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夢のような魔法の恋をした第13話

『ロストバージンと
佐野リピート機能付きプチ同棲のはじまり』

1月
彼と彼女は
ジュンク堂で待ち合わせした後、ランチを楽しみ
デパートの屋上につながる階段に座っていた。

今日の彼女は、
おろした髪色は茶色のロングストレート
青緑色のノースリーブでタートルネックのファーニットに
黒色のスリットスカート、黒のヒールというちょっと背のびした出で立ち。

そんなスタイルに触発されたのだろうか?
黙って彼女を見ていた彼が
突然切り出した。
「Rちゃん、そろそろキスの先をしてもいいかな?」

心臓がドクンとして、身体より先に行きそうになる。
彼女はうつむいた。薄々感じてはいた。
初めてキスをしてから、何ヵ月も経っている。
2人きりになる度
我慢させていることは感じていた。

カラオケにいったときも
後ろから抱き締められた彼女は
彼のものが、熱くあたっていることも気づいていた。

今思えば、キスからの半年間位、よく我慢したと、彼を讃えたい。

彼女は17歳になっていた。彼は23歳。
色々考えてから、彼女は決心して、恥ずかしながら彼に伝えた。
「ハイ。」

その日、2人はひとつになった。

最中
彼女はその都度、新しい発見をした。
男性という性の真実
コンドームをつけるということ
異性の身体の逞しさを。

彼の優しさは、
彼女を少しの痛みで、またひとつ成長させた。
下半身の快感という感覚は、正直なかった。
でも、彼女は口づけが好きになっていたので

また、魔法にかけられていた。
夢の中にいるようだった。

彼とバイバイした帰り道、
彼女は
彼の性の希望を叶えられたことに、安堵していた。

結ばれた後の腰は、気だるいような
重いような、新しい感覚だった。
これが、初体験。。。
ひとつになれた嬉しさに包まれる。

想いを身体で伝えるということを知った。
彼女は再び、彼に焦がれた。

それから、彼からの連絡は途絶えた。

当時、彼女はDTPオペレーターのアルバイトを目指して
パソコンスクールに通っていた。
彼からの連絡はなくても、彼女は自分のことに集中しようと頑張った。
でも、メールをチェックする度に、ため息をつく。

(何か悪いことしちゃったのかな?)
(私の身体をみて、ガッカリされたのかな?)
考えれば考えるほど、悪い方へ進む。

その悪い流れは彼からのメールで止まった。

久しぶりにデートすることになった。

彼はアルバイトの後で、彼女はスクールの後だ。
久しぶりで緊張する彼女。彼は申し訳なさそうに話す。
「中々連絡しなくて、ごめんね。」
「ううん、忙しいんだよね。」
精一杯の笑顔で応える。

彼は意を決したような顔で話す。
「俺、大切にしたいんだ。」
「うん?」
展開が読めない。

彼は続ける。
「過去に付き合ってた彼女とね、すごくシテたことがあったんだ。」
「・・・。」
「ホテルの前で、待ち合わせすることもあった。」
「え。」彼女は突然のことで、驚いた。

「もう、そうはなりたくない。だから、Rちゃんを大切にしたいんだ。」
「うん。そうだったんだね。」
良くも悪くも、彼は正直者だった。真っ直ぐだった。

話は変わった。
「師匠から、佐野のスタジオの管理を月に1度くらい、任されたんだ」
「佐野?って、どこの?」
「栃木県の。」
「そうなのね。」
「車も貸してくれてさ、いま行き来してるんだ。」

「住み込む家もあるから、その家をいま住めるよう綺麗にしてるんだ。ゴ○○○ホイホイが捗るよ(汗)」
彼女は、今までの自分の悩みから安心したような、うろたえたような、
寂しいような気持ちになった。

「家が綺麗になったら、招待するよ。」
彼女の顔が輝いた。
「車があるから、時間みつけて、どこかいこうか?」
「いいの!? 嬉しい!」
早速、夜中のドライブに出掛けた。

