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【読書感想文】ドミノ 著:恩田陸

始めに

 人間が多いのは嫌いである。密集する満員電車も、人口過多の夏フェスも、出来るならば避けて生きたい。
 第一に考えてみたまえ。人が多い状態にはデメリットが多すぎるのだ。関係性の無い他人ならまだマシである。邪魔なだけだ。
 一方で、関係性のある人間が集まれば、この薄汚い顔で八方美人をしなければならない。気を遣った挙げ句、煮え湯を飲まされる危険と戦いながら。誰かが成功すれば、唇を噛みしめて拍手を送り、自分が上手くいけば、後ろ指を指される。そんな妬み嫉みと向き合いながら。とにかく面倒だ。

 しかし、だからこそ人が多ければ物語も多い。無数に絡まった関係性の糸を解していくと、幾重にも事件や事実が重なった重厚かつ壮大なストーリーになるのだ。

 今回は30に近い登場人物が、それぞれ主役級に活躍する小説になる。一人一人の行動が連鎖して、最終は一つのゴールへ向かっていく。まるでドミノのように。

 内容はそれほど言及しない。気になったら読んでくれたまえ。

紹介

 二七人と一匹の主人公。一人一人の無関係な人生が大きな事件に向かって倒れていくのが見所である。

人口密度

 本小説はとにかく登場人物が多い。文庫にして約360Pの中に二七人と一匹の主要キャラ。このページ数なら普通は二~三人程度。いかに多くの人生が本小説の中で錯綜しているのかが分かる。それでいて語り手や軸となる主人公もいない。バラバラの人生が、偶然にも大きな一つの事件へ集束していく。意図しない言動が、極めて不可解な状況を生むのだ。

個性的なキャラクター

 登場人物は多いが、それぞれの個性はくっきりとしていて面白味がある。仕事に追われ、大胆な行動を取る者。信念の元にテロを実行する者と止める者。恋愛に迷走する人々とそれを観察して賭けをする集団。来日した映画監督。人質にされた子役たち。簡単には説明しきれないキャラクターが、物語に詰まっている。

ドミノ

 舞台は東京駅。爆弾魔の立て籠もり事件。事件を通して読者は気づく。普段、何気なくすれ違っている人にも、これだけの背景と個性があるのだと。そして、何か一片のピースを倒しただけで、自らが巨大な渦に巻き込まれる可能性があるのだと。
 今し方すれ違った見知らぬ誰かと私は、同じゴールへ向かうドミノの一部として、お互いに影響を与えあっているのかもしれない。我々は、日常の一瞬を、全体の一つとして俯瞰的に見ざるを得なくなる。


 ──人生における偶然は、幾つもの出来事が重なった結果として生まれる必然である。

 読者諸君らの行動も、巨大な何かに繋がっているかもしれぬ。充分に気を付けて生きたまえ。ではまた。


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