彰山

横浜在住 本や音楽、料理、酒、アウトドア、動物が大好き

彰山

横浜在住 本や音楽、料理、酒、アウトドア、動物が大好き

最近の記事

リターン トゥー フォーエバー(15)

母屋まで戻って、ともあれシンハーを頼み、海に向かって座りビンを煽る ビールを飲むという行為はひとつの儀式だ 薄いクリーム色がかったような白の砂浜の向こうに巨大な岩が二つ まるで門の様にそびえ、その間に見える海は浅いせいか 船で見た生々しい海とは違い、透けた淡い緑と時折翻る白い波飛沫が 綺麗だった 「急に秋の色になるんだ」 湘南の海をやたらとバイクで走っていた頃、お盆のあたりで 急に海が秋の色になる気がして そしてその海の色を見る度に、あと何回夏が来るのだろうと 僕は思った

    • リターン トゥー フォーエバー(14)

      泊まるべき小屋が当たりなのか外れなのかは神のみぞ知るという所だろう だが小さく飾り気も無いが街のゲストハウスの部屋などよりも はるかに自然で気持ちの良い部屋と思える 木材で造られているせいもあろう ともあれ船とバス(?)を乗り継いで来た身としてはまず 荷物を降ろしてこの身を休めたい バックパックを降ろし、しばしベッドに座る これと言って自分の何かがまとまることも無く、財布を持って出かける事とする 財布とパスポート以外に貴重品は無いが、こちらにとって貴重品でなくても 海外では

      • あるバーテンダーの休日

        バーテンダーを生業とする私は月曜から土曜まで 独りで切り盛りする我がバーでお客様に良い時間を過ごして いただく為に心を砕きます お客様がどのくらい飲んでこられたのか、疲れていらっしゃるのか 話したい事があるのか、音楽の好み等々 言葉を交わすことなくそれらを読み取り頭を巡らせ その方の為の時間と空間とお酒を作り上げてゆきます あるいは私の理想とするバーテンダーの仕事は 最大限のインプットからの最小限のアウトプットと言えるかも知れません そんな私はお休みの日曜にどのような酒

        • リターン トゥー フォーエバー(13)

          ともあれ、宿泊の手続きをしなければならない バスを降りた僕は中央の大きなゲストハウスの様な建物へ向かった 建物に入ると日陰のせいで薄暗く、そこはやはりゲストハウスの作りである カフェ兼食堂となっていた 結構な広さがあり、食事時でもない午後のせいか客は僅かだった そしてそれらしきカウンターに行き、スタッフの女性に宿泊の旨を告げる 幸にして部屋はあり、1週間の滞在が決まり一安心する (これであのバスに乗ってすごすごと帰るのはあんまりだ) 部屋は26番、それは建物の中では無く 母

        リターン トゥー フォーエバー(15)

          リターン トゥー フォーエバー(12)

          辿り着いた場所 辿り着いたという気持ちが強く湧き上がる 今まで何処に行こうとも何も誰も待っていなかったこの旅で 初めて意味のある到着だった たとえそれが自分の一方的な思い込みだとしても そういう意味ではこの旅を始めてから初めての目的地と言える 電車やバスや船で知らぬ国のあちらこちらの町や村を無為に巡り 海で、露天で一人ビールを飲み 怪しげな若者に声をかけられ 西洋人の旅行者や地元の娘たちに話しかけられ 独房のような狭い部屋で形ばかりのベッドで横になって その挙句に 日本か

          リターン トゥー フォーエバー(12)

          リターン トゥー フォーエバー(11)

          over the hills and far away トラックが大きく揺れる 傾斜も加わる、跳ねるほどに揺れる 右へ左へ前へ後ろへ揺れるその度に振り落とされないよう 荷台の縁を必死で掴む その道行は舗装どころかただの山道だった 山を越える道なので勾配もあり、到底車が走るように整備しているとは 言い難いため驚くほど大きく揺れる ただの鉄板の荷台に乗っているためクッションも無く 余計にそう感じるのかも知れない 日本ではあり得ない体験に少なからず僕は動揺した 落ちたらどうす

          リターン トゥー フォーエバー(11)

          ゴーヤのあった夏

          横浜市在住の自営業者ですが 庭が広いので野菜を作っています 夏はナス、キュウリ、ピーマンなどを育てて食べていますが 今年の夏の尋常で無い暑さのせいか ほぼダメになってしまいました 特に採れたてのキュウリというのは実に美味しいもので 朝採ってそのままかじったり 休みの日に梅キューにして冷酒を飲むと最高なので実に残念です (梅干しも自家製です) そのような状況の中、新しく開墾した一角に花を植えるつもりでしたが なんとなくゴーヤを植えたところ さすが沖縄生まれ!というべきか暑さ

          ゴーヤのあった夏

          リターン トゥー フォーエバー(10)

          二つめの島 リュックを背に桟橋へ降りる 予定していた目的地を通り過ぎ、名も知らなかった島へ辿り着いた 元々、どこへ向かえば良いのかも解らずマレー半島を南下してきた僕にとって それは不思議に良い気分だった 知らない場所 誰でも無い自分 逃げて来た 共に過ごした場所から 意味の無い世界に何かしらの意味を見い出すように 無意識の自分に主導権を委ねるように 不条理な事象をただ在るがままに 自分の感情は怯えた小動物が巣穴に引き篭もるように 少しばかり奥まった所で傷つかないよう小さく