彼女の知らない川の、大きな土手に車がとまった。
夜空の星がよく見える。
どちらかともなく、2人は手を繋いだ。
「キスしてもいい?」
「う、うん。」
そんなやりとりとは裏腹に、スムーズなキス。
エスカレートはしなかった。

彼は、そのまま彼女を家に送り届けた。
だが、そんなドライブもその時だけだった。

再び2人が逢ったとき、彼は辛そうな顔で話した。
「ごめん!車が廃車になった。オレ、本当にバカだ」
廃車というのはよくわからないが、事故が原因ではないようだった。
それでも、とても大変なことのようだった。

「そうだったのね。それじゃあ、佐野への行き来は?」
「そう、電車になったんだ。」
「そっか。」
辛そうな彼を、彼女は彼女なりに質問して慰める。
「Mくん、佐野にはスタジオがあるの?」
「うん。師匠のドラムセットがあるから、佐野にいる間はそれを使って、たくさん練習ができるんだ。」
「いいね!見てみたいなあー!」
「おう!見せてあげるよ!」

「もしかして、スタジオって他の楽器もあるの?」
「グランドピアノがあるね。ずっと調律してないけど。」
「そうだ!Rちゃんピアノ弾けるんだっけ?」
「うん。」
グランドピアノの存在に、彼女は内心はしゃいだ。
「弾くだけでも、メンテになるみたいだから
佐野にきたときには、触ってあげてみて。」
彼は笑顔になっていた。

その日の帰宅後、
彼女は家で、昔の楽譜を急いで取り出した。

グランドピアノが触れる!

抑えきれない衝動が彼女を駆け巡る。

話を彼女の中学1年生に戻しますね。

その日、ピアノ先生の先生(教授)に会って、
そこのグランドピアノに触った。
彼女が音大にいけるかの審査をしていた。
緊張して、いつものハノンを弾く。

教授は告げた。
「音大に入り、先生になりたいのなら、いまからグランドピアノで練習出来る環境をつくって、睡眠時間は3時間で頑張らないといけないけれど、できそう?」

彼女はマイペースだった。
美大系統の道とも迷っていた彼女は、勉強もがんばりたかった。
音大を出て、先生になれても生活ができるのだろうか?

母親は「口に困らない生活」を望んでいた。
何より、眠れない辛さを既に知っている故、払う犠牲が大きいのではないかとよく考えた。
辛かったが、音大を諦めた。
ピアノの先生に、音大ではなくピアノは趣味にしてはどうかと手紙で優しくとめられもした。

諦めた夢に、中途半端に関わるのは
当時の彼女は嫌だった。
新しい夢に全力投球したかったのだ。

そして、中学2年生の夏にはデッサンの夏期講習に参加した。
木炭や鉛筆で描く石膏像や静物は、彼女を悩ませ
技術的だけでなく、精神的にも成長させた。

学校や家庭のこと、色々なことが重なり
少しずつ、彼女の精神を蝕んでいったが。

ただ、金銭面でその美術予備校には通えなかった。
それでも、高校生のとき
春の講習だけに母は通わせてくれた。

話を戻しますね。

グランドピアノで弾く感覚、
発表会を思い出してイメージした。
家の電子ピアノとは異なる、弾くと身体全体に響く感覚。

彼女は教室を止めたとき、練習途中だった 映画「アラジン」のテーマ曲のコピー紙を取り出したり、習ってもいない弾きたかったバッハなどの楽譜を買った。そうはいっても、ピアノをあのまま習っていれば次の段階のものだ。

お手本を知りたい彼女はその曲のCDも購入した。
家の電子ピアノで練習を始めた。
佐野のグランドピアノで弾くために。

そして、閃いた。
佐野へサプライズで訪問して、彼を驚かせてみよう!

