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映画『EO イーオー』感想

予告編
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わからないなりに頑張って感想書きました。


 以前、映画『Away』感想文の中で、「イマジネーションに酔い痴れられる」みたいなことを述べた覚えがありますが、本作もそれに近い。しかしほんの少しばかり違うのは、どちらかというと “想像することを強要されている” ような感覚が若干あること。想像することを楽しむのとは異なり、想像せざるを得ない。そんな感じ。

一頭のロバ・EO(イーオー)を主人公にして、その無垢な目線でもって、或いはどこか傍観者として他人事のような視点でもって、いくつもの人間模様を眺めていく。現実社会とも重なって見えてくることが度々あることかと思います。痛烈な風刺としても、意味深い教訓としても受け取ることが可能の本作は、敢えて物言わぬ動物を主人公に据えることで、寓話のような趣をも感じさせます。

表情や行動、ましてやセリフによる説明など一切しない。人間ではなく動物という無垢なフィルターを通すことで、観客の誰もが自身それぞれの視点に置き換えて映画を観ることができるはず。だからこそ物語としてではなく、純粋に描かれているシーン・光景そのものについてだけに思慮を巡らすことができる。逆に言えば、そうでもしないと本作は何の味もしない。“想像することを強要されているようだ” などと述べたのは、そんな理由から。


 随分と真面目な印象の書き出しになってしまいましたが、その実、本作は気軽に観られる作品かもしれません。いやたしかに、鑑賞する際には集中力を要するでしょうし、お堅い雰囲気もあります。ただ、これといった正解も存在しないので、自由に味わえる作品でもあります。



 少し話が脱線します(ちゃんと戻ってきます)が、僕は今回、新宿にあるシネマカリテにて鑑賞してきました。シネマカリテに行ったことがある方なら御存知の通り、シネマカリテのロビー内には、上映中作品の関連記事などが展示されていて、映画に限らず様々な分野の評論家や知識人、ライターといった方々の批評や感想・解説なんかを読むことができます。今回も例に漏れず、鑑賞後に一通り目を通させて頂きました。

……が、なんだかんだで皆さん “それっぽいこと” しか書いていません。明確な説明なんか一切無かったし、誰も納得のいく答え合わせなんかしてくれませんが、それで良いのだと思います。先述した、”誰もがそれぞれの視点に置き換えられる” という旨の話にも通じますが、だからこその “主人公はロバ”なんじゃないかな。なので、解説や批評ではなく、個人的に思ったことを述べていこうと思います。



 動物の自由を謳う輩の介入によって始まった、EOのロードムービー。けれど実のところ、現実の社会において動物に自由なんてありはしない。勝手に盛り上がって、喜んだり怒ったりする人間に振り回される。EOが瀕死になったシーンでも、「楽にしてやった方が良いんじゃないか」「命を助けるのが仕事だ」という会話が流れてくることで、生殺与奪すらも不自由であるとわかるし、しかもそのセリフを口にしている者の顔すら映らないというのも考えさせられます。



 行く先々で人々に流されるEOの旅路を彩る音楽の数々も印象的でした。あるシーンでは、凄く感情的な雰囲気の曲が流れるけど、喜怒哀楽のどれか一つを限定している感じじゃなく聞こえてくる。また別のシーンでは、静かなピアノの音色の中に、不安感を煽るような激しい旋律が急に混ざり込んで、ごちゃごちゃになっていくような気持ちになる……。それまでに象徴的に赤色と青色が描き分けられていたけど、どちらか一方ということではなく、ないまぜになっているのが現実社会なのかな?とか、延いてはその前後のシーンと紐づけて考えて、善人も悪人も混在しているイメージなのかな?とか……。こうやって文章に起こしている今もまだよくわかっていないのが正直なところです。



 一番印象的だったのは、ダムのシーン。色味の少ないダムを背景に、トボトボと橋を進むEO。そして描かれる、逆行する水流の映像……。実はその前出のシーン(家出した青年に連れられるシーン)で、別の橋を左側から右方向へ向かって渡るシーンが描かれていたのですが、このダムのシーンではそれとは反対に、右側から左方向へと向かうEOが描かれる。まるで前へ進んでも後ろへ戻っても——過去も未来も——然して代わり映えしないかのように感じさせます。もっと言うと、色味の少ないダムとは反対に、前出のシーンの色味が鮮やかだったことも相俟って、「過去も未来も」という〈時間〉だけではなく、〈場所〉すらも変わり映えしないのだと突き付けられているような気分になりました。動物の扱いなのか、人間の様子なのか……。何が変わらないと感じるかは人それぞれだと思います。

また、ここでのシーン限らずですが、本作は人工物と自然の対比がとても印象的で、もしかすると、色味の鮮やかな自然の風景と巨大なダムという対比にもなっていたんじゃないかとも思わされます。



 動物の無垢な目線を通し、今一度、真っ新な視点で世界を見つめ直すことができるような不思議な作品でした。今年のアカデミー賞にもノミネートされていた本作ですが、あまり上映館は多くなさそうですし、早めに観に行かないと上映が終わっちゃうかもですね。


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