えてくださいな。


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