「Ⅿ先生、学校やめたで」
昨年度、次女がお世話になった担任の先生が、小学校を辞めた。
次女から「Ⅿ先生、学校やめたで」と聞いた時は、驚きと同時に物凄くショックだった。
「なんでや、せっかく1年間頑張ったのに・・・」
くやしくて、Ⅿ先生に申し訳なくて、その後に続く言葉が無かった。
昨年4月に、次女の小学校に赴任してきたⅯ先生は、大学を卒業してすぐの、ピカピカの新任教員だった。
4月、最初の授業参観に行った私は、少し緊張気味ながらも、はきはきと授業を進めているⅯ先生に好感を持った。参観後の保護者懇談会においても、我々保護者との質疑応答にしっかりと受け答えしていた。私は、この先生なら子供を任せても大丈夫だろうと思った。
我が家では、私も相方も、夕食の時などに、子どもから毎日必ず学校のことを聞く。それは、長女の時から一貫していて、子供たちの方も、親から聞かれずとも、自分たちの方から、その日、学校であったことを、詳しく話してくれるのだった。
4月、5月ぐらいは、次女のクラスも落ち着いているようで、Ⅿ先生の授業も、わかりやすいと次女は言っていたように思う。
しかし、6月に入った頃からか、授業中、授業に集中しないで、私語をする子どもが出てきているようだった。残念ながらその後も、少しずつ私語や授業に集中しない子どもの人数が増えてきているようだった。
そのことについて、少しは心配になったが、「新任の先生だから、仕方がないか。いつか大きな雷を子供たちに落とすだろう」と、私も相方もあまり深刻には考えてはいなかった。
夏休みが終わり、2学期の授業参観が行われたのは、9月か10月だったように思う。
その授業参観に行った私は、クラスのあまりの変わりように絶句した。まさに「学級崩壊」と言っても過言ではないように感じた。教科書を開いていない子、私語をしている子、寝ている子。しっかりと先生の話を聞いている子供は半分もいなかったのではないだろうか。
次女から、授業中の様子を聞いてはいたものの、ここまでひどいとは正直思っていなかった。授業態度の悪い子どもたちを見ていて、私はだんだん腹が立ってきて、「先生の話をちゃんと聞け」と、怒鳴りそうになっていた。
実際に子供たちのが悪いことをしていれば、私は自分の子どもであろうと、よそ様の子どもであろうと注意する、どやしつける。見て見ぬふりはしない。それが大人の役目だと私は思っている。
だけど、Ⅿ先生の立場を考えると、出しゃばった真似はできなかった。参観中、ただただⅯ先生には申し訳ない気持ちでいた。
2学期の授業参観後、間もなくして、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだろう。Ⅿ先生は授業で大きな雷を落としたようだった。
「ええよ、先生。たまには雷、落とすことも大切や」と、Ⅿ先生を非難する気持ちは全く無くて、やっと気合見せてくれたかと、むしろ安心する気持ちの方が大きかった。
しかし、次女からの話では、Ⅿ先生が怒った後、2,3日はクラスも静かだったようだが、1週間も過ぎれば元の状態に戻っているとのことだった。Ⅿ先生の様子を聞くと、今まで通り授業はやているものの、授業態度の悪い子どもたちには、注意したりしなかったりということらしかった。
きっとⅯ先生も自分の問題点を理解はしているものの、あきらめの気持ちと共にどのように指導したらいいのか、わからなくなってきているのだろうと思った。
こういう時、保護者である私たちはどうすればよかったのだろうか。
自分の子どもに言って聞かせることはできるのだが、よそ様の子どもに対しては、それは難しい。授業態度の悪い子どもと書いたが、それは私の一方的な見方かもしれない。その子たちにはその子たちの言い分があるのかもしれないし、問題を抱えているのかもしれない。
また、保護者会を開いて話し合いをしたとしても、Ⅿ先生に対する糾弾会のような状態になりかねないし、保護者間に対立が生じるかもしれない。ほんとうに難しい。
私は次女からクラスのしんどい状態をその後も聞いてはいたが、ただ、次女には「できるだけⅯ先生に協力してな」というだけで、自分自身は何もできないでいた。
結局、半ば「学級崩壊」の状態が続いたまま、そのクラスは終了することになってしまったようだった。
この1年間、Ⅿ先生は、どれだけ泣いただろうか。眠れない夜が何度あっただろうか。朝、学校へ行くのが嫌で仕方ない日が、きっとあっただろう。そんなことを想像すると、Ⅿ先生には、本当にお疲れ様でしたという思いで一杯になった。
Ⅿ先生自身も、なんとか辛く厳しい1年間を、担任としてやり通せたことに少しは自信を持ったであろうし、また新たな気持ちで、新年度を迎えてくれるだろうと思っていた。
しかし、Ⅿ先生は、新たに4月を迎えることなく、3月一杯で小学校を退職してしまった。
残念で、残念で仕方がない。
新天地でのⅯ先生のご活躍をお祈りしたいと思う。
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