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「生身の他人」との距離の取り方がわからない「コロナ時代の新入社員」の話

今月もいくつかの企業の新入社員研修に講師として登壇してきました。

ここ数年の新入社員の傾向でもありますが、今年特に強く感じたのは
「新入社員のお行儀がよい」ということです。

例えば講師が話しているときは全員がこちらに顔を向けてくれます。

ひと昔前なら講師の話を聞かずに隣の人と私語をしたり、よそ見したりする人もチラホラ見かけましたが、今年はそのような新入社員は皆無です。

ただし、「お行儀がよい」のはあくまで研修中の話であり、休憩時間になれば思いっきり「学生」に戻ります。(休憩時間といっても給料が発生しない昼休みではなく、給料が発生する講義の合間の10分間休憩のことです)

同期同士の会話が「学生言葉」になっていたり、スマホでゲームをしたり、あるいはだらしない恰好で寝るということもあります。
(企業によってはスマホを禁止しているところもありますが、多くはそこまでうるさく言わないので私どもも黙認します)

休憩時間になると緩むのは毎年のことですが、今年は特に研修中との落差が大きいと感じました。

この姿を見て一つの仮説が浮かびました。

それは「コロナで”赤の他人”とリアルな場で接する機会が極端に減ったため、生身の他人との距離の取り方がわからない」ということです。

ここで言う他人とは「自分たちの親しい仲間以外の人間」という意味であり、研修の場で会うだけの外部講師はもちろんのこと、この先職場で出会う上司や先輩も赤の他人になります。

そのような相手にリアルな場で対面したとき、相手が自分の言動をどこまで許容してくれるのかわからないため、「絶対に間違いを犯さないよう」極度に慎重な態度を取ってしまいます。

それが研修の場では「お行儀の良さ」として見えるというわけです。

ある研修では受講者の方から「職場の廊下ですれ違ったときに立ち止まって挨拶すべきか、それとも歩きながらの会釈でよいのか?」、「職場で自分の机を与えられたとき、机の上には何なら置いて良いのか(私物を置いて良いのか)?」といった質問があり、ひと昔前の新入社員なら全く気にしなかったような細かいことを心配していました。

この手の質問は「世の中色んな人がいるので相手による」という身も蓋もない回答しかできないのですが、”赤の他人”とリアルで接した経験が少ないとなると「色んな人がいる」という実感がどうしても持てず、自分が今までに経験した狭い人間関係の中で考えてしまいます。

そして、今年新社会人になる方は大卒なら4年間のうち後半の3年間はコロナで他人とリアルに接する機会を奪われたため、大学1年生までの人間関係がすべてという人も少なくないと思われます。

先ほど「休憩時間は思いっきり学生に戻る」と思ったのも、リアルな場で同期と会話できるのは大学に入学したとき以来のことなので「大学1年生のノリ」になってしまうのが根底にあるかもしれません。

そんなわけで、今年の新社会人は職場に配属されると上司や先輩との距離の取り方に戸惑い、気を遣わなくてもいい場面で不必要に気を遣い、逆に配慮が必要な場面で無頓着に振舞うことがあるかもしれません。

ただそれは彼ら彼女らが「未熟」というわけではなく、コロナで生身の他人と接する機会が少なかったことが背景にありますので、職場の先輩社員や上司の皆さんも大目に見ていただけると良いかと思います。

今年の新入社員はまだ大学入学時はコロナ前で良かったのですが、来年の新入社員は大学に入学した途端にコロナで人と接する機会を失ったため、新しい人間関係を築けないまま社会人になる可能性もあり、今年以上に他人との距離の取り方に戸惑うかもしれません。

それを見て「常識がない」とか「空気を読め」と言っても当人たちのせいではないので、私を含めて大人の皆さんは温かい目で見守ってあげるぐらいの気持ちで接したほうが良さそうです。

そんなことを感じた今年の4月でした。

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