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現代版の「歌物語」を追求してみる。

――現在、歌物語というジャンルと呼べる本が皆無に等しいように、和歌の親近感は時代と共に遠のいていきました。そこで僕は、現代版の「歌物語」をつくってみたいなと思い、新作『君はマスクを取らない』で実現しようと考えているわけです。


人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「現代版の『歌物語』を追求してみる」というテーマで話していこうと思います。


📚現代版の「歌物語」を追求

僕は今、新作『君はマスクを取らない』を制作しています。詩作りが好きな男子高校生と、いつもマスクをしている女子高校生が紡ぐ「言葉」の物語。お察しの通り、僕なりにコロナ禍を受け止めようと思い、作品の舞台にしています。

コロナを受け止める、も追求したい試みのひとつですが、その他にもこの作品の中で実験してみたいことがいくつかあって、そのひとつが「歌物語」です。

和歌をもとにした説話のことで、伊勢物語が一番有名なのかなと思います。

たとえば「東下り」。都から東国に向かう男の物語。同行者から旅の気持ちを詠めと言われて、「からころも 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」という句を詠んだ。各句の頭を順番に読んでいくと、そのとき目の前にあった「かきつばた」ということが浮かび上がります。この和歌を聞いて、同行していた人は、都を懐かしみ涙をこぼしたという話です。


昔の人にとって和歌というものが身近な存在だったからこそ、歌物語が成立すると思うんですよね。和歌で告白し、和歌で返事をする世界ですから、物語の中に歌が入り込むことに違和感がないわけです。むしろそれが自然なわけです。

ただ、現在、歌物語というジャンルと呼べる本が皆無に等しいように、和歌の親近感は時代と共に遠のいていきました。

そこで僕は、現代版の「歌物語」をつくってみたいなと思い、新作『君はマスクを取らない』で実現しようと考えているわけです。


📚「歌物語」である必然性

現代版の「歌物語」をつくる上で、問題になってくるのはその必然性です。歌物語は歌ありきで物語が作られるものだし、たいがい登場人物が詠吟するので、その必然性が担保されていたわけですが、同じように『君はマスクを取らない』でも歌物語である必然性がなければいけません。

簡単にいえば、主題歌やテーマソングを作るとは訳が違うってこと。


自分の作品を例に出すと、『初めましての恋』という作品にはテーマソングを作りました。今バンドをやっている高校時代の友達にお願いしたんですが、なかなかステキな曲に仕上がりました。いずれ公開しますね。

で、これはテーマソングなので、今回の話題とはずれています。作品の後につくったものだし、登場人物たちがこの歌に触れるわけでもない。なんなら登場もしません。

一方、小説『Message』にもテーマソングを作ったんですが、これは作中で触れていないわけではないんですね。新成人が家族に手紙を綴るくだりがあるんですが、その手紙の内容がそのまま歌詞になっているのです。

僕が実現しようとしているのは、どちらかといえば『Message』の方で、作中でも触れられるし、なんならそれが物語の根幹だったりする。そんな作品を目指しているんですね。

ただ、『Message』も作中の手紙の内容と歌が完全に一致するわけではないし、手紙と歌という区別がちゃんとついています。新作『君はマスクを取らない』では、両者の距離を限りなくゼロにしてみようと考えているのです。

歌物語である必然性をちゃんと追求していきます。別に大したことではありません。簡単なことです。詩を作るのが好きな主人公を設定すればいいだけのことです。
 
 
 
 

📚うた物語

今の僕らにおいて、「和歌」よりも身近に感じる「歌」といえば、洋楽とか邦楽とか、演奏を伴うものですよね。定義するのが難しいけれど、「音楽」とか「楽曲」とかそういった類。

もちろん音楽×小説の可能性は探り甲斐があるけれど、音楽は聴覚に依存する部分が大きいので、視覚に依存する小説とは相性がいいわけではないんですよね。歌詞を載せることになるんだろうけれど、それでは音楽と掛け算が成功しているわけではない。

そこで僕は、自分が「詩のような歌詞のような作品」を綴ってきたことを思い出しました。僕は詩のつもりで書いていたけれど、完成したものをみればどちらかといえばそこに音楽が乗りそうなもので、実際に他の人が曲をつけてくれたこともありました。

文学的な要素と音楽的な要素を併せ持つ「詩のような歌詞のような作品」は、現代版の「歌物語」と相性がいいと判断しました。


「詩のような歌詞のような作品」を「うた」と定義づけ、「うた物語」を創造する。新作『君はマスクを取らない』で追求することは、それに定まりました。


どんなものか想像しにくいと思いますので、最後に具体的に説明しますね。

主人公の男子は、詩(以下「うた」)が好きで、日々の経験から思ったことや考えたことを言語化するのが趣味だった。で、マスクを取らない女子との関わりを通じて、新しいうたが生まれていきます。それをそのまま作品に載せていく感じです。場合によっては、それが「楽曲」になったり、「ギフト」になったりします。物語の展開と紐づけることで、歌物語である必然性を担保しようという算段です。

各章でひとつ、うたを用意して、それに収束するような物語を綴っていきます。ちなみに、うたはもう既に完成しています(笑)最後の章の分までちゃんとあります。

中学時代からうたを綴り続けてきた僕だからこそできる挑戦かなと思います。昨日、第一章が完成したんですが、なかなか面白いものができました。はやく届けたい気持ちでいっぱいです。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20230207 横山黎




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