電車での行き方と、駅から佐野の家の位置関係は
なんとなく図面に書いてもらったりしていた。
彼女はまた、根拠のない勇気に支配されている。

目的地を知らずに、初めて地方へひとりで出掛ける。
ある程度の日にち分の荷物をもち、
彼女は朝早く、佐野駅を目指した。

久喜駅や館林駅など、普段利用しない駅を乗り換える。
知らない駅に、知らない人たち。
孤独を感じながら、頭の中は彼のことでいっぱいだった。
葛生行きという電車に乗れば、佐野につくところまできた。
そこまでの彼女のサプライズ計画は順調だった。

佐野駅に着いた。
地図を頼りに、彼女は当時の流行りの80年代の装いの
ミニスカートと厚底サンダルで歩き出す。
どうも、地図が読めていないようだった。

ほぼ勘で、大きな道路の方角を示す看板を頼りに
道路沿いを歩いていた。疲れが出始めた頃、小さな商店に入る。
「すみません。○○という場所はどちらでしょうか?」

気のいいおじさんは、驚いていた。
「そこにいくのかい?歩きなら30分はかかるよ?」
それを聞いて、茫然とする。
「この地図通りなら、ここの道を真っ直ぐいって、○○を曲がると、ジャスコがある。そこを右にずっといって、踏切をわたったあたりかな?」
「わかりました!ご親切にありがとうございます。」
「あまり、無理しないようにね。」

彼女は、地図が少しずつ見えてきた。
ここで、根を上げるわけにはいかない。
最後の気力をふりしぼって、歩く。
ジャスコについて少しの休憩のあと、また歩き出した。

辺りは暗くなり始めている。
踏切を渡って、トタンの屋根の家々を過ぎると
広い敷地に出た。いくつかの家と、1つ大きな家屋がある。
彼女は大きな家屋を通り過ぎて、明かりのついている家を選んだ。

正解だった。
家の鍵が空いている。
扉を開けると、彼のスニーカーが置いてある。
「わたし、空き巣ではないか?」と思いながら
2部屋繋がる畳の部屋と、キッチンとトイレ、お風呂を確認した。

部屋には、彼の好きそうな音楽のCDやレコードが整頓され、レコードプレーヤーが置いてある。
そう、彼はいない。
彼女は外に出て、なんとなく大きな家屋のかたい扉を開いた。二重扉だった。

スタジオに繋がる扉の奥からは、ドラムの音が聴こえる。
彼女は安心した。
家に戻り、疲れはてていた彼女は
サプライズのことを忘れて、畳にそのまま横になり、眠った。

どのくらい時間がたったのだろう?
物音がして彼女は目を覚ました。
「Rちゃん?!」彼の驚いた声が聞こえる。
彼女は、起き上がってその声に振り向いた。

「アハハ!来ちゃった。ってゆうか迷ったー!」
「マジびっくりしたー!よく来れたね!?」
「自分でもびっくりしてる(笑)お邪魔しまーす。」
彼は、笑顔で迎え入れてくれた。
「ずっと練習してたから、こんな時間だよ。」

時計は21:00をしめしている。
「夕飯たべよっか?」
「うん!」
2人はクタクタだ。
彼の母親から送られてきている段ボールから、缶詰めをだしてくれた。

佐野の家で、2人きりの夕食を食べた。
「お母さん、優しいね。」
「お袋に、いまだに心配させてるんだよねー(汗)」
「Mくんの夢を応援してるからだよね!」
「だといいんだけど。」

それから3日位、ふたりきりの生活をした。
朝、彼は起きたら直ぐに、必ずドラムを練習しにいく。
彼女は見送り、朝食の準備やスキンケアなどをする。
それが、定番になっていた。

はじめて、一緒に出かけた。
近くのジャスコでする買い物は
はたからみれば、多分カップルのようかもしれない。
2人は、デートの延長気分でそれを楽しんでいた。

「アルフォートって、好き?」
「俺も大好き! でもこういうのもいいよ!」
彼は、かあさんケットという、素朴なミルクビスケットと板チョコのファミリーパックを手に持つ。
「これを、ビスケットと板チョコで食べたり、それぞれで食べたり出来るよね?」
彼女は、工夫を凝らされたコスパのよい食べ方に
興味をそそられた。

