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映画『カラオケ行こ!』感想

予告編
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一期一会


 和山やまさん原作の同名コミックを実写化した本作。何年か前に放送された『アメトーーク!』の「漫画サミット」という企画で、本作の原作コミックが紹介されていたのですが、番組内でたくさんの作品が紹介されていたにも関わらず、唯一『カラオケ行こ!』だけが記憶に残っていました。

 というのも、その番組の最後に「普段ほとんど漫画を読まない」という番組MCの蛍原さんが、その日紹介された作品の中から一冊選んで購入する、みたいな流れになって……。その時に『カラオケ行こ!』を選ばれていたので、自然と印象に残っていたんだと思います。

 だから何か月前だったかに劇場で予告編が流れた時に「あれ? これってホトちゃんが選んだ漫画のやつじゃね?」となってからというもの、なんだかんだでずーっと気にはなっていた本作。とはいえ原作は未読のままですが、そんなこと関係無しに楽しめる一本でした。


 合唱部の部長・岡聡実(齋藤潤)が突然、ヤクザの成田狂児(綾野剛)に歌唱レッスンを頼まれるところから始まる物語。そんな二人のやり取りをコミカルに描くパートもクスッと笑える見どころの一つなのですが、この不思議な関係性の中から次第に芽生えてくる奇妙な絆こそ、本作の大きな魅力。

 また、原作での描かれ方こそ存じませんが、「カラオケ行こ?」というセリフのニュアンスが、次第にタイトルでもある「カラオケ行こ!」というニュアンスに変化していくように感じられるのも、二人の関係性の変化を表しているような気がして、とても素敵です。



 聡実たち3年生が出場する最後の合唱祭のシーン。そのステージの奥に掲げられた横断幕には「一期一会」の文字。ほんの短い間だけしか映り込んではいませんでしたが、本作の物語を象徴するような言葉のように思います。

そして、そのタイミングも良い。このシーンのすぐ後、聡実の頭の中を駆け巡っているかのように流れてくる前出シーンの数々によって、その「一期一会」の言葉が染み渡ってくるようだし、同時に聡実自身がそのことを心から理解していることも窺い知れてくる。これまでの狂児との記憶が単なる過去ではなく、掛け替えの無い想い出であると彼自身が痛感しているのだと。

 何も本作で描かれる物語に限ったことではありませんが、特に〈青春〉というものは、「一期一会」という言葉の意味を浮き彫りにさせてくれるような気がします。

本作の「青春も延長できたらいいのに。」という、カラオケ店のシステムをもじったようなキャッチコピーも、〈青春〉が “延長できないものであること” を示しているようで、これもまた本作の「一期一会」というテーマを強調してくれていたんじゃないかな。


 今思えば、そんな些細な横断幕に目がいってしまったのは、他にも垂れ幕が印象に残る瞬間があったから。
 聡実が通う学校の校舎には、他の部の活躍を称えるような垂れ幕が掲げられていました。そこに書かれていたのは「全国大会出場」の文字。合唱コンクールの全国大会への出場を逃し、惜しくも銅賞に終わってしまった合唱部、しかもその部長を務めている聡実にとって、それはあまりにも残酷な垂れ幕だったかもしれません。

 先述した狂児とのコミカルなやり取りも同様ですけど、本作にはセリフ以外の方法で登場人物らの心情が窺い知れるような描写がいくつもありました。また、それらが決して難解ではなかったというのも、本作の観易さに繋がっていて良かったと思います。



 合唱部の練習風景や大会での合唱シーンなど、本来であれば聡実が立っていたであろう位置が空いたままになっていたのも印象的。
 (まぁ声量だとか声質のバランスだとかで、合唱の際の立ち位置はある程度決められてはいるんでしょうけど、)その空いた部分に他の部員たちが詰めたりすることなく、埋められていないままになっている様子を切り取って見せることは、その場に聡実が居ないことを示すという物語上の役割だけじゃなく、「代替が利かない」という特徴を際立たせることで、これまた〈青春〉の掛け替えの無さを同時に示していたようにも思えます。


 あと、「一期一会」、即ち「一度きり」ということで言えば「映画見る部」の存在も割と好き
「なんだ、その素敵な部活動は? 自分の学生時代にもそんな部活動があれば良かった笑」と思いながら鑑賞していましたが、文字通り映画を観るだけの部活動。ただし、VHSの再生デッキが壊れているせいで “巻き戻し” が出来ず、一度再生したら最後の “一方通行の映画鑑賞” のみ。そういった制約の中での映画との出会い、これもまた「一期一会」。

 そんな「映画見る部」は部員が1人と、聡実を含めた幽霊部員が6人という構成。そして残念ながら聡実らが卒業してしまえば廃部が濃厚なんだとか。実はなんやかんやあって、最終的には巻き戻しが可能になっているのですが、これもまた本作の後味を良くしてくれていたような気がしてならないんです。

たしかに〈青春〉はカラオケのように “延長できない” し、映画見る部、或いは映画作品そのもののように “いつかは終わってしまう” もの。けれど実は、“巻き戻し” のように想い出として振り返ることくらいはできる。そんなことを気付かせてくれるような締め括り。

 我ながらクサイ……というか無理やりな解釈をしている自覚もありますが笑。それでも、クライマックスの歌唱シーンの勢いのまま物語を着地させず、その後にわざわざ映画見る部の描写があったことで、本作の鑑賞後感が個人的にはより良くなっていたことは間違いありません。

 そんな余韻を噛み締めながらエンドロールを眺め、劇場の灯りが点くのを待っていたところに、ふと訪れた最期の最後のオマケもまた素敵でした。


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