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人類学的思考で観るということ

人類学というと、どうも日常や仕事からは遠く、ましてやビジネスとはあまり関係がないものと思っていた。

ジリアン・テッドによる「アンソロ・ビジョン」(アンソロとはアンソロポロジー(人類学)の略)はそんな認識や前提を覆してくれる。

今やマイクロソフトやBPなど、多くのグローバル企業において人類学的思考が取り入れられているとのこと。

これには本書で触れられている点も含めて、大きく3つ理由があると考えられる。

1.顧客の変化
2.働き手の変化
3・社会の変化

1.顧客の変化

従来のビジネスでは顧客は一様で、ある程度その動態を理解し、特定することができた。そしてそれにそってある程度固定化した生産ラインを作ったり、サービスラインを提供していればよかった。
しかし、近年、顧客(消費者)のニーズはよりニッチにかつダイナミックに変化してきているため、サービス提供者あるいはモノづくり側の視点だけでは、ビジネスとして回らないケースが続出し始めたこと。

2.働き手の変化

ビジネスがグローバル化するに従って、異なる文化的背景を持った人と一緒に仕事を行うことが増えたため、異なる人種やコミュニティへの理解や共感を求められるようになってきていること。これが適切にできないと、組織内、あるいはチーム内の業務に支障を来しかねず、最悪の場合、訴訟や離職者の増加にも繋がってしまうリスクがある。

3.社会の変化

VUCAと言われるように、社会環境が劇的に変化し、そのスピードも過去にないくらいに早く、複雑になってきている。
こうした状況において、適切な判断や意思決定を行うためには、可能な限りバイアスを除き、自己と他者を客観的に見つめる必要が出てきている。こうした観察を行うのに、文化人類学の思考法やメソッドが有効かもしれない。

こうして纏めてしまうと、そんなの当たり前じゃんかと思われるかもしれないが、医療機関や金融機関、IT業界など、多様なセクターの現場に足を運んで考察を重ねられてきた著者の分析は、是非本書で味わって頂きたい。

本書で紹介されている人類学的思考の中で、私が特に印象に残ったのは、「意味の網の目」を意識するというものだ。
これは人類学者のクリフォード・ギアツという人が語った

「人間は象徴化し、概念化し、意味を求める生き物だ」

「アンソロ・ビジョン」

という考えに基づいている。

私達は普段、意識しないままに様々な言葉を操っているが、そうした言葉の背景にある「意味」や「文脈」までは深く意識することがない。

こうした「意味」や「文脈」を深く理解することが出来れば、自分や他者が属しているコミュニティがどのような思考や文化を持っているのか、より解像度高く理解することができる。

これは勿論、一朝一夕で出来るようなことではないだろうけれど、他者への共感や理解が求められているような時だからこそ、学び、そうした観る力を高めていけたらと思う。


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