「美味しそう!試してみよ?!」
「おう!」
家では、2人のどちらかがいると
常に音楽が流れていた。2人がそれぞれの好きな曲で、音楽を流していた。メインは彼チョイスの音楽。

彼女は音楽を流しながら、生活することが好きになった。
そして、彼の練習や彼の時間を邪魔しないように努めた。

次の日
ドラム練習が終わった彼は、ゲームセンターに彼女を誘った。
まずは、プリクラ!彼はキメ顔という変顔をする。
彼女も負けじと、変な顔で映る。
ちゃんと、笑顔に移ったものもあったはず。

そのゲームセンターには珍しく
流行りのダンス・ダンス・レボリューションの
True kiss destination(小室哲哉さんとDOSのアサミさんのユニット名)
バージョンのゲーム機が2台置いてあった。
小室哲哉さんが好きな彼女は、すぐに飛び付いた。

「Mくん、一緒にやってみない?」
「俺、初めてだよ?」
「初級クラスのから、慣らしていこー!」
2人は踊った。彼女のテンションは最高潮だった。
最後は、せっかくここまできたのだからと
いちばん難しそうな曲を選んだ。

言葉もなく、夢中で画面の矢印とリズムにあわせて踊りきった。
夏も近く、蒸し暑くて汗だくだった。

globeの横浜スタジアムLIVEの帰りに
姉と渋谷で、ダンス・ダンス・レボリューションを踊ったことがあった。
それとは、また異なって
好きなグループの曲で、好きな人と踊れるのがとても嬉しかった。

帰り際、彼は言った。
「これって、プチ同棲だね!」
彼女も同感だった。
「そうだね!改めて考えると、なんか照れる。。。」

その夜、2人はまたひとつになった。
真っ暗な部屋のはずなのに
月明かりが部屋を照らして、お互いの顔が見えた。
「Rちゃん、キレイだ。」
彼女は、照れて目をそらす。
彼の手が彼女の頭を撫で、2人は唇同士を重ねる。

彼と身体を重ねる度に、彼女はリラックスを覚え、
身体の快感を知っていった。
お互いの気持ちを確かめ合うことは、若い2人にとって
抑えるのが難しかった。

「ヤバい。リピート機能がついてる(汗)」
彼は言った。
セックスを始めると、とまらなくなってしまうことへの罪悪感のようだ。
それを聞いた彼女も、なんだか悪いことをしているような気がしてきた。

彼は、東京へ帰る日いつもこう言っていた。
「社会復帰、難(なん)。(汗)」
毎月、東京と佐野の生活での、時間の流れなどの違いに焦っていた。
「頑張ろうね!」彼女は焦る彼と自分を励ました。

彼女は、東京ー佐野間を毎月行き来するようになった。
彼に、佐野に行ったときには光熱費や食費を渡していた。
少しでも彼の役に立つように。
彼は感謝していた。

6月
彼女は、とある印刷会社に応募していた。
DTPオペレーターのアルバイトだった。
面接の日、最初に採用のための試験を受けた。後に判明したが、それはクレペリン検査だった。
その後、面接の順番を待つ。

男性が多い中、先の席に茶色の髪のショートの女性が見えた。彼女は少し、ホッとした。男性ばかりの職場でも仕方ないが、同性にはいてほしかった。

面接の順番がきた。扉を入ると3人の男性が座っている。
椅子の隣に立ち、3人に挨拶をした。
「どうぞ、座ってください。」

いちばん印象的なエピソードがある。
面接官の方が最後にある質問をする。
「あなたの短所は何ですか?」
彼女は必死に考え、正直に話した。
「そうですね。物事に集中すると、視野が狭くなってしまうときがございます。」

彼女はそのことだけ、面接の内容を覚えていた。
「採否については、1週間程度で、お電話にてご案内させて頂きますね。」

これで、よかったのだろうか?

試験と面接と、緊張の連続で
帰りの彼女はその言葉だけが浮かび、あとは脱け殻だった。

1週間は、あっという間だった。
彼女の携帯が鳴った。



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