【連載小説】波間を凝らす #09
白石ケン至
艶のない黒に近いネイビー。適度リクライニングしたいかにも柔らかく座り心地良さそうな椅子。それに似つかわしくないとも言えよう左右前後の履帯、転輪が多く室内向けもあってゴム製であろうその履帯。これが金属製であったならば相当な悪路でも乗り越えていけるであろうとルタイの妄想は広がったが、そのクローラーの背後から静かな声が耳に届き我に帰る
「ご自分で乗り移れそうですか。」
質問に無言で答えながら、タバコを吸いたいがためにこれを用意してくれたことに罪悪感が湧き上がって来、