          リターン トゥー フォーエバー(10)

          リターン トゥー フォーエバー(9)

          You’re everything 2 「君が全て…」 突然謎の死を遂げた兄弟分 僕達は同性愛者ではないが 互いを必要としていた、と思う もしくは僕だけが彼を必要としていたのか 少なくとも僕の孤独をその明るさで救ってくれたのは彼だ そして他の友人との橋渡しになってくれたのも彼だ 学校を出てしばらくは一緒のバイトをしながら都内の彼のアパートで ほぼ同居していた 若さゆえに毎日飲んだ その日暮らし 何者でも無いというのは何と楽なものだろうか 持て余した体力と何の根拠も無い愚

          リターン トゥー フォーエバー(9)

          リターン トゥー フォーエバー(8)

          You’re everything ぬるい海風を受けて髪が顔に纏わりつくのを幾度も手で払う 海の色は変わらず生命の根源のような淡い緑、波は無くゆるいうねりがただ拡がる 日差しの中、僕は再び船のデッキに居た 最初の島での雑事を済ましてしまえば最早心は次の島に向いていた 別に彼女と何の約束もしていないにも関わらず僕の心には強い目的意識があった 多分に自分勝手な目的意識 彼女が自分の事をずっと待っているかのようなエゴイスティックな想い それでも良かった どれだけ自分勝手でも目的

          リターン トゥー フォーエバー(8)

          リターン トゥー フォーエバー(7)

          シンハー 僕はシンハービールを飲む 海は暗く色は見えない 幾つかの小さな漁船が白く見え、軋む 湿度は高いが海の夜のせいか不快とは思わない 既に少しぬるくなったシンハービールを飲む 波打ち際の音 境界を失った海かもしくは空 遠く届いてくる喧騒 一人 どこに向かうのか どこに帰るのか そもそもどこに居るのか わからないままビールを飲む

          リターン トゥー フォーエバー(7)

          リターン トゥー フォーエバー(6)

          半身(2] 部屋を出た僕は、外にいた数人の知り合いと話をする気分でもなかったので ひとまずその場を離れた 一人、ハマと呼ばれる男が僕について来て 「公園で飲もうぜ」と言った カップ酒を買い、近くの公園で飲んだ 兄弟分はスクーターの事故で死んだ 友人のところで飲み、普段は飲酒運転をしないはずだが 何故かその日は大丈夫と主張して帰ったという そしてもう一つ普段と違う事があった 都内に住む彼が横浜に住む僕のところに1週間ほど前 急に遊びに来た事だ 二人で飲み、僕のところに泊ま

          リターン トゥー フォーエバー(6)

          リターン トゥー フォーエバー(5)

          半身 「なにふざけてんだよ」 ドラマでよくあるような陳腐な言葉を、本当に言うものなんだなと やけに冷めてる自分の姿が少し斜め上から見下ろした視点で実際に視えた 後から思えば不思議ではある、魂とかいう物が半分出てしまったのだろうか 「起きろよ」 そんな言葉くらいしか出て来ない 涙も出ない 現実に感情が追いついて来ない 霊安室には彼と僕しか居なかった 居なかった?彼と僕はそこに居たのか? それは彼なのか? もうあの笑顔を見せてはくれない 兄弟と言いあってビールで乾杯する

          リターン トゥー フォーエバー(5)

          リターン トゥー フォーエバー(4]

          最初の島 桟橋にいた逮捕者達と共に、彼女やジョーを乗せた船は去った 僕にとっては辿り着いた瞬間に「通り過ぎるべき島」になってしまったが 一泊か2泊はする事になるのだろう ならばまず旅の定石、宿を探す事だ 中心部とおぼしき方面へ足を向ける、海には小さな漁船が並んでいる 日本でいう小さな漁船よりも小さい、原始的な漁なのだろうか 眩い陽光に照らされて、この島は小さく白い建物が多かった 人はあまり多く歩いていない、昼のせいか? 桟橋から程近く、中心部らしき一角 小さな飲食店や宿が

          リターン トゥー フォーエバー(4]

          リターン トゥー フォーエバー(3)

          3 一時の別離 島が見えてくる、出港から30分くらいだったろうか この島に寄港し、更に次の島までがこの船のルートであり 彼女やジョーは次の島にゆく 僕もそうしたかったがこの国での長期滞在のため 銀行や郵便局のあるこの島に立ち寄る必要があった 桟橋がいよいよ近づくと、逮捕されているらしい若者が何名か見えた ドラッグだろう 船に乗せられ強制的に退去させられるのだろうか 眩しい日差しの下、まるで陽炎や蜃気楼のようにその風景は 現実味も不安も抱かせず 僕は彼らにほとんど何の興味も

          リターン トゥー フォーエバー(3)

          リターン トウー フォーエバー (2)

          2 ジョー その船の甲板で親しくなったのは彼女の他にもう一人いた 彼の名はジョー、ドイツ人 背が高く、金髪を後ろで結びサングラスをかけたサーファーのような印象 気軽に声をかけてきた、明るい男だ アジアで英語を教えると言う事で給付金をもらい、旅していると言う 「それはスマートだ」 「ノー、こう言う時はクレバーと言うんだぜ」 彼の言葉や笑顔には彼女や、そしておそらく僕にあるような暗さが無い 僕は彼に少しの嫉妬を覚え 灯りに向かう昆虫の様に、それ以上に惹きつけられる魅力を感じ

          リターン トウー フォーエバー (2)