見出し画像

移民社会としての日本のあり方は「大相撲」が参考になるかもしれない

少子化による人口減少への対策の一つに「移民の受け入れ」がありますが、未だに移民に対して抵抗がある人も少なくないため、なかなか議論が進まないというのが現状かと思います。

とはいえ、その間に地方はますます過疎化して維持困難になり、国民的スポーツである野球でさえ競技人口が減少の一途をたどっています。

この中でいち早く外国人を受け入れ、外国人の力を活かすことで存続に成功した組織があります。それが江戸時代から続く日本の伝統文化にして国技の「大相撲」です。

ご参考までに「相撲」と「大相撲」の違いについて説明すると、「相撲」は競技そのものを指しており、「大相撲」はプロの力士による相撲の興行を指しています。アマチュア競技としての「相撲」は既に世界で普及しており、世界大会も開催されています。

 

ここまで進んだ大相撲の国際化

大相撲にあまり詳しくない方も、モンゴル人横綱の朝青龍や白鵬の名前は聞いたことがあるかと思います。

高見山に始まり、小錦、曙、武蔵丸とハワイ出身の力士が土俵を席捲してから久しく経ち、今はモンゴルを中心に東欧や中央アジアの力士も活躍しています。

また、一時は日本出身力士が優勝できない時期が10年間も続き、日本の国技でありながら日本人が勝てないという「ウィンブルドン現象」が起きていました。

この辺までの話は比較的に知られているかと思いますが、今はもっと進んでおり、42ある相撲部屋(2022年1月現在)のうち、経営者である親方が外国出身という部屋が何と5つもあります。

  • 高砂部屋(師匠:朝赤龍、モンゴル出身)

  • 友綱部屋(師匠:旭天鵬、モンゴル出身)

  • 武蔵川部屋(師匠:武蔵丸、ハワイ出身)

  • 鳴戸部屋(師匠:琴欧州、ブルガリア出身)

  • 荒汐部屋(師匠:蒼国来、中国内モンゴル出身)

この中では鳴戸部屋は琴欧州が立ち上げた部屋ですが、他は先代の親方から受け継いだ部屋になります。

部屋を持っていない外国出身の親方自体はもっとおり、更には現役の外国人出身力士も日本国籍を取得している人が何人もいるため、外国出身の部屋持ち親方は今後更に増えると予想されます。

ここで個人的に注目しているのは、部屋の後継者を指名するときは日本出身の候補者が居ても外国出身者を指名しているケースがあるということです(高砂部屋など)。

すなわち「大相撲」という伝統文化を継承していくうえで日本出身か外国出身かはもはや関係なく(親方の条件として日本国籍はありますが)、人間として対等に扱われているようになってきていると思います。

大相撲の極めて日本的な側面

一方で大相撲は未だに古くから続く慣習を守り続けています。力士は未だに「ちょんまげ」と「ふんどし(まわし)」という恰好であり、国技館に行くと土俵の上で江戸時代と変わらない光景を目にすることができます。

他にも大相撲にはコテコテの日本的側面があります。

例えば、力士同士の戦いは「あうんの呼吸」で始まります
ボクシングならゴングが鳴って「よ~いどん!」で始まり、アマチュアの相撲も審判の掛け声で始まります、大相撲は行司の掛け声はなく、力士同士が互いに呼吸を合わせて立つという高度なことが求められます。

とはいえ、実際に「あうんの呼吸」で立つのは難しいので、力士は自分のタイミングで仕掛けようとあの手この手を考えます。これが様々なドラマを生み出しますので見ていて面白いです。

また、横綱や大関への昇進は「空気」で決まります
一応大関への昇進は「直前3場所33勝」、横綱への昇進は「2場所連続優勝か準ずる成績」という目安はあるものの、実際は極めて柔軟に運用され、それこそ数字が足りなくても「昇進させよう!」という機運が高まれば昇進しますし、逆もあります。

これはこれで賛否両論を巻き起こすこともありますが、ファンはそれも含めて大相撲の面白さとして見ています。

そして大相撲では力士の名前を呼びあげるときに、四股名と出身都道府県に加え、市区町村までアナウンスされます。今でも「おらが町のお相撲さん」という感じて力士は郷土を背負って土俵に上がっており、十両に昇進でもすれば町長や市長はおろか、県知事まで出てきてくれます

ある意味日本の「村社会」が濃縮された姿があったりします。

外国出身力士に「日本人になれ」と言っているわけではない

ここまでの話は「外国人を日本に連れてきて日本人に同化させているだけじゃないか」と見ることもできます。

確かに東洋人だろうが西洋人だろうがポリネシア人だろうが力士になれば「ちょんまげ姿」にさせられ、関取になるまでは大部屋での集団生活を義務付けられます。

また、食事も基本はちゃんこ鍋を中心とした「日本食」になり、何よりも「24時間日本語オンリー」の環境に置かれます。

一方で外国出身力士に求めるのは「これだけ」とも言えます。外見や所作など、大相撲の伝統文化として継承してほしい部分だけは守ってもらうが、後は自由にしていいというスタンスです。

そのため、外国出身力士の振る舞いをめぐって摩擦が起きることがあります。最近では「白鵬の取り口」が大きな物議を醸すことになりました。

白鵬が繰り出す技に対して「横綱として美しくない、ふさわしくない」という批判がある一方、ルールには反しておらず「勝ちにこだわって何が悪い」という意見もありました。

相撲界にも明文化されていない「暗黙のしきたり」というのがありますが、外国出身力士にはなかなか理解しにくいものもあるため、所々で問題になることはありますが、相撲協会としては「ルールに反することでなければ黙認」というスタンスを取っており、それほど問題視はしていません。

古参の相撲ファンの中に「これだから外人はダメだ」という人はいるものの、相撲協会がそのような声に迎合していないところを見ると、決して「日本人に同化しろ」とは考えていないと言えます。

外国出身力士によって大相撲が進化した

私は高校生のころから大相撲に興味がありましたが、千代の富士が活躍した昭和後期、貴乃花が活躍した平成初期から比べると、モンゴル人力士や東欧出身力士が登場した平成中期以降は個性的な力士も増え、「勝ちにこだわる力士」も増えたので見るほうとしては結構エキサイティングだと思います。

また、一時期は日本人の若者の相撲離れが深刻でしたが、最近は日本人の若手でも有望な力士が増えており、次世代の大相撲を担う人材が日本から次々と生まれています。

個人的に一番興味深いのが日本出身の若い力士が、外国出身の親方の部屋を選んで入門しているということです。

200年以上を誇る大相撲の伝統を外国出身の親方が守り、外国人から日本人に継承していく姿は日本が今後生き残るうえでの一つのあり方かも知れません。

「守りたいもの」だけを守り、後は大胆に変える

一般的には大相撲を運営する日本相撲協会は「旧態依然」のイメージが強いかと思いますが、協会の歴史をひもとくと実は大胆に変化を受け入れた組織でもあることがわかります。

例えば野球やサッカーではごく最近から始めたビデオ判定をいち早く導入したのも大相撲であり、1960年代には既にビデオ判定を導入していました。

最近は「ポケモン」とタイアップしたり、はたまたYouTubeチャンネルを始めたりと新しいチャレンジを次々を打ち出しており、プロ野球やJリーグと比べても革新的な姿勢は強く、決して「旧態依然」とした組織ではないというのが実感です。

これはあくまで私の考えですが、大相撲は「守りたいもの」が明確にあり、それさえ守れば後はどんどん変えるという姿勢が江戸時代から今日まで生き残り、今後も存続していくための秘訣ではないかと思います。

少子化問題はもはや「待ったなし」ですが、もし積極的に移民を受け入れるとしたら日本の良さを外国人が継承していき、変えた方がいい部分は外国人によって進化させていくような形が実現できると、移民社会としての日本の未来も明るいのではないかと思います。

今回は私自身が大の大相撲ファンということもあり、ついいつもより熱が入りましたが、少しでも大相撲にご興味を持っていただけると大変うれしく